JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2015/9/4

第187回 JBAビジネスセミナー「豆腐バカ世界に挑む ~米国に於けるビジネス・マーケティング成功の秘訣~」報告

去る9月4日、トーランスのToyota USA Automobile Museumで、第187回JBAビジネスセミナーを開催した。講師は“ミスター豆腐”こと加州NPO法人日本食文化振興協会の雲田康夫理事長。米国人の嫌いな食材トップだった豆腐を米国に広めた立役者である。その雲田さんが、米国に日本の食べ方や習慣を持ち込んだがゆえの失敗や、そうした経験を重ねながらいかに米国に豆腐革命をもたらしたか、その成功の秘策を紹介した。

ミスター豆腐 雲田康夫理事長[講師]

雲田康夫さん
青山学院大学卒業。1966年森永乳業入社。85年に渡米し、同社現地法人を設立、社長に就任。米国での豆腐普及に貢献し、2008年に農林水産大臣賞を受賞。加州NPO法人日本食文化振興協会理事長。中京大学客員教授。Super Frec USA INC.会長 & CEO。

豆腐普及を狙い渡米するも、待っていたのは不評につぐ不評…

冒頭、雲田さんは、「今日は私の成功物語の話をするのではなく、失敗の話をさせていただこうと思います」と切り出した。「この会場で、ひょっとすると私が一番たくさん失敗をしているんではないでしょうか」と参加者に語りかけ、波瀾万丈の“豆腐人生”を振り返った。

まず、雲田さんは渡米のきっかけとなった1980年代の乳業業界の激変を説明した。それまで日本での牛乳販売は、家庭への宅配が大半を占めていたが、殺菌技術の向上や、スーパーマーケットでの紙パック牛乳の普及によって、宅配牛乳の需要が激減したという。そこで、雲田さんが当時勤務していた森永乳業は家庭への宅配販売を維持し、配達員の生活を守ろうと、米や酒の販売を検討したが、規制が厳しく、うまくいかなかった。次に、日本人が毎日食べるみそ汁の具の豆腐に目を付け、長期保存が可能な無菌包装豆腐を開発する。だが、それも中小35000の豆腐屋を保護する中小企業分野調整法に阻まれ、日本国内での販売が限定されてしまった。

時あたかも米国ではヘルシーフードの時代。森永乳業は豆腐の販路を米国に求め、雲田さんに「米国人の食卓に豆腐を載せろ」と社命が下る。1985年のことだった。「空港を降りると、相撲とりのような体型の方々が目に飛び込み、これなら植物性タンパク質を広められる」と心躍らせたと雲田さん。しかし、思いはすぐに空回りすることになる。

実は米国では、豆腐の原料である大豆は家畜の餌だった。「人は食に非常に保守的。口に入れて『おいしい、体にいい』と分かって初めて買おうとするものだ」と考えた雲田さんは、スーパーマーケットでの試食デモに目を付けた。何店舗か回り、豆腐の活路を、①冷奴、②豆腐のみそ汁、③麻婆豆腐の3つに絞った。「内心、これで米国を席巻できると踏んでいたんです」と雲田さん。

早速、冷奴のデモンストレーションを開始。冷奴と言えば日本では、かつお節にしょうゆだが、かつお節を知らない米国人は、しょうゆをかけると「ニョロニョロと動く」と不気味がった。また、米国でも高血圧を心配して、塩分の摂取に気を遣う人が多い。しかし、冷奴にしょうゆをかけると、しょうゆの塩っぱさが残る。さらに口に入れれば、グシャとつぶれる珍しい食感…。この「ニョロニョロ」「塩っぱさ」「グシャッ」で、ほとんどの人は敬遠したという。
次はみそ汁。スーパーマーケットの店頭で、2、3片の豆腐をみそ汁に入れて出してみたところ、高齢の女性が熱々を一気に飲み込みパッと吐き出した。やけどである。「アメリカ人はスープはほど良い温度で飲むと後から知りました」と雲田さん。翌日、その女性は、店長と弁護士を連れて売り場を訪れ、発声の仕事ができなくなったと休業補償と治療費を請求された。以降、冷たいみそ汁のみ許可されたが、悪評判で中止に。在庫が減らない日が続いた。

帰国命令を受け、帰国直前に見つけたアメリカでの豆腐マーケティング法

心休まらぬ日を送っていた雲田さんのもとに、大手スーパーのバイヤーの妻から「10ケースの豆腐を自宅に送って。家のエリックが食べるから」と依頼の電話がかかった。食べ方を聞くと「ストレートで」。「エリックは箱を開けると飛び付いてくる」という。何かがおかしい。よく聞いてみると、エリックは大型の愛犬だった。米国で最初に豆腐を食べたのは犬だったのだ。悲嘆に暮れる雲田さんに、新聞記事が追い打ちをかけた。1987年、何気なく見ていた全国紙『USA TODAY』の記事に、米国人の嫌いな食材の1位に豆腐がランクイン。何と割合は35%で、ショックを受けた。

