JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2014/9/12

企画マーケティング部会 第173回 JBAビジネスセミナー「ビジネス上知っておくと得をする米国法 ~日本の慣習(法律)と比較しながら~」

去る9月12日、トーランスのミヤコハイブリッドホテルで、第173回ビジネスセミナー「ビジネス上知っておくと得をする米国法~日本の慣習(法律)と比較しながら~」を開催した。講師はPillsbury Winthrop Shaw Pittman LLPの木本泰介弁護士。「Presidentと代表取締役の違いは?」「従業員に聞いてはいけないことは?」「リース契約をするときに気をつけることは?」「従業員に聞いてはいけないことは?」など、アメリカでビジネスをする上での注意点を日米のビジネス慣行を比較しながら解説した。

会社法について

セミナーは法人形態のおさらいから始まった。日系企業にとって主な形態には「Corporation」「LLC」「支店」の3つがあり、アメリカで事業を営む場合、「Corporation」か「LLC」を選ぶケースが多いという。どちらも日本の親会社にとって有限責任であることが重要な点である。これに対して「支店」は、法的に親会社と同一主体であり、支店で負った責任は親会社も負担することになる。また、木本弁護士は「日本の所得税法と日米租税条約の面からも『Corporation』にした方がメリットは多いです」と語る。

会社設立をどの州でするかを考えると、現在上場企業の多くはデラウェア州で設立しているそうだ。理由は会社法が株主と会社との関係では会社側に有利であり、判例が蓄積されているため判決の予測が付きやすいから。しかし、日本の会社の100%子会社であれば、どこでビジネスをするかで設立準拠法を決めればよく、実際に南カリフォルニア地域の日系企業もカリフォルニア州法人であることは多い。

次に「コーポレートガバナンス」に話が移った。まず、アメリカにおける「Corporation」と日本における「取締役会設置会社」の機関構成の違いを説明。「Corporation」では「Board of Directors」がPresident等のオフィサーを選任するのに対し、「取締役会設置会社」では取締役の中から代表取締役が選任される。いずれの場合も「取締役会はPresidentや代表取締役を監督する機能を有する組織であり、決して代表取締役の下部組織ではないことをご理解いただきたい」と話す。各参加者の企業においても、どのような構成がPresident等オフィサーの業務執行に対する監督をするのに最適な構成なのか、検討していただきたいと強調した。
 「Corporation」で定期的に行わなければならないのは、「定時株主総会」や「取締役会」の他、各州への届出である。こうした作業や、子会社が独自に経営判断をするという視点は、法人格否認の法理の観点からも非常に重要な意味があり、「決して失念しないように」と注意を促した。

労働法について

カリフォルニアでは4社に1社が従業員に訴えられている。EEOC(Equal Employment Opportunity Commission)などの公的機関が原告となる訴訟も増加しており、また、2004年には、一定の権利を侵害された従業員のために、私人が州の代理人として罰金を求められる制度が施行された。特にカリフォルニア州は労働者寄りの規制が多く、他州よりも雇用者にとって労働法は厳しい。

カリフォルニア州では労働における差別の定義が広範囲で、人種や宗教、性別以外にも、年齢、健康状態、性的嗜好、遺伝的特徴なども対象となる。
労働者募集の際の注意点として、「『At-will』の雇用契約であることを明示してください」と語る木本弁護士。At-willとはいつでも自由に雇用契約を解消できる労使形態のことで、日本にはない概念。
従業員は、ハンドブック(就業規則)の規定に従うことになる。「アメリカの労働法は頻繁に変更されますので、その都度ハンドブックは改定し最新の労働法に対応しておいてください」。
よくある有給休暇の質問について木本弁護士はこう語る。「有給休暇日数は法的に定められておらず、極端な話をすればなくてもいいのです。しかしその業界の平均休暇日数に照らして与える例が多くみられます。ただし、一度休暇の権利を与えると、その後、それを奪うことはできず、休暇未消化の分は、金銭で補償する義務があるので注意してください」。

