JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2014/10/31

企画マーケティング部会 第176&177回JBAビジネスセミナー「L1ビザ駐在員、J1ビザ研修者雇用企業への立ち入り監査について」

第176/177回ビジネスセミナー このほど移民局が、L1ビザの雇用主に立ち入り監査の実施を発表。同時に国務省もJ1 研修ビザの受け入れ企業への監査を開始した。これらを受け、去る10月31日と11月6日にビジネスセミナー「L1ビザ駐在員、J1ビザ研修者雇用企業への立ち入り監査について」を開催。移民問題を専門に扱う冨田有吾弁護士を迎え、不明点の多い監査内容やその対策方法について解説した。

J1ビザの歴史的背景と申請過程について

セミナーは職業研修用のJ1ビザの話から開始された。元は大戦後の冷戦下で世界の人にアメリカの良いところを理解してもらうことを目的にしたビザで、親米化政策の一端を担っていた。
企業が直接関係するJ1ビザの種類に「インターン」と「トレーニー」がある。その違いを冨田弁護士はこう語った。「インターンは、在学中、もしくは卒業後1年以内に取得するビザで期間は最長1年。経験の浅い学生を社会で通用する人に育てるための文化就業研修の意味を持ち、研修分野は多岐にわたります。ただし、①専門性が不要な単純作業、②子どもや老人のケア、③メディカルケア関係、④20%以上が事務やアシスタント業務の仕事、⑤現地社員の代行などは研修が認められません」。

これに対しトレーニーは、大学・短大卒業後に1年以上の職歴、高卒の場合は5年以上の職歴がある人が対象で、期間は18カ月。専門分野での高等知識・技術を養うため、米国でOJT(On the Job Training)を伴う研修を受けられる。認められない研修分野はインターンと同様だ。
J1ビザは国務省管轄だが、申請者が膨大なため外部の「J1認可団体」に審査を委任。その団体が申請内容の確認や研修先への訪問・面接などを行う。一方、研修先企業への抜き打ち監査は、国務省管轄のBureau of Educational and Cultural Affairs(ECA)の一部門であるOffice of Private Sector Exchangeが担当している。

J1ビザの申請は次のように進む。
①J1認可団体での手続き:認可団体に研修予定や条件を申請。面接を経てプログラムが認可されると「DS-2019」を発行。
②大使館・領事館での手続き:「DS-2019」と「DS-7002」(認可済みトレーニングプログラム)を持参してアメリカ大使館・領事館で面接。許可後J1ビザが発給。
③ビザ取得・アメリカ入国:J1ビザとDS-2019、DS-7002を携帯しアメリカに入国。
④入国後:72時間以内に認可団体に入国の事実と滞在先を連絡し、J1ステータスを有効化。
⑤滞在中:毎月認可団体に研修進捗状況を報告。半期、および研修終了前に査定を提出。研修中に米国外に出国する場合は認可団体に連絡し、事前にDS-2019に渡航裏書手続きを完了しておくことが必要。
⑥研修終了後:DS-2019記載のプログラム終了日から30日以内にアメリカを出国。30日間は帰国のための準備のため、研修継続は不可。
 DS-7002とは「研修期間中の研修監督者の名前」「給与の有無や金額」「プログラム内容」などを記した書類で、J1審査段階で認可団体に提出。抜き打ち監査ではこの内容に沿って質問をされるため、研修先企業はDS-7002の内容の把握が重要だ。

監査時の注意点と監査後「不適切」と判断された場合

監査時間は状況によって15分から1時間程度。通常はDS-7002記載のトレーニング内容を提示するよう指示される。また、「インターン」や「トレーニー」以外の肩書きで現地社員の代わりとして就労していないかをチェックするために、研修生の名刺や組織図の提示が求められる。さらに、給与の有無や金額、研修内容がDS-7002の記載内容と異なっていないかなど多様な質問をされる。「企業はJ1手続き担当者を任命して日頃から監査に備えるべき」と冨田弁護士。また、質問に答えられない場合は後日返答する旨を伝え、弁護士や認可団体に連絡するよう説明した。
監査の結果、J1研修が「不適切」となった場合について、冨田弁護士はこう解説した。「国務省から認可団体に『不適切』の連絡が行き、認可団体がJ1ステータスをはく奪します。そうなれば研修生は即出国しなければならず、その後のビザ申請にも支障が出るでしょう。企業側も研修先として認可されなくなるだけでなく、偽証罪などの刑事告発の可能性を抱えることになります」。

