JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2015/5/15

第183回ビジネスセミナー報告 「昨今のメキシコの通関の仕組みと人事制度の概要について」

去る5月15日、アーバインのThe City of Irvine Sweet Shadeにて、第183回ビジネスセミナー「昨今のメキシコの通関の仕組みと人事制度の概要について」を開催した。講師には、長年メキシコで勤務し、同地の事情に精通するNorth American Production Sharing, Inc.の大須賀明さんを迎え、メキシコの通関の仕組み、そして同国の人事制度の実態を解説した。

大須賀 明氏
[講師]
大須賀 明(おおすが あきら) さん
東京外国語大学スペイン語学科卒業後、小松製作所勤務を経て、1985年にメキシコへ渡航。メキシコシティーにて日本航空などに勤務した後、95年よりティファナにて勤務。2012年にNorth American Production Sharing, Inc. に移りMarketing Vice Presidentとして現在に至る。


輸入における通関の仕組み

まず第1部では、メキシコの輸入に関し、通関の仕組みと優遇税制措置をテーマに解説。北米市場があること、また陸続きである米国に陸路で輸出し、そこから欧州や南米に輸送できるという地理的な利点を持つことから、製造の拠点として注目を浴びているメキシコ。同国の関税率などの関税制度は経済省で決定されるが、それを実際に執行する税関は、大蔵公債省に属している。メキシコの関税の品目分類は6桁のHS分類に基づいており、基本的には価格に対してパーセンテージで課税する従価税で、一部は従量税であり、課税基準にはCIF価格が使われている。

関税以外の諸税には輸入付加価値税があるが、これは免除になる方法がある。ただし関税は0パーセントになれば払わずに済む一方で、この付加価値税は通常は、いったん支払って、後から還付される仕組み。この付加価値税はCIF価格に関税、税関手数料を合計した額の16%である。このうちの通関手数料は、確定輸入の場合はCIF価格の0.8%に上るが、一時輸入の場合は0.176%で済む。つまりこのどちらの分類によるかによって、通関手数料が大幅に変わる。また、メキシコは日本、アメリカ、カナダを含む45カ国と自由貿易・特恵関税協定を結んでおり、これを使用することで関税を下げられる可能性がある。

メキシコの輸出入の手続きに関しては、メキシコへの輸入の場合は大蔵公債省のウェブサイトを通じて一般輸入者登録を行うが、メキシコからの輸出は特定業種のみ手続きが必要。またメキシコではペーパーレス通関が広く行われており、これを利用するためには国税庁からデジタル印章を取得すると共に、国税庁のメキシコ貿易デジタル窓口(単一窓口)で登録を行うことが必要である。大須賀さんは「この国税庁の窓口で登録を行わない限り、メキシコで輸出入に関連したビジネスはまずできません」と注意を促した。

通関時に貨物と共に税関に提出する書類は、事前に電子媒体で税関電子システムに送付が必要で、これらの全てのデータを確認後に、単一窓口EDコードが発行される。なお、全てのデータが入力された書類は「Pedimento」と呼ばれている。このPedimentoの利用料と通関代理店による作成料は、内陸地域と国境地域で異なり、国境地域では利用料700ペソ、作成料500ペソが徴収されるが、内陸地域では利用料750ペソ、作成料が3000ペソにもなる。「ですからあまり細かく輸入したり、頻繁に一時輸入から確定輸入に切り替えていると通関代理店に支払う料金が非常に高額になる可能性があります」。


輸出入に関する優遇税制措置「IMMEX法令」

以上は輸出入に際して必ず行う必要のある手続きだが、任意登録のものもあり、その多くが節税を狙っている。その一つが、IMMEX(輸出型製造・マキラ・サービス業)法令で、企業が製品をメキシコから輸出するために品物を変換(加工)もしくは修理することを目的として、外国の機械・設備・工具や原材料を一時的に輸入し、その後最終製品を製造する、もしくはサービスする工程を合法的に持つことをメキシコ政府が企業に許可するもの。「一時的に機械や設備、原材料を輸入して製造し輸出するので、メキシコでのPE(恒久的施設)認定リスク、法人税を回避できるのです」。この法令は輸出を促進し、雇用を創出するために考案されたもので、この恩恵は、関税、法人税、付加価値税が安く、あるいはゼロになるなど多岐に渡り、低い直接工の人件費と共にメキシコでビジネスをするメリットとなっている。

