JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2016/7/22

第196回 JBAビジネスセミナー「消費者クラスアクションの回避及び対策」

去る7月22日、トーランスのToyota USA Automobile Museumで、第196回JBAビジネスセミナーを開催した。当日はAlston & Bird 法律事務所から3人の弁護士が登壇し、アメリカで頻繁に起こされるクラスアクションについて講演。消費者向けに製品を販売する全ての企業が脅威とするこのクラスアクションが日本でも導入予定ということもあり、日系企業にとっては非常に関心が高いセミナーとなった。

[講 師]

トッド・ベノフ弁護士
トッド・ベノフ弁護士
カリフォルニア州弁護士 。製造物責任、有害物質不法行為・大規模不法行為などの企業訴訟案件を手掛ける他、消費者クラスアクション、不公平商取引、契約紛争、株主代表訴訟などの紛争案件も担当する。

チャールズ・コックス弁護士
チャールズ・コックス弁護士
カリフォルニア州弁護士。Alston & Birdロサンゼルス事務所の訴訟部門チームリーダー。
証券クラスアクション、株主代表訴訟、信認義務、M&A、企業支配紛争、商業訴訟を含む複雑なビジネス紛争を手掛ける。

アンドリュー・パリス弁護士
アンドリュー・パリス弁護士
カリフォルニア州弁護士。クラスアクション弁護、独占禁止法、個人データ保護、契約違反、製造物責任、環境保護、企業不法行為およびディーラー紛争に重点を置いた複雑な商事訴訟を専門としている。

※今セミナーは3人の講師が必要に応じてその都度話すスタイルだったため、本記事では発言者を特定せずに執筆した。

クラスアクションの存在理由とは

クラスアクションとは、多数の原告がクラス(グループ/集団の意)になって起こす訴訟のことをいう。大体の場合、原告は消費者や株主などで、州あるいは全米規模で裁判が展開される。

アメリカでクラスアクションが認められている理由は、大勢の訴えを効率良く一括管理できるからである。例えば、ある企業の休憩や休日制度について労働者から訴えが起こったとする。大勢の社員が訴えても、訴訟内容が同じであれば個別に対応するのは非効率的と言える。同様にある商品に対して訴訟が起きた場合、すでに何千、何万という数の商品が市場に出回っている以上、その数だけ対応するのも非現実的となる。また、クラスアクションでは統一した判決を期待できることもその存在理由となっている。例えば、同じ問題に対する訴訟であるにもかかわらず全米規模で訴訟が展開した場合、各州法や裁判官などによって判決が異なる可能性が考えられる。しかしクラスアクションでは、判決が不統一になる事態を避けることができる。こうした理由から、効率的な管理方法としてクラスアクションは存在するのである。

クラスアクションの進め方と
企業の負担となるDiscovery

クラスアクションを起こすには「Common Question」が必要となる。例えば、「商品が持つ欠陥により不利益が生じた」や「広告内容が紛らわしいため正しい情報を得られなかった」、あるいは「株価に影響を与える情報が公表されなかったことで不利益を被った」などがそれにあたり、クラス全体に共通する訴訟理由のことを指す。こうしたCommon Questionがなければ、原告人数がいくら多くても訴訟を起こすことは困難となる。

クラスアクションは、まず原告の弁護士から企業側に「Demand Letter」が送られることからスタートすることが一般的である。ここには訴訟までの経緯が書かれており、企業はその内容について吟味・調査する。そして通常受け取ってから30日以内に原告側に何かしらの返答をする。

次に原告が正式に裁判所に訴状を提出する。マスコミにコネクションを持つ腕利き弁護士を雇った場合、彼らは事前にマスコミにクラスアクションを起こす旨を連絡し、訴状提出時に取材させることでその事実を一般に知らしめる。

裁判が始まると、まずクラスアクションの代表者(裁判所によってクラスの代表者と認められた者で、「Class Representative」と呼ばれる)が合法的に裁判を起こす権利を有するか否かについて議論される。

次に訴状内容の真偽が討議される。例えば、コンピューターのモニターにひび割れがあったことでクラスアクションが起きたとする。この場合、修理費などの金銭的損失は実害として分かりやすいが、そのひび割れから実害がなかったとする人やそのパソコンをすでに手放している人がいた場合、原告が訴えるような「事実上の損害」が本当にクラス全体にあったのかどうかが問題視される。

裁判には「Discovery」と呼ばれる証拠の開示手続きが必要となる。クラスアクションでのDiscoveryは、個人による裁判とは比較にならないほど企業にとって大きな負担となる。Discoveryの対象となるのは販売済みの全ての製品(それに関連するバージョンとモデルも含む)、関連広告、財政報告書、関わった全ての従業員など広範囲に及ぶ他、開示する情報は紙による文書やコピーだけでなくEメールなどのデジタル文書も含まれる。さらにDiscoveryがマーケティングや工場などの専門部署に及んだ場合は、そこの社員らもDiscoveryに協力せざるを得なくなるため、具体的に算出されるコストと時間以外にも、企業活動の生産性が低下するなどの大きな損失を被ることになる。

