JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2015/2/27

第181回JBAビジネスセミナー 「日系企業と米国税務戦略・米国駐在員が把握しておくべき税務プランニング」 報告

去る2月27日、トーランスのToyota USA Automobile Museumで、第181回JBAセミナー「日系企業と米国税務戦略・米国駐在員が把握しておくべき税務プランニング」を開催した。KPMG LLPロサンゼルス事務所から2人の専門家を招き、在米日系企業が税務プランニングを策定する上で考慮すべきポイントから、米国法人税務および移転価格税制の最新動向までを解説した。

第1部
所隆行氏
[講師]
所 隆行 さん

KPMG LLPロサンゼルス事務所、連邦税グループ・シニア・マネージャー。2004年の入所以後、主に西海岸に進出している日系企業に対して税務コンプライアンス、税務アドバイザリー、税効果会計のアドバイスを提供。米国公認会計士(カリフォルニア州)。

日米の高い法定実効税率 タックス・プランニングが肝

国が変われば法人税も変わる。所さんは「在米日本企業における税務戦略の重要性」というテーマで、まず日米両国の法人税法定実効税率の違いを解説した。米国における現行の法定実効税率は、連邦税35%と州税約5%(連邦税における州税控除の影響を考慮後)を合わせた約40%。オバマ大統領が掲げる改革案には、連邦税を28%、製造業の場合25%まで引き下げると盛り込まれている。一方、日本の法人税率も2011年までは40%程度であったが、現行35.64%まで引き下げられた。さらに、日本政府が14年に発表した「経済財政運営と改革の基本方針」には、法人実効税率を今後数年以内に20%台まで下げていくことが明記されている。しかし、日米両国の現行の法定実効税率を、他国と比較すると依然として高い。「西欧諸国の多くは20~30%程度。日米が法定実効税率の20%台への引き下げを急いでいる理由の一つとして、欧州とのギャップを埋め競争力を維持することが挙げられます」。
 続いて紹介したのは、日米企業の実効税率比較。多くの大手日本企業が30~40%であるのに対して、米国の各大手企業は総じて20%台。米国の税率が40%でありながらこの数字を保っているのは、タックス・プランニングによる成果。しかし、「日本企業が同様のタックス・プランニングを実行し、米国企業並みに実行税率を引き下げることは、日本の税制上の制約から現実的には困難を伴います」と所さん。日本企業にはハンディがあるが、可能な範囲で十分にタックス・プランニングを行うことが重要だ。

子会社の海外での節税計画がグローバル実効税率削減に貢献

日本では、09年4月の税制改正により、従来の外国税額控除制度から国外配当免税制度へ移行。旧制度(外国税額控除制度)においては、海外子会社がプランニングを行い実行税率を引き下げても、海外の利益を日本へ配当として還流した時点で、トータルで見た実効税率は日本の税率に収斂してしまっていた。これに対して、新制度下では海外子会社から受け取る配当の95%が非課税になり、残り5%のみが課税対象となった。このことにより、海外でのタックス・プランニングがグローバル実効税率の削減に直結する状況となっている。
 タックス・プランニングには、大きく分けて次の4つの類型がある。①課税のタイミングの繰り延べ、②高税率管轄から低税率管轄への所得の移転、③損金・税額控除などの税務ベネフィットの二重取り、④インセンティブ。所さんは、それぞれのタイプのプランニングのメリットを具体例を挙げながら説明した。 
 最後は、国際税務を取り巻く近年の動向について。現在、多くの多国籍企業はクロス・ボーダー取引と各国の税制ルールの差を利用するなどして、アグレッシブな節税を行っている。これらの多国籍企業の税負担率はかなり低く、国際的な批判が高まっている。この流れの中、多国籍企業によるアグレッシブな節税行為に一定の歯止めをかけるための枠組み作りが、経済協力開発機構(OECD)を中心にして進められている。「実効性のあるルールが導入されれば、欧米の多国籍企業は今までのように過度な節税行為を行うことが難しくなるでしょう。日本企業の観点からは、もともとアグレッシブな節税を行っている企業は少ないため、一定の税務プランニングを実施することで、グローバル実効税率に関して欧米企業と渡り合えるチャンスがあると言えるのではないでしょうか」。所さんは、グローバル化する資本市場で日本企業が競争力を維持するためには、「今後、許容された範囲内でより積極的にタックス・プランニングの機会を探り、グループ全体のグローバル実効税率の引き下げに取り組む必要があると思います」と語った。