L1Aビザの監査で注意すべき8項目

L1ビザ保持者の企業を監査するのは、国家安全保障省の移民局詐欺調査部門(FDNS)。現在はL1A管理職の更新申請時のみが監査対象だが、今後の対象拡大の可能性は否定できない。監査対象企業は、親会社の所在国や地域、業種、規模などに関係なく無作為に選択される。
 監査では、詐欺調査教育を受けた専門家が事前告知なしで会社を訪問し、申請書の署名者に面会を求める。場合によっては就労者との面会を求めることもある。また、対象のL1A管理職だけではなく、同じ会社で同種のビザを保持する複数人に面会を求める場合もある。こうしたときに同種のポジションで同じビザを所持する人が複数いれば、それが問題化する可能性もあるという。
 調査内容は、①雇用主の存在や営業事実の有無、②勤務地が申請時と合致しているか、③申請通りの勤務時間・給与額かどうか、④W2やPaystubsの確認、⑤就労者の名刺確認、⑥ビザ申請費の負担者の確認、⑦申請通りの業務を行っているか、⑧会社組織に対して管理職の仕事が現実的か、などである。⑥については、通常L1ビザは企業が申請費を負担するが、違法にビザを取得させる企業は申請者に負担させる場合があるためである。⑧では、上司や部下の有無やその人数、組織図と指示命令系統の適合性を確認する。

抜き打ち監査を乗り切る日頃の対策とは

監査内容が「Not-Verified」(不適切)とされた場合、あるいは判断が付かなかった場合は、監査官は移民局に報告。移民局は「Request for Evidence」(追加書類請求)や「Notice of Intent to Revoke」(許可撤回予定の通知)を出す。監査により悪質と見なされた場合、刑事捜査の対象にもなり得る。こうした事態を避けるために、冨田弁護士はこう力説した。「監査時は人事担当者やビザ申請署名者、およびL1A就労者など関係者以外は対応しないでください。雇用主は監査に対応する担当者を配置し、受付にも監査の可能性を説明しておきましょう。また、いつ来ても対応できるよう申請書類をきちんと保管しておいてください。特にビザ更新の際は、合法就労確認書類『I-9』も同時に更新することを忘れないでください。未更新のI-9のままだと企業の合法就労確認義務が果たされていないことになり、発覚すれば罰金の対象となります」。
監査時に面倒になるのが申請内容の変更である。しかしH1Bビザとは違い、L1Aは勤務地や住所、給与額、ポジション、業務内容、部下の数や種類、組織(合併や株)などに変更があった場合でも、大きな変更でなければ移民局に報告する必要はない。だが主観的な判断となるため弁護士に相談してほしいとした。

これまでアメリカの景気が良好でなかったことから、移民政策は厳しく取り締まられていた。実際オバマ大統領は、不法移民を強制送還するなど強い態度で臨んでおり、合法的な就労ビザについても引き続き厳しい監査が行われると予想される(セミナー後、Executive Actionが発表され、強制送還についても一部方針が変更された)。現在はJ1、H1B、L1Aの更新が監査対象だが、今後はその対象が拡大する可能性も大きい。そうした現状を踏まえ、冨田弁護士は最後にこう締めくくった。「一度社内の関係者で監査の重要性を正しく理解してください。ビザを申請・取得する際は現実に即したポジションでの申請を徹底し、長期的な観点から人事配置を考えてください。また、現地アメリカ人の採用とのバランスも重要です。ビザ就労者は特定のカテゴリーに偏らず雇用するなど、多様な人事を心がけてください。そして日頃から抜き打ち監査があることを想定し、移民関連書類の保管や整理を怠らず、申請内容に変更があった場合は正しい処置を取るよう注意してください」。

冨田 有吾 弁護士[講師]
冨田 有吾 弁護士
1998 年カリフォルニア州弁護士登録。向井法律事務所、立川法律事務所を経て、2001 年にTomita Law Officeを設立。ビジネス系移民法の専門家として、主に日系企業のビザ法務業務に携わっている。

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