2014/10/10
去る10月10日、トーランスのMiyako Hybrid Hotelで、第175回JBA特別政治経済セミナー「アメリカの中間選挙の見通しと政治・経済への影響」を開催した。講師は『マガジンBridge USA』編集主幹の加賀﨑雅子さん。「中間選挙とはいったい何か」という基本事項を押さえながら、「選挙がアメリカに及ぼす影響」「中間選挙の位置付け」の他、今回の争点や展望について解説した。
中間選挙の概説と民主・共和の勝敗
中間選挙とは大統領着任後2年目に開催される選挙で、投票日は11月の第一火曜日。今年は11月4日がそれに当たる。中間選挙では、①任期2年の下院議員全員(定数435人)、②任期6年の上院議員の約1/3(定数100人で今回は36人)、③任期満了の州知事の3職が改選される。
「4年前の中間選挙では、オバマ政権の民主党は共和党にほぼ完敗。上院では過半数を維持したものの、下院は過半数を失いました。これは、それまでのオバマ政権の評価が低かったことを意味します。今回の中間選挙でも現政権への評価が下ると共に、残る2年の任期と2016年の次期大統領選挙を占う目安になります」と、加賀﨑さんは今回の中間選挙をこう位置付けた。
オバマ政権の最大の実績は医療保険改革のオバマケアだが、この評価はいまいち。さらに景気回復も実感できる成果に結びついていないなど、民主党は現在不利な状況だ。こうしたことから加賀﨑さんは、「今回は共和党に軍配が上がるでしょう。しかしこれは共和党の人気が回復したのではなく、オバマ政権への不信から共和党に票が流れる形です」と語り、「下院で過半数を割っている民主党が議席を奪回するのはかなり困難です。アメリカの有名各紙も民主党の躍進はほぼ絶望的と評しており、むしろ上院の過半数まで持っていかれるのではないかという見方が優勢です」と付け加えた。
今回上院で改選される36議席の現在の内訳は、民主21議席、共和15議席。6議席奪えば共和党が多数派となる構図だ。うち3議席はすでに共和党に転ぶとする予測があるほか、共和党の議席増を確実視する研究チームもある。
とは言え、共和党も安心材料ばかりではない。ケンタッキー州では接戦が予想されており、民主党がやや優勢。アラスカ州、コロラド州、ノースカロライナ州、アイオワ州、カンザス州では両党が拮抗し、これら5州の動向で今回の選挙結果は読めるという。特にノースカロライナ州については、ここで勝った党が上院で勝利すると加賀﨑さんは予測する。
一方下院では、前述の通り民主党の過半数奪回はほぼ絶望的と加賀崎さんは見る。オバマ大統領の平均支持率は40%前半で低迷中であることからも民主党の勝利はないだろうとした。また富裕層との所得格差が拡大しているうえ、オバマ大統領の支持基盤である中間層の収入は伸び悩んでいることから、彼らの不満は増大。現在、民主党は彼らの支持を取り付けにくい状況で、票は共和党に流れると予測した。
選挙のトレンドはインターネット
アメリカは参政権が与えられる年齢になっただけでは投票できず、事前の有権者登録が必要となる。日本同様アメリカも投票率の低下は問題であるため、この有権者登録数をいかに上げるかが急務となっている。例えば有名歌手を呼んでコンサートを開いたり、友人を連れて登録するとそうしたアーティストの楽曲がもらえるなど、非常にアメリカらしい方法で登録者数の増加策が取られている。また、中学・高校などでは授業で模擬投票を取り入れて学生に政治への関心を促すなどしている。
最近のトレンドは、インターネットを使って登録者数を増やすことだ。特に投票離れが著しい若者をターゲットにするならITの利用は欠かせない。加賀﨑さんによると、アメリカでネット選挙が盛んになったのは、2004年の予備選挙で民主党のディーン候補が積極的にネット選挙を取り入れてからという。献金集めにしても同様で、この頃にクレジットカード決済による献金が簡単になり、若者から10ドル、20ドルという少額の献金を集めやすくなった。
