JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2016/10/28

第198回 JBAビジネスセミナー「雇用前調査法令と訴訟対策/昨今の雇用・セクハラ訴訟ケースと加州特有の法令措置」

去る10月28日(金)、トーランスのToyota USA Automobile Museumで第198回JBAビジネスセミナーを開催した。セミナーは2部構成で、第1部の「雇用前調査法令と訴訟対策」ではAmerican DataBank, L.L.C.の秋山利泰さんが、第2部の「昨今の雇用・セクハラ訴訟ケースと加州特有の法令措置」ではHRM Partners, Inc.の上田宗朗さんが、それぞれ講師として雇用や労務に関わる気になるトピックスを解説した。

(※このセミナーでは一般的な知識を解説しています。個別のケースに関しては専門家に相談されることをおすすめします)

第1部「雇用前調査法令と訴訟対策」

[講師]
秋山利泰さん
秋山利泰さん
American DataBank, L.L.C.・CEO。明治大学商学部卒業後、株式会社リクルート入社。コロラド大学ボルダー経営大学院卒。豪州にてコアラ動物園園長、加森インターナショナル取締役を経て、1999年にアメリカン・データバンク社(America DataBank, L.L.C.)をコロラド州デンバーで設立。 クラウド上でのコンプライアンス管理システムを開発し、過去17年間、米国企業・大学・政府機関など多くの顧客へのサービス提供実績を持つ。

企業が知っておくべき
雇用前調査に関する法律

17年間にわたり雇用前調査(バックグラウンドチェック)に関するビジネスを行ってきた秋山さん。雇用前調査の現場から見ていると近年、顕著な傾向があるという。それは応募者自身がバックグラウンドチェックの方法を非常によく理解しているという傾向である。一方で企業側つまり雇用する側がその状況をあまりよく理解していない状況であるそうだ。「これが何を意味するかと言うと、防御の甘い企業は訴訟の対象になりやすいということです」と秋山さん。

バックグラウンドチェックに関する法律の中でも重要なものの一つは、連邦法の「Fair Credit Reporting Act(FCRA)」である。このFCRAは米国にある全ての会社に影響してくる法律である。この法律に加えて、州ごとに別々の法律があり、例えばカリフォルニア州では「California Investigative CRA Act」がある。さらに、郡や市などの地方自治法、そして都市条例がある。

「FCRA」の監督庁は、Federal Trade Commission(FTC)の管轄機関であるConsumer Financial Protection Bureau(CFPB)である。Fair Credit Reporting Actという名前からするとクレジットリポートに関する法律かという印象を与えるが、これはクレジットリポートが正確な情報でなかったがために不利益をこうむった消費者がいたことから作られたもので、消費者保護を目的として、犯罪歴、クレジットリポート、雇用前調査に関するプロセスを規定する法律である。「非常にテクニカルな法律です。そのため、法律の文言の解釈の仕方のような重箱の隅をつつくような理由で訴訟が起きています」。このFCRAの法律自体はブックレット1冊程度のものであり、FTCに問い合わせをすると無料で送付してくれる。

「FTCの基本的な考え方としては、企業にできる限り犯罪歴のある人間を雇ってほしいのです」と秋山さん。現在、失業率は低く抑えられているものの、犯罪歴を理由に就職できない者が多数存在し、彼らの雇用問題を解決することが米国経済は順調に推移させていくために必要。そのためできる限り犯罪歴のある人間にも情状酌量の余地を与え、採用してほしいのだという。「このような考えに基づき、FCRAは犯罪歴に関する年数制限は設けていないものの、州によっては7年以上前の犯罪歴リポートを禁止する等の規定を設け、雇用側がバックグラウンドチェックをしても犯罪歴がなるべく見えないようにしています」。


訴訟を避けるための
重要な3つのポイント

2016年のFCRAに関連した訴訟数は、15年に比べて30%以上増加。その大半がクラスアクション(集団訴訟)である。訴訟の対象になるのを避けるために、企業が知っておくべきFCRAの重要なポイントは以下の3つである。


(1) Disclosure Form、Authorization Form(調査同意書)に、調査前に応募者から署名をもらうこと

「Disclosure Regarding Background Investigation」「Acknowledgment and Authorization for Background Check」「State Law Disclosures」の3枚綴りの形式で応募者に渡すことを推奨。

