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第103回ビジネスセミナー
「日米移転価格税制の 最近の動向について」開催

去る12月13日、ホリデーイン・トーランスにて、「日米移転価格税制の最近の動向について」と題してセミナーが行われた。移転価格税制対策はグローバルに事業を展開する企業における最も重要な税務課題のひとつ。最近は日本でも、複数の大型移転価格課税が行われ、二重課税を回避するための解決策を図る企業が増えている。今回は、新日本アーンストアンドヤング会長である羽床正秀氏による「改正移転価格事務運営指針および費用分担契約について」、同社税理士法人顧問の別所徹弥氏による「移転価格調査と相互協議」、同社のパートナーである古賀陽子氏による「日米APAによる相互協議」の3つのレクチャーが行われたが、その中から「日米APAによる相互協議」の内容を紹介する。

移転価格とは 何か?

新日本アーンストアンドヤング、パートナーの古賀陽子氏

 まず、移転価格とは何かを簡単に説明します。例えば、日本の親会社で製造した製品を、米国の子会社で売るとします。親会社では製造原価が50円かかり、それをアメリカに100円で出したとすると、日本側の儲けは50円です。アメリカの子会社はこれを200円でマーケットに出したとします。結果アメリカの子会社は100円の儲け、日本の親会社は50円の儲けになります。 ところが日本からアメリカへの「出し値」を150円にした場合、日本に100円落ちます。そしてアメリカの子会社は150円で仕入れて200円で売りますので、50円の利益がアメリカに落ちます。このように日本からの「出し値」をいくらに設定するかでそれぞれの国で落ちる利益が変わりますが、この日本からアメリカに出す「出し値」が移転価格の対象になります。

 この「出し値」をいくらに設定すべきかが、日米間の移転価格の議論の対象となっているわけです。親子会社間ですから、この「出し値」は左右できます。例えば、親会社の利益を恣意的に下げようと思えば、親会社が50円で作ったものを子会社に60円で売ることもできます。ところがこれは国税庁の立場から見ると「ちょっと待った」となるわけです。 今お話ししましたこの「出し値」をどういう形で算定するか。これを移転価格算定方法と言います。この算定方法にはまず基本三法があります。1つ目はCUP法(Comparable Uncontrolled Price Method)です。これは、同じ形態の製品を、同じ条件で、同じ量だけ、第三者同士がやり取りしていたらその値段を参考にするというものです。例えば第三者がこの同じ製品を150円でアメリカに出している場合に、その価格を参照する方法です。 2番目はRP法(Resale Price Me-thod)です。これは一般に販社に適用されますが、アメリカの販売子会社と同じような企業リスクを持っている第三者がアメリカでこの製品を売った場合にどれくらいの粗利益を得ているかを見ます。そしてその粗利を得るためにはいくらで仕入れなければいけないかということで「出し値」を逆算する方法です。 もう1つはCP法(Cost Plus Me-thod)です。これは一般に製造会社に適用されますが、例えば日本の親会社が50円で製造している同じような製品を、第三者はそのコストに対して何パーセントを乗せて売っているかを見るものです。この基本三法の他に、これに準ずる方法やPS法(Profit Split)などがあります。  

この移転価格税制に関する課税額が、日本では今、急増しています。国税が2005年度に企業に課税した調整額は2836億円。2年前の03年度は758億でしたので、今や4倍近くなっています。なぜこんなに課税が増えているか。1つの理由としては日本国内での製造が、だんだん中国やアジアの子会社に移ってきて、日本からは技術しか出していない状況が増えてきたため、日本での製造が空洞化してきたのです。 そこで着目したのが無形資産です。税務当局の方では日本の親会社が研究開発等を行っている場合は、相当の無形資産を持っていると認定していますので、応分な利益を上げるべきだと考えています。ところが、一方的に海外の子会社に利益がついて日本の親会社に利益がつかない場合は、日本側で移転価格調査の対象となる可能性が高くなります。どのように調査対象会社を選定するかという例ですが、例えば税務申告書の別表17(3)の内訳に海外子会社の売上や営業利益等が表記されており、そこで海外の子会社の利益が出ている場合に目をつけられる、あるいは当局は通常の税務調査から移転価格に関する情報も入手可能ですので、ここでもアンテナを張っています。  