クラスアクションが正当か否かは、「Common Question」と同時に「Common Answer」が必要となる。例えば商品の欠陥について訴えるのであれば、その欠陥が全ての消費者に同様の損害を与えたことの証明が必要となる。車の欠陥についての訴えであれば、それが原因で事故が起きた可能性の他、果たしてドライバーの運転方法に過失はなかったのかどうかも議論される。

欠陥と損失の因果関係はクラス各人によって異なる場合がある。これはその商品やサービスを購入する各人の動機が異なることに起因しており、ある人にとっては損失でも別の人にしてみれば問題ではないとする損害の不統一がここで起こる。従って、いかにCommon Answerを主張できるかが決め手となる。


クラスアクションにおける
カリフォルニアの3大法律

カリフォルニア州、ニューヨーク州、フロリダ州など巨大マーケットを抱える州ではクラスアクションが起こりやすい。カリフォルニア州では、消費者保護について次の3つのメジャーな法律が存在する。

(1) Unfair Competition Law
 以下の3つに通じるビジネスを禁じる法律。原告に有利な法律とされる。
●Unlawful:あらゆる法律に鑑みて違法性のあるビジネス
●Fraudulent:一般消費者が誤解する可能性のある説明や描写によるビジネス
●Unfair:一般的に道義に反した(あるいは商慣行を無視した)あらゆるビジネス。ただし、「Unfair」の具体的な定義はない

(2) False Advertising Law
真実から逸脱し誤解を生むような広告や宣伝を禁じる法律。砂糖を「Cane Juice」と表したり、パスタに「Natural」という言葉を付けたりするのがその例

(3) Consumer Legal Remedies Act
消費者を惑わすセールスを禁じる法律。例えば、その商品やサービスがあたかもどこかの団体から承認を受けているように表示したり、実際にはない効能を謳ったり、使われていない材料をパッケージに記したりするなどして販売する行為がこれにあたる。また、その商品やサービスを利用することで何かしらの問題が生じる可能性がある場合、それを明記せずに販売してもこの法律の対象となる。

以上の3大法律は、カリフォルニア州内で商品やサービスを販売する全ての企業(個人)に適応され、州内に工場や販売店がなくても違反した場合は処罰の対象となる。

これらの法律のうち、(1)と(2)については「言及していない」部分についてもしばしば問題となる。これを「Omission Claim」と呼ぶ。例えば、「企業がある特定の情報を明示しなかったために、原告は購入に至った」とするものである。つまり「もしその情報が明示されていたら購入することはなかった」とする訴えが「Omission Claim」である。

この例としてNestleの判例が挙げられる。Nestleは、カカオを栽培するためにコートジボワールの児童を強制労働させていた旨を商品ラベルに明示しなかったとしてクラスアクションを起こされた。原告団の訴状によると、同社は(1)(2)(3) 全ての法律に違反している上、この事実が開示されていれば自分たちは同社製品を買うことはなかったと主張。商品ラベルにこの表示が必要だったか否かが裁判の争点となった。これに対し裁判所は、開示すべき情報は商品自体の安全性と肯定的な不当表示を反論するために必要な情報の2つだけでよく、(3)の法律には違反していないと判断。消費者が他社製品を購入する動機になるような情報を開示する必要はないとした。

さらに(1)の法律については、前述のように(3)に違反していないことから「unlawful」ではなく、コートジボワールの事例はラベルに表記する必要はないため「Fraudulent」でもないとした。さらにラベルに強制労働の事実を明記する立法上のきまりはないため「Unfair」でもないと決定。(2)の法律についても「Omission Claim」は不問とした。

こうした経緯から、裁判所は(1)(2)(3)全てにおいてNestleの違反行為は見られないと判断。原告の訴えを退けた。

参加者の声

eBase Solutions, Inc.のアドーラさんeBase Solutions, Inc.のアドーラさん
JBAセミナーには初参加ですが、全く知らなかったことを専門家から教えていただけてとても感謝しています。弊社はIT関連企業で私自身もクラスアクションに関する業務をしているわけではありませんが、今日は勉強のつもりで参加しました。


KDDI America, Inc.の高松さんKDDI America, Inc.の高松さん
弊社では企業のセキュリティー対策に関するサービスも提供しており、そういう意味ではクラスアクションの知識も業務に必要となるため参加しました。今日は自分の勉強になったと共に、色んな会社の方と交流もできたので有意義でした。

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