第2部

[講師]
奈良原 信広 さん

KPMG LLPロサンゼルス事務所、グローバル移転価格サービス・シニア・マネージャー。2003年入所。西海岸の日系企業を中心に、移転価格同時文書化、プランニング、APAサポート等を提供。米国公認会計士(カリフォルニア州)。

移転価格を同時文書化でペナルティーを回避

第2部は「在米日本企業における米国移転価格税制に関する検討課題」。移転価格税制とは、関連者間取引を独立企業間価格で行うことを決める税制の総称。海外の関連会社との取引価格を資本関係のない第三者と取引した価格で計算し直すことで、適正な国際課税を実現させるものだ。「対象となる取引の例としては、製品・原材料等の有形資産取引から、サービス等の役務提供取引、ロイヤルティー等の無形資産取引、および貸付・借入等の金銭貸借取引があります。全ての関連者間取引は、独立企業間原則に則した価格(独立企業間価格)で行わなければなりません」。
 米国において移転価格税制の観点から注意したいのは、①規模が大きい取引、内容・形態が複雑な取引、②米国子会社が損失を計上している場合、または利益率が低い状況が継続している場合、③関連者間取引と第三者間取引の間で、異なる取引価格が適用されている場合、④相場よりも高いロイヤリティー料率が適用されている場合、⑤移転価格同時文書化がされていない場合など。
 米国における移転価格問題への一般的な対応策として、①移転価格同時文書化の実施、②APA(Advance Pricing Agreement・事前確認制度)があると解説。移転価格の同時文書化とは、関連者間取引における取引価格が、上記の独立企業間価格に準拠しているかを検証するレポートを作成しておくこと。同時文書化することの最大の利点は、もしIRSから移転価格調査を受けて更正処分とされたとしても移転価格のペナルティー(追徴税額の20%または40%)が免除されることと、当該文書を作成することにより、納税者のポジションをベースにIRSと議論できることだ。
 同時文書化が過去の関連者間同士の取り決めを見るものである一方で、APAとは将来年度の移転価格算定方法においてIRSからお墨付きをもらうこと。ユニラテラルAPAとバイラテラルAPAの2種類があり、「ユニラテラルAPAはアメリカにある子会社とIRSが移転価格を決定することで、APA対象事業年度(基本的には5年間)はIRSの移転価格調査が入らないという利点があります。バイラテラルAPAは、アメリカの子会社はIRSへ、日本の親会社は国税庁へそれぞれ申請をすることで、IRSと国税庁が話し合って移転価格を決めます。これは、APA対象事業年度に移転価格調査が入らないことに加え、二重課税リスクを排除できるメリットがあります。
 次に、一部の多国籍企業が国際的な税制の隙間や抜け穴を利用した過度な節税をしている状況に対応するために、OECDが議論しているBEPS(税源浸食と利益移転)について解説。OECDが発表したBEPSに関する15のアクションプランの中で、14年9月に最終報告書が出たアクションプラン8の「移転価格税制(①無形資産)」とアクションプラン13の「移転価格関連の文書化の再検討」の、移転価格に直接関連する事項について解説した。特にアクションプラン13においては、国別報告書(Country by Country Report)という新しい文書体系が導入される予定であり、多国籍企業に国別の所得、納税額、経済活動のグローバルな配分に関する情報を親会社が開示する必要がある。その中で、奈良原さんは最後にグループ内ポリシー統一の重要性を強調し、移転価格問題への対応を呼びかけた。「現状分析を行い、その結果を踏まえたグローバル移転価格ポリシーを策定・導入しましょう。その上で、移転価格の設定・導入・検討・見直しのサイクルが円滑に回る体制を構築することが肝要です」。

複雑な米国税務を理解しようと、会場には在米日本企業などから約70人が参加した

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