1枚目の「Disclosure Form」はこれから応募者のバックグラウンドチェックを行うという開示に対して、応募者からの同意を得るフォームである。FCRAの法令Sec 604はこのフォームに関して「Clear and Conspicuous disclosure」(明瞭で分かりやすい開示)でなければならない、また「consists of SOLELY of the disclosure」、つまり、このDisclosureのためだけの紙でなければならないと定めている。「この言葉があるために、『Disclosure Form』と『Authorization Form』を一緒にして1枚にまとめてしまうことができないのです」。かつてこれらを1枚にまとめていた会社が敗訴した例があるそうだ。

「Authorization Form」は、応募者に個人情報を記入してもらい、「この情報は私のものである。調査を許可します」と署名をしてもらうものである。これは細かい規定はないので、名前やソーシャルセキュリティー・ナンバーなど個人情報を記入させることは問題ない。「ただし『Disclosure Form』は明瞭で分かりやすく、単独の紙で、余計なことを書いてはいけません」。
余計な文言を挿入したがために企業が訴えられた例は跡を絶たない。

秋山さんがここで「Disclosure Form」にWaiver(権利放棄)の文言を挿入したことからClear and Conspicuousでないとして、応募者による集団訴訟となったWhole Foods Marketの例や、雇用アプリケーションフォームの中に「Disclosure Form」を挿入したためにフォームの独立性を無視したと集団訴訟になったChuck E Cheese’の例など、複数の集団訴訟の事例を紹介した。

また秋山さんは、「公民権法第7条」で禁止されているはずの誕生日や性別に関する質問を、なぜ「Authorization Form」で誕生日や性別などを聞くことが可能なのか、その理由を解説した。「公民権法はEqual Employment Opportunity Committee(EEOC)が管轄しています。一方、このバックグラウンドチェックが始まったのは2001年9月11日のアメリカ同時多発テロの後。政府が空港などで雇用をする時にバックグラウンドチェックが必要だということで始まりました。ところが犯罪歴を調査しようと思ったら誕生日が必要です。そのため苦肉の策でバックグラウンドチェックだけの目的で、アプリケーションフォームなどとは一緒にせず単独の用紙の中で記入させるならば、こうした質問をしてもいいということになったのです」。

(2) 調査結果に関してDispute(異議申し立て)の機会を与えなければならない。調査の結果に基づいて、いきなり不採用の通知を出すことはできない。

どのようにDisputeをするのかが書かれたものが「A Summary of Your Rights Under the Fair Credit Reporting Act」という書類であり、この書類もDisclosure Form、Authorization Formに署名をもらう際に応募者に渡すことを推奨。

「理想的な雇用前調査の方法としては、応募者が来社した時点で、調査同意書を渡してサインをもらってから、面接をすることです。その際に、『Summary of Your Rights』は全員に渡してください」。この雇用前調査に関して、応募者から結果のコピーを要求された場合は、躊躇せずに結果のコピーを渡さなくてはならない。その際には、「Summary of Your Rights」も改めて渡すこと。

(3) 不採用の場合は、「Pre-Adverse Action Letter」(不採用事前通知)と「Adverse Action Letter」の2ステップを踏まなければならない。

「バックグラウンドチェックで何か問題が出てきたとしても、いきなり採用を拒否することはできません。またバックグラウンドチェックの結果を理由に断れないようにする動きも出てきています。今、ニューヨークでは採用オファーを出した後でなければ、犯罪歴調査をしてはいけない(雇用歴調査等は仮採用前に可能)というふうに定めています」。

「Pre-Adverse Action Letter」とは「バックグラウンドチェックによってあなたにネガティブな情報が見つかりました。このままでは採用は難しいのですが、調査結果に対して異議申し立てはありますか?」と伝える手紙である。これを応募者に送ることで、異議申し立ての機会を与えるものである。これを応募者にバックグラウンドチェックの結果のコピーと「Summary of Your Rights」を添付して郵送後、5〜7日間の猶予を与え、その間に応募者からの異議申し立てがなければ「Adverse Action Letter」を送ることになる。これは郵送でなくとも、Eメールや口頭通知でもよいとされている。

ここで現在、係争中の人材会社ロバートハーフを相手取った集団訴訟が紹介された。この訴訟では、バックグラウンドチェックに異議申し立ての機会が与えられなかったとして、過去5年間の応募者全員への賠償と弁護士費用という巨額の支払いが求められている。「怖いのは集団訴訟というのは簡単に起こせるわけで、一人に対しては100ドルの賠償であったとしても、人数が増えれば簡単に何百万ドルもかかることになるわけです。弁護士はその約35%をとることになるわけで、かつ弁護費用も返ってきますから、弁護士にとっても非常にやりがいのある訴訟だと言えます。そのため、中にはバックグラウンドチェックの結果を理由に断られた人を探し、数多くの雇用者がいる大企業を狙って訴訟を起こす弁護士もいます」。