「盛大な送別会を開いてもらって送り出された関係上、今さら、白旗掲げて帰るわけにはいきませんでした」と雲田さんは述懐した。ブランドイメージの改善も考えたがうまくいかない。わらをもすがる思いで、既にレストラン「BENIHANA」のブランド化に成功していたニューヨークのロッキー青木さんのもとを訪れた。成功の秘訣について、ロッキーさんは「あなたは広告塔になれるか」と聞いた。彼自身、モーター選手権や太平洋横断に挑戦し、舟艇や気球にまで「BENIHANA」の告知を徹底していた。

雲田さんは、ロサンゼルスに戻ると早速、愛車のナンバーを「TOFUNO1」に変え、広告しようと社内で提案したが、現地スタッフは「豆腐No!になる」と指摘。結局、アルファベットで1番という意味で、「TOFU A」に変えた。マラソン大会に豆腐の着ぐるみで登場し、転倒したのをテレビに放映され、必死で知っている単語を並べてアピールしたこともあった。しかし、懸命の努力にもかかわらず売り上げは上がらなかった。

渡米から6年…。雲田さんがもがき続けている間に、日本はバブル経済が崩壊する。会社は売れもしない豆腐にお金をかけられなくなり、ついに帰国命令が下った。そこで、通い詰めたスーパーマーケットに、「見納め」と思って出かけたところ、70〜80代のユダヤ人女性が自分の育てた豆腐をカートに入れていた。「フルーツを入れてミックスし、豆腐シェークにする。バナナ1本入れるのを忘れないで」と女性。「豆腐をシェークし、朝食として食べるという発想に、もうびっくりしました。日系スーパーじゃ、崩れた豆腐は返品されていましたから」と雲田さん。会社に戻り、イチゴとバナナを入れた豆腐シェークを作ったところ、現地スタッフにも大好評だった。「豆腐と言えば、冷奴ばかり考えていましたが、米国人が好むものを作ればいい。日本食は大事だけど、郷に入れば郷に従えだと気付いたんです」。スーパーマーケットの店頭で、イチゴにハチミツも入れた豆腐シェークを紹介したところ、またたく間に行列ができた。

「我々はいろんなことで悩み、行き当たることがあります。でも、うまくいかない時こそチャレンジが必要です。高齢化を考えれば、将来人口が激減する現在1.27億人の日本人ではなく、73億人の世界を相手にSomething Newで、チャレンジし続けることが必要ですね」。

ヒラリー・クリントン夫人の一声で米国社会に豆腐が一気に浸透

こうして軟着陸を始めた豆腐に、援軍が現われる。ヒラリー・クリントン元大統領夫人だった。93年、ラジオニュースを聞いていた雲田さんは耳を疑った。ホワイトハウスに移ったばかりのヒラリーさんが「私は健康のため、豆腐を食べているが、夫のビルは…」とインタビューに答えているではないか。「聞き間違いではないかと思いました。ラジオ局にテープを送ってもらい、社内で確認しました」。すぐにホワイトハウスに豆腐を送ったところ、3週間後、ヒラリーさん自筆署名のサンキューカードが送られてきた。雲田さんは急に米国が好きになっていった。その後ヒラリーさんは別のテレビ番組でも「ビルはジャンクフードが好きなの。豆腐を食べさせたい。豆腐は高タンパク・コレステロールゼロ食品」と語り、会社のトールフリー番号まで紹介した。

「ホワイトハウスが豆腐を食べ始めた」とテレビで流れると、全国のスーパーから注文が殺到、倉庫に山積みだった豆腐は一気に完売することになる。本社に追加注文をファクスしたところ、「雲田はとうとう精神がおかしくなったらしい」と本社から様子を見に来たほどだった。その後、日本の工場生産では注文に追いつかなくなり、工場をポートランドで作るまでに。そして、今、豆腐は中東を含め、世界に広がった。

こうした30年に及ぶ豆腐普及の軌跡を紹介した“ミスター豆腐”は、「本社が何も言わなければ売り上げは伸びる。本社の国際性のなさが問題。信頼して現地に任せ、支援さえすれば成功する」と訴えた後、自身に立ち返り、「人間、死にもの狂いで働いていたら、他人から『あの人は、ばかみたい』と言われるようになる。本当のばかじゃ困るが『ばかみたい』とまで言われたら、成功すると思う」と結んだ。

第187回JBAビジネスセミナー

山あり谷ありの豆腐マーケティングを紹介した、ユーモアあふれる講演に、会場には何度も笑いがこぼれた。

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