契約について

 「契約は当事者間でのルール作り」と語る木本弁護士は、ルールを作る際に大陸法系と英米法系の異なる考え方があると説明。日本が採用する大陸法系と異なり、アメリカが採用する英米法の下では判例をベースにルールが作られており、争いになった際にたくさんの類似の判例を調査するよりも、契約書を作って詳細なルールを前もって作ろうとする考えが定着している。異なった価値観を持つ人たちがいるということも背景としてある。結果として、アメリカで用いられる契約は分厚いものが多くなっている。

 不動産賃貸借(リース)の話題では、アメリカには日本の借地借家法のような賃借人を保護する法律はないことから、契約書の内容が非常に重要となることを紹介。契約に規定がない限り、中途解約はできず、借りてしまうと契約期間は原則として、賃料を払い続ける必要がある。
 契約規定の留意点として挙げたのは2つ。一つは、賃借人は賃料だけでなく税金、修繕費用、保険料なども負担しなければならない「Triple Net Lease」という規定。もう一つは賃借人が賃貸物件のメンテナンスや共用部分に関わる費用も負担しなければならないという「Additional Rents」である。
 さらに、最近日系企業に関心のあるM&A取引に関する契約についても触れた。株式売買、資産売買、ジョイントベンチャーといった、M&A取引の種類、それぞれの取引のメリット、デメリット、M&A取引の流れについても説明があった。「M&A取引がいったん始まると、大量の情報が集まりそれを迅速に処理していかなければなりません。そのためにも、このように一度取引を概観しておき、M&Aをいざ行うときにあらかじめ備えておくことが重要です」と木本弁護士は強調した。

訴訟について

アメリカが訴訟大国なのは、積極的に訴訟を利用した方がメリットが多いからである。また日本では訴訟は最終手段であるのに対し、アメリカでは訴訟は交渉の手段。訴訟になっても実際に裁判まで進む確率は低く、通常は和解で決着するケースが多い。

訴訟が交渉手段として大きな役目を持っているのは、「Discovery」(証拠開示手続き)というシステムがあるからだとする木本弁護士。これは、相手が開示請求すれば訴訟に関連するものは全てを開示しなければならないという手続きのことで、書類だけでなく、第三者を含めた関係者の供述や電子データやメールなど広い範囲での開示を義務とする。

通常電子データは膨大にあるため、その集積には巨額のコストがかかる。その点について木本弁護士は、「Discoveryコストを軽減するための備えとして、『Retention Policy』を定めておいてください」と提案。これは「文書保存規程」のことで、文書の保存を義務付けるだけでなく、定期的にEメールなどの電子データや文書を削除することも規定しておくことが重要である。これにより、万が一訴訟となり、Discoveryに対応しなくてはならなくなったとしても提出する文 書量は少なくて済む。ただし、訴訟開始が分かった時点で電子データを処分するのは厳しく禁止されている。

Discoveryの例外として「Attorney-Client Privilege」(秘匿特権)が設けられている。これは弁護士とクライアントの間で交わされたコミュニケーションやそれに関する証拠の開示は拒否できるというもの。従って木本弁護士は、極力早い段階から弁護士を関与させるのも訴訟対策の一つだとしている。
訴訟の対応策として木本弁護士は、①契約書の作成、②仲裁の利用、③損失を補償する保険への加入の三策を紹介。②は当事者の合意に基づき第三者である仲裁人が紛争を解決する方法で、これにより陪審裁判やクラスアクションを回避できる他、Discoveryも軽減できるという。③にはいくつか注意点があり、木本弁護士によると、(A)保険会社には適時に通知し、支払いが拒絶されないよう保険会社の定める手順に従うこと、(B)保険会社と被保険者の利害が一致しない場合もあるため、保険会社に任せきりにせず、重要な意思決定には積極的に関与すること、(3)保険会社の支払い拒絶を簡単に受け入れず、保険のポリシーを見ながらできることを考えて対応することの3点を強調した。

第173回ビジネスセミナー

定員以上の参加希望があったため、席を追加して対応。関心の高さをうかがわせた

木本泰介弁護士[講師]
木本泰介弁護士
Pillsbury Winthrop Shaw Pittman LLP, Los Angeles office勤務。カリフォルニア州および日本の弁護士。約5年間日本で弁護士として勤務後、2007年カリフォルニア州司法試験合格、同州弁護士登録。14年までReed Smith LLPに勤務し7月より現職。


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