「Ban The Box」および
加州特例法など注意すべき法律

現在、ニューヨークではオファーレターを出した後でなければ、 犯罪歴調査を行ってはならないという法律「Ban The Box」が施行されている。すでに米国23州でBan The Boxが導入されており、ロサンゼルスでの施行はまだだが、カリフォルニア州内では9カウンティーで実施されている。「ロサンゼルスでの実施もそう遠くない先でしょうから、いま応募書類に犯罪歴の有無を訊く項目があるなら、早めに外しておくのがよいでしょう」。ちなみに、この法律は会社のある場所でなく、応募者が採用されて勤務する場所の法律が適用される。

続けて、秋山さんはカリフォルニア州の特例法についても解説。「California Background Check Law」では犯罪歴調査は7年前以前にさかのぼることはできないと定めている。加えて7年以内であっても有罪判決となったものしかレポートしてはならないと定められており、棄却された訴訟は犯罪歴調査には表れない。「また口頭であっても有罪にならなかった逮捕歴があるかどうかや、犯罪歴抹消(Expungement)をしたかどうかなどを聞くことは禁じられています」。

犯罪歴に関して、アメリカには州法と連邦法2つの刑法があることにも注意が必要であるという。州法では州内での飲酒運転から犯罪歴まで全てのケースを扱う(連邦法に反する犯罪は連邦法が適用される)が、連邦法がカバーする犯罪は州をまたぐ犯罪やテロ、ドラッグ密輸、ハイジャック、銀行強盗などで、全犯罪の約10%。連邦の犯罪歴調査では連邦の刑法の中で扱われたケースのみしか表れない。

その他、注意すべき点としてはクレジット調査がある。また、カリフォルニアを含む12州では、雇用前調査におけるクレジットリポートの利用を制限している。ただし管理職ポジションや、法律によってクレジット調査が要求されている現金輸送やセキュリティーガード、ブローカーなどのポジション、顧客の銀行口座やクレジットアカウント、ソーシャルセキュリティー・ナンバー、誕生日にアクセスが必要なポジションなど(ただし小売業などのクレジットカード勧誘のポジションは除く)、条件付きで使用が許可されているポジションもある。このクレジット調査前には、カリフォルニア州ではクレジット調査専用の同意書が必要である。

最後に秋山さんはまとめとして、採用面接をした際には、どのような質問をしたかなど書面化して残す、あるいはあらかじめインタビューノートを作成しておくことを推奨した。面接官が聞いていないのに、応募者が犯罪歴について話し始め、後になって面接官から質問されたと言われてしまうことなどがあるからである。また、採用ポリシーやバックグランドチェックポリシー、ドラッグテストのポリシーを書面で作成して準備しておくべきと話した。

第2部「昨今の雇用・セクハラ訴訟ケースと加州特有の法令措置」

[講師]
上田宗朗さん
上田宗朗さん
HRM Partners, Inc. ・Vice President/Partner。富山県出身。拓殖大学政経学部卒業。在米27年。全米の日系企業を対象に人事労務管理のコンサルティングならびに人事部アウトソーシングサービスを提供。企業ポリシー・給与・従業員問題・レイオフ・解雇へのアドバイスを行う一方、日本語による管理職向け各種トレーニングの講師を務め、中西部・西部を中心に全米で活動する。

今日の職場に影響を与える労働法

秋山さんが採用前に企業が注意すべき法律等について解説したのを受け、第2部では上田さんが採用後に注意すべき事柄について説明。具体的には、企業が、採用した従業員から訴訟を起こされるのを防止するための人事対策について、差別、セクハラ、ハラスメントに焦点を当てて解説した。

差別、セクハラ、ハラスメントの個別の注意点に入る前に、そうしたものに関連した訴訟の基盤となるアメリカの労働法について、簡単に変遷を追った。世界大恐慌後に生まれたおびただしい数の失業者に職を提供するため、1938年に「公正労働基準法(Fair Labor Standard Act, FLSA)」が施行された。残業手当制度を設け、エグゼンプト、ノンエグゼンプトの基準を制定した。「以後、約80年間大きな改正がほとんどなかったのですが、数年前の改正を経て、今年2016年には連邦のエグゼンプトの最低賃金が引き上げられました」。また第二次世界大戦中には兵役中の男性の代わりに多くの女性が働くようになり、それが後に「FLSA」の修正案である「The Equal Pay Act」(1963年)の施行につながった。