これをさらに発展させたのがオバマ大統領だった。08年にはディーン陣営からスタッフを雇い全面的にネット選挙を推進。同時にSNSも立ち上げて支援を呼び掛け、献金額の最新情報などを公開。Eメールを駆使して追加献金なども呼び掛けた。その結果、献金総額の実に51.7%が200ドル以下の小口献金で、その大半がインターネットから集まった。さらに12年の大統領選挙では全体の60.9%にまで増えたという。
オバマ不人気と移民問題の関連性
『Washington Post』の世論調査によると、オバマ大統領の職務遂行を失敗と考える人は52%。「経済政策」「医療保険制度」「移民政策」「外交」のどれも評価しないと考える国民は50%以上もいるという。オバマ大統領のこうした不人気度は、ブッシュ元大統領を超える勢いだそうだ。
不人気の理由はさまざまだが、最近ではオバマ大統領の夏休み問題に批判が高まっている。「この夏、オバマ大統領は2週間の長期休暇を取りました。アメリカですから休暇を取ること自体は問題がないのですが、米軍によるイラク空爆が始まるなど国外情勢が緊迫した時期の長期休暇でしたので、さすがのアメリカ国民も大統領に不信感を抱きました。さらに相変わらずのゴルフ三昧。テレビでも頻繁に大統領のゴルフシーンが放送されました。イスラム国によるアメリカ人ジャーナリストの斬首事件に対して非難声明を出したものの、その場所がゴルフ場でしたから、こうした姿勢が大統領の不人気に拍車をかけましたね」と加賀﨑さん。
また、移民政策におけるオバマ政権の迷走も不信感の原因になっているという。最近では、保護者に付き添われず不法入国する子どもの急増が問題化している。こうした子どもの不法移民数は、13年10月から14年7月までで5万7千人。前年比で倍増している。子どもだけで越境する主な理由は貧困だが、ギャングによる恐喝から逃れるための越境も多い。基本的に、アメリカ国境警備隊に保護されてしまうと本国への強制送還となる。しかし、逃げてきた移民を国に戻してしまうと命に危険が及ぶため、人道問題に発展する可能性がある。
これまで移民保護政策を打ち出していたオバマ大統領は、以前、不法入国を試みる子どもたちのための医療費や国境警備強化のための費用として37億ドルを議会に要求したが、下院多数を占める共和党は「大統領の移民政策の失敗が事態を招いた」として抵抗。また世論も「アメリカは移民の国だが、法律を順守して不法移民を取り締まり、保護した場合は送還すべき」という向きに動いたため、オバマ大統領はグアテマラやホンジュラス、エルサルバドルなどの南米諸国に対して、子どもであっても強制送還する方針を明言。自身が標榜する移民保護政策を根底から覆す結果となった。さらに、オバマ政権が国外に強制退去させた不法移民の数が過去最多となったことも相まって、オバマ大統領を支持していたヒスパニック系は反発。マイノリティーの民主党離れはすでに始まっており、彼らの票がどこに流れるかは不透明になっている。
最後に選挙資金の話題に移った。アメリカでは選挙に巨額の資金が必要だが、その大半を企業献金でまかなっている。中でも突出しているのが金融業界、つまりウォールストリートからの寄付である。ウォールストリートは伝統的に共和党寄りと言われるが、08年の大統領選挙ではオバマ人気が高かったこともあり、共和党向けより民主党向けの寄付がやや上回った。しかし現在はオバマ不人気。6:4で共和党向け献金が多くなっているという。
金融機関が共和党寄りである理由を、加賀﨑さんはこう解説した。「歴史的に、民主党は経営の負担となる金融規制をゴリ押しし、それがウォールストリートの癇に障ってきたからです。上院で多数を占めた党は銀行委員会の委員長ポストに就けますので、当面ウォールストリートが望むのは、上院で共和党が多数を取って銀行委員長ポストに就任し、金融規制に絡む法案起草に発言力を強めてほしいというものです」。こうしたアメリカの巨大金融業界と政治の裏話に、参加者らは興味津々に聞き入っていた。