税務調査で移転価格に関して不審な点がある場合は、移転価格の国際情報の部署に案件が回されます。そして通常調査の別部隊として、この移転価格調査の専門チームがやってきます。通常移転価格調査はまず実態調査をします。移転価格に関する質問が書面あるいはインタビューを通じて2カ月くらい行われた後、所得移転の蓋然性があると当局が判断した場合は、1年から2年の本格調査が入ってきます。この間、企業の税務担当の方は詳細な資料を要求され、膨大な労力と時間をかけることになります。移転価格に問題ありと判断された場合は更正処分が行われます。この処分は6年遡ることが可能ですから、1年で10億の更正処分だとすると6年で60億円。昨年の最高額では、1件で1223億円の更正処分を受けています。  このようにビジネスで事業部の皆さんがどんなに苦労をして儲けても、巨額な移転価格更正が入った場合、その結果が大きく異なってしまう可能性があるのが移転価格調査の怖さです。ですから最近は税務の担当者が一種のリスクコントロールとして、「どうやって移転価格に対応するか」を真剣に考えておられます。

移転価格調査を事前に 防ぐための確認制度「APA」

 この移転価格の調査をどうやって未然に防止するか。方法は1つしかありません。それはAPA(Advanced Pricing Agreement)を申請することです。日本ではこのAPAの申請書を当局に正式に提出した時点から、移転価格調査の対象になることはありません。ただし、調査に先に入られていますと止めることはできません。調査と申請のいずれが早いかが勝負です。 このAPAは国外関連者との取引価格の設定方法について、納税者と税務当局の間で事前に確認を得る制度です。要は取引価格について事前に「お墨付き」をもらうものです。アメリカのIRSと日本の国税庁は、年に3回協議をしています。ここでは移転価格算定方法や、APAの対象取引の範囲などに合意したりします。  

APAでは将来5年分の取引について、しかも日本の場合は最長で過去6年間の取引に対してもこの合意が適用されることがあり得ますので、将来と過去で最長11年間の取引について確認を取ることが可能です。つまりこのAPAの合意を得ることは会社にとっては保険のようなもので、APAでは通常適切と認められるレンジが設定されますので、その範囲内に収まるように日々のオペレーションをすれば調査の心配はないことになります。また1度APAを取得されますと次の5年間についても、それに基づき比較的簡単に更新することも可能です。 APAのプロセスですが、通常は2国間APAは、申請と同時に租税条約に基づく相互協議を申し立てます。APAを申請するとまず、日本の場合は当局がAPAの内容をチェックします。その後はAPAにつき局から正式な意見が出ます。その意見が出て初めて国税庁の相互協議室が、相手国とこの案件について交渉する権限を得ます。  

重要なこととして、2国間APAを申請する場合には、日本のみでなく相手国における移転価格税制および税務当局の動向を理解する必要があります。これは言うのは簡単ですが、なかなか実現するのは難しいことです。例えば日本の親会社ではこういう方法で移転価格を提案したいと思っていても、それがIRSに果たして受け入れられるかどうか。これがなかなか難しいのです。どのような方法で算定するかを模索するために、当局との事前相談というものが設けられています。

APAで二重課税の リスクを排除

参加者たちはレクチャーに熱心に耳を傾けた

 APAのメリットの1番目は、二重課税リスクや更正リスクを排除できること。2番目は、独立企業間価格に幅を持たせられることです。これは大きいですね。例えば、検証対象となる海外子会社の営業利益率の実績が1%しかなく、比較対象会社の中位値(営業利益の平均値)が6%だった場合、この差が5%となります。日本で調査された場合は通常中位値までの調整額が計算されるため、100億の売上げの会社の5%は5億ですので、6年で約30億の移転価格調整額になります。ところがAPAなら、幅が認められますので、例えば独立企業間価格の差が1%から5%となると、会社の利益率が1%でもぎりぎり枠内に入ります。こういう融通がきくのがAPAです。  

3番目は税務当局対応コストを節約できることです。移転価格の調査は非常に時間がかかります。1年から長いところは3年ぐらいかかり、その後の二重課税解決のための相互協議にさらに1、2年かかりますし、解決したとしても過去の課税年度のみです。APAの場合は調査と比べれば、膨大な資料要求がないため比較的時間が短縮できます。 4番目のメリットとして、調査対応とは異なり、税務当局との友好的な環境のもとで会社が対応できます。5番目として、過去年度へのロールバック(遡及適応)も申請可能です。調査があって調整があった場合、APAと過去年度の調整額を一緒に検討するよう要請することが可能です。6番目に、社内の方針の明確化を促せます。社内で事業部の方に「移転価格のリスクがありますよ」と言ってもなかなか聞いてくれない。ところが「APAでお墨付きをもらいましたから、アメリカの子会社はこれに従ってください」と言えばガイドラインとして使えるので、非常にリスク回避のコントロールがしやすい。7番目は、調整があったとしても、過少申告加算税は課せられないという利点があります。  

ですから、ある程度リスクが高い場合はAPAを選択されることをおすすめします。APAによって最長将来5年、過去6年間のリスクが回避できますので良い選択だと思います。実際かなりの会社がAPAを選択しておられます。



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