そして、カリフォルニア州では、2016年1月1日に「California Fair Pay Act」が施行。それまでは全く同じ就労内容・スキルで同じ責任範囲があるポジションの従業員のみが、賃金の不均等についてのクレームを行えたが、これにより類似の雇用条件の下で類似の就労内容であればクレームを行うことが可能になった。さらに、雇用主はクレームに対して、年功序列、給与制度、メトリックシステム等の制度の上で給与調整を行っており、性別による給与調整を行っていないことを公開することがあると定められた。加えて、今回の法改定により、従業員同士の給与の公開や相談を行うことが可能となり、そうした行為に対しての報復行為も禁止されることとなった。

「『人事考課はしなくてはなりませんか?』と質問を受けることがありますが、最低1年に1回はしてください。人事考課とはフィードバックです。従業員が何年もフィードバックを受けずに、給与に変化なく来た場合、大変な問題になることがあります。また日系企業の中には、書いてあることしか頼めなくなるとして、ジョブディスクリプションを嫌うところもありますが、採点を伴う人事考課を行うなら、採点の基になる基準が必要です。ですから人事考課を行っているのに、ジョブディスクリプションがないのはおかしいと言えるでしょう」と上田さん。

世界恐慌後には、「国家労働関係法(National Labor Relations Act、NLRA)」(1934年)が法制化され、労働組合が大きく成長。この法律によって、労働者が組合を組織し、団体交渉に従事し、必要ならストライキを打つ基本的な権利を保障した。また従業員自身が自分たちの賃金やベネフィットについて同僚と公然と話す権利も保護した。同時期に、こうした権利が守られているかを監視する機関として国家労働関係委員会(National Labor Relations Board、NLRB)も組織された。この団体は、労働組合に加入していない企業、従業員に対してもさまざまな影響を与えている。例えば、「従業員自身が自分たちの賃金やベネフィットについて同僚と公然と話す権利」が、企業と従業員間の守秘義務契約によって侵されているとして、2009年には企業側が敗訴。これを受けて、守秘義務契約書からは賃金やベネフィットに関する守秘義務を除く旨を明記することが必要となり、また、カリフォルニアは2016年の「California Fair Pay Act」をもって同様の権利を法制化したのである。

1960年代の公民権運動の影響を受けて、64年に法制化された「公民権法」により、教育、住居、雇用など社会的な多くの分野において差別が禁じられた。中でも公民権法第7章では、人種、肌の色、宗教、出生国(市民権の有無)、性別によって雇用の一切を差別してはならないと定められた。現在はそれらに加えて、カリフォルニア州では、障害者/AIDS/妊娠や妊婦、年齢(特に40歳以上)、性的指向や婚姻の有無、ドメスティックパートナー、民族性/ベテラン(退役軍人)、政治団体や組合加入/個人の信条・主義、遺伝子情報、性の表現で差別してはならないと決められている。「入社前の身体検査やIQテストなどといったものは全て違法になる可能性があります」。

1964年の「公民権法」を受けて制定されたものには、1967年の「年齢被差別法(Age Discrimination in Employment Act)」がある。40歳以上の者を年齢により差別することを禁止したものである。「意図的か無意識かにかかわらず、結果的に差別を行っていれば、差別になります」。
また1990年に制定された「米国障害者法(American with Disabilities Act)」もまた「公民権法」を受けたものである。これは、障害を持つ個人について、その障害を理由とする一切の雇用上の差別を禁止するもので、連邦レベルでは現在のところ15人以上の従業員を持つ企業が対象である。

こうしたセクハラに関する法律と共に、アメリカの雇用関係において重要な概念は、随意雇用(At-will employment)である。これは会社または従業員は、いついかなる時でも理由の有無にかかわらず、雇用の中止を行える関係という概念である。「注意していただきたいのは、口頭における約束、とりわけ雇用面接時の口頭における約束はAt-will employment条項を凌駕すると判決を出した、カリフォルニア州の裁判所による判例があることです。例えば『できるだけうちで長く働いてほしい』『ビザをスポンサーするので3年はいてください』、これは随意雇用を自ら破棄することになります。こういうことは言わないようにしてください」。