IMMEXには、輸出入IMMEXと法人税IMMEXがある。輸出入IMMEXの要求事項には、所得税法に基づき所得税を納税するメキシコ居住の法人であることなど、さまざまあるが、大須賀さんは「中でも重要なのは、IMMEX法令附則Ⅳ条に基づき、在庫・棚卸し管理を行うことだと言えます」と強調。一時輸入した原材料の在庫滞留期限は品目によって異なるが、一般的には18カ月。この期限を過ぎたものは確定輸入に切り替える、あるいはいったん国外に出すことが必要である。「18カ月直前にトレーラーにいっぱい材料を積んで国境を越えて、また引き返して輸入している企業もあります。それも一つの方法ですが、運賃がかかりますね」。原材料だけでなく、それらの原材料を使った完成品、および廃棄物の滞留期限もこれに従うことになる。

機械設備に関しては、メキシコに輸入する際にそれぞれの機械、設備に与えられたペディメント番号を写真に撮影しておく、記録しておくなどして厳格に管理しておくことが望ましいと大須賀さん。「操業から1、2年した頃に、突然税関の監査が入ります。そして『このペディメント番号の機械を見せてください』と言うのです。この際、すぐに答えられないと罰金が科されます」。

続いて、法人IMMEXの概要、およびPROSEC法令や自由貿易協定、Regla Octavaなどの関税を下げられる可能性のあるさまざまな法令等にも解説を加えた。


人事制度の概要と労務問題の実態

第2部のテーマは、メキシコの人事制度の概要および労務問題の実態。メキシコは面積では日本の約5倍で、人口はほぼ同一。ところが少子高齢化が進む日本とは逆に、人口の平均年齢は26歳であり、労働力の不足に悩まされる気配は全くない。

法定休日だが、メキシコは年間で7日と世界中で最も少ない国である。なお祝日の出勤は通常の3倍、日曜日の出勤には通常の25%増の賃金を支払うことが定められている。有給休暇は勤務開始から1年経った後から与えられ、勤続年数14年以上で最高16日まで取得可能。この有給休暇は、休んでも給料が支給されるだけでなく、通常の賃金に25%増となる。

法定就業時間は、1週間のうち6日、各日に8時間、1週間で48時間働くという考え方に則っているが、一般的には月から金曜までの5日間、9時間ずつ働くケースが多い。残業や休日出勤は、原則1日3時間まで最高で週3回までで、残業代は週9時間以内は2倍、それ以上は3倍。なお週9時間を超えると従業員に働く義務はなく、雇用者が当局から罰金を科される場合もある。

従業員の雇用に関しては、9:1の割合で外国人の雇用が認められている。雇用形態は通常は無期限契約。「最近の法の改正で一時的期限雇用が出てきました。籍は置いたままで繁忙期などに従業員が同意すれば手伝ってもらうことができるという特定労働契約です」。試用期間は30日で、専門職と上級管理職は180日まで延長可能。あるいは初期研修期間を設けることもできるが、この2つを併用することは不可能。

雇用契約は、実際に契約を交わしていなくとも、働いている事実があれば雇用関係があるとみなされる。「雇用契約は必ず締結し、労働条件などの内容を細かく書いておくのが賢明です」。解雇には、自主退職、懲戒解雇、会社都合の解雇の3つに分かれており、会社都合で退職させる場合は不当解雇とみなされるので、勤続年数に応じて退職保証金を支払う必要がある。

賃金は直接工は1週間ごと、ホワイトカラーは月に1回か2回支払われる。賃金はマネージャークラスであれば、米国と変わらないくらいの給与も多いが、直接工となると米国の10分の1以下である。「また会社は儲かっていようがいまいが、12月20日以前に、最低15日分の年末賞与を支払うことが義務付けられています」。賃金のほかにも医療保険や年金積立金など会社が負担するコストは多い。大須賀さんは、「会社にとってのコストを算出する場合には、名目賃金にその38%を加えたものをざっくり計算すると良いでしょう」と提案。

その後、採用の際の注意点、労働災害、安全、環境対策、社内規則についても、メキシコならではのさまざまな注意点、労働組合との良好な関係づくりの秘訣など細かく解説。また、「メキシコ人のやる気を引き出すには、例えば母の日に子どものいる従業員にカーネーションを渡したり、クリスマスに食事会を行うなど、イベントが大事です。非常に義理人情が厚い国民性なので、そんなふうに会社が自分たちのことを考えてくれていると実感できる機会があると、定着率も全く変わってきます」と現場での経験に基づくアドバイスを行う場面も。

さらに、大須賀さんはメキシコへの入国の際の必要書類の解説を行ったほか、気を付けなければならない不正行為、労働契約を終了させるための法的に有効な理由、2012年に改正された労働法に基づくセクシュアルハラスメントや差別等など、メキシコの労務問題に関し、微に入り細にうがった説明を行い、講演を終えた。

第183回セミナー

輸出入また人事・労務といった、メキシコとのビジネスの際に必要不可欠な情報が解説された。

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