セクハラの歴史、法令、種類

続いて、上田さんはセクシュアルハラスメントに関する法律と、それらに関して企業が気を付けるべきことを解説した。セクハラに関しては2005年に「セクシュアルハラスメント下院法案AB1825(California training law AB 1825)」が制定されている。これにより従業員が50人以上の雇用主に対し、スーパーバイザー職以上に最低2時間のセクハラ防止トレーニングを2年おきに行うことと定めた。また、全ての雇用主はセクハラに関する情報が書かれた資料(DFEH-185、またはそれに類似するもの)を全従業員に配布しなければならないとされている。

ハラスメントに関する連邦法の歴史は、1964年の公民権法第7章にさかのぼる。これにより、人種/肌の色/性別/国籍による雇用条件、待遇、特権による差別が廃止され、威嚇、嘲笑、侮辱のない安全な環境で働く従業員の権利が保護された。そして86年、連邦最高裁判所においてセクハラを、性的差別に当たると規定。98年には、セクハラに対する雇用者監督責任の基本事項が明確化され、これにより雇用主が職場において差別やハラスメントが起きたことを知らなかったとしても道義的責任が生じることとなった。「ですから従業員と従業員が起こしたセクハラ事件であっても、会社が賠償金を払う義務が出てくるのです」。また雇用主は職場外において従業員間で起きたハラスメントにも責任がある。会社が責任の追及を逃れられるのは、そのハラスメントが雇用とは一切関係のない完全な個人的な関係によるものである場合のみである。

アメリカではハラスメントは2種あり、一つは対価型ハラスメント(Quid pro quo)、もう一つは環境型ハラスメント(Hostile environment)である。「環境型ハラスメントについて、従業員は結果的に被った損失を具体的に立証する必要はありません。なぜなら公民権法により『威嚇、嘲笑、侮辱のない安全な環境で働く従業員の権利』が守られているからです。そして環境型ハラスメントは多くの場合、集団訴訟になります」。


雇用主が行うべきハラスメント対策

「雇用主がハラスメントに関するポリシーを定めておくのはもちろんのことですが、その他の対策も必要です。というのは、セクハラ訴訟の約半分が、合意の下で始まった職場での関係から起こったと推定されています。つまり社内恋愛がセクハラ訴訟につながってしまうことがあるためです」として、(1) 反・縁故採用ポリシー、(2) 社内恋愛禁止ポリシー、(3) Love Contract(合意の下に成り立っている関係についての同意書)、(4) 服装ポリシーの4つのポリシーをあわせて検討すべきと話した。

この後、上田さんはドレスコードに関する訴訟やいやがらせに関する訴訟、ラブレターやえこひいき、ニックネームについての訴訟など、さまざまなハラスメント訴訟の事例の紹介を通して、参加者にハラスメント防止に対する意識の向上を呼びかけた。

最後に「セクハラ防止のために企業はどうしたらよいのか」という問題に対して、上田さんはEEOCの規定を紹介した。「セクハラは絶対に認められない禁断行為であるという基準を明確かつ絶えず公示する」に関しては「半年に1回くらいは回覧板を回すなどして呼び掛けが必要です」と上田さん。その他としては「最低2年に1回、セクハラに関して管理職および従業員を教育するトレーニング・プログラムを徹底する」「職場であからさまな違反が行われていないか監視する」「セクハラに関する苦情について、特定の報告・調査・懲戒のプロセスを開発する」「ハラスメントに関する全ての告発を、迅速かつ慎重に内密に調査する」。また「従業員がハラスメントを受けている時は速やかに適切な矯正措置を取る」に関しては、「通常1週間、5営業日以内に決着を付けるのが速やかということです」。加えて「規定を持っているにもかからず、上記アクションを怠った、または規定を無視した問題解決方法を取った場合、雇用主はハラスメントの責任を問われうる」とも補足。社内のポリシーを明文化して定め、それをきちんと運用することが肝要である。


参加者の声

H.I.S. International Tours (NY) INC.の新原さんH.I.S. International Tours (NY) INC.の新原さん
「以前勤めていたイギリス系企業でユニオンに所属していたこともあり、アメリカでの訴訟関連に関しても興味があり勉強になりました。企業として訴訟問題が起こるのを避けるため、従業員としても訴訟を起こさなくても済むような相互の働きやすい環境作りが大切なのだと思いました」


Works Applications America Inc.の富永さんWorks Applications America Inc.の富永さん
「我々の会社はアメリカに来て3年目。これからアメリカ人社員を雇っていこうという段階ですが、今日のセミナーでは日本の常識と違うところが随分ある環境だと分かり、勉強になりました」


JBAビジネスセミナー

どの企業にも関わる問題とあって、90名近くの参加者が熱心に耳を傾けた

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