JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2015/11/16

第189回 JBA/JETROビジネスセミナー 「米国コンサルタント視点による全米経済動向について」

去る11月16日、Toyota USA Automobile Museumで第189回JBA/JETROビジネスセミナー「米国コンサルタント視点による全米経済動向について〜特に、CA州及び南CAに着目して〜」を開催した。講師を務めたのは、JPMorgan Chase & Co.のコマーシャル部門ヘッドエコノミスト、ジェームズ・グラスマン氏。専門家による米国経済動向の詳細な解説に企業人らは熱心に耳を傾けた。

ジェームズ・グラスマン氏[講師]

ジェームズ・グラスマン氏
JPMorgan Chase & Co.コマーシャル部門ヘッドエコノミスト。1979〜88年、ワシントンD.C.の連邦準備制度理事会・調査統計局のシニアエコノミストを務めた後、88年よりMorgan Guarantyに、93年よりChemical Bank(どちらも現・JPMorgan Chase & Co.)に勤務。

世界経済の現在の見通しと
世界的金融危機の背景

米国経済を専門とするエコノミストのグラスマン氏は、米国経済を見る際でも必ず各州に注意を払うと話し始めた。特にカリフォルニア州(以下、加州)の動向には、米国経済がより強調された形で現れ、米国経済が不況にあれば、加州の経済はさらに弱って見え、米国経済が回復傾向にあれば、同州経済はさらに早いペースで回復していく。「なぜかと言えば、加州の税制は連邦よりも進歩的であり、経済が回復に向かうと、税収入も劇的に回復するからです」。

最初のスライドとして、2006年から19年までの各国のGDP成長率および予測を示すグラフが紹介された。「簡潔に言えば、世界経済の見通しは非常に希望が持て、中でも米国経済は回復を強く期待させます」。
グラスマン氏は、08〜09年にかけての極端な下降線を示し、リーマンショックに端を発した世界的金融危機の背景を解説。米国では住宅購入者の不動産ローンは証券化されて世界各国の投資家へ販売されており、当時、その不動産ローンはクレジットヒストリーが悪い人にも貸し付けが行われていた。だが過度な投機により住宅価格は、実際はそうした人々がローンを支払える額を越えてしまっていたため、いったん返済が滞り始めると、一気に住宅価格が下落。金融市場にも大きな影響があり、投資銀行のリーマンブラザーズが経営破綻。金融市場はパニックに陥り、その影響は世界中に波及した。
他の先進国に比べて、輸出に経済の多くを頼る日本も、その影響を強く受けた。影響の大きさは同時に、日本経済と世界経済との密接なつながりを示すものであるとグラスマン氏は指摘。また、同氏はエコノミストとしてのキャリアの中で、この金融危機の際に起きた規模での信用力の低下や、投資家らの貸し渋りを見たのは初めてだったと語り、この世界的金融危機は非常にユニークな現象だったと言えるとも話した。

 

不況に対する各国の対応と影響

「さて、ここで疑問は『なぜ国によって景気回復の感じ方が異なるのか』です」。世界的金融危機発生時には、欧州中央銀行(ECB)も日本銀行も連邦準備制度理事会(FRB)も一様に短期金利を引き下げた。さらに FRBは長期金利引き下げの目的で資産を購入し、長期金利は約2%まで低下。一方で、日本銀行やECBはつい先頃まで慎重な対応を取ってきた。「他国がまだ景気活性化策を取っている段階であるのに対し、FRBはすでに金利引き上げを目前とする段階にあるのは、こうしたことが理由です」。

同氏はさらに踏み込んで日本の状況を解説。日本は1990年代初頭のバブル経済崩壊以後の長い不況に苦しんできており、インフレ率はほぼゼロ。この間、日本銀行は経済を活性化させようとしてきたが、行動を取るたびに日本は円を弱めていると非難され政府は対応に苦慮。しかし12年に安倍首相が就任すると、日本銀行は資産買入に積極的になっただけではなく、その買入目的は、FRBとECBが期待する2%のインフレ率であると宣言したのである。その宣言によって、資産購入後もインフレ率が低くとどまった一方で通貨価値は下がったにもかかわらず、日本は全く批判を受けなかったのである。セミナー開催時の11月時点で、円は安倍首相就任時に比べて62%近くまで下がっている。「私は日本経済は今後ゆっくり回復に向かうと予測しているのですが、その理由はこの円安にあります」。

一方でECBが慎重な対応を取ってきたのには、別の理由がある。欧州債務危機が発生すると、「EUは崩壊するのではないか」とささやかれ、パニックが発生。その収束にECBは非常に骨を折り、14年までは踏み込んだ政策を行わなかったのである。しかし、15年、ECBも量的緩和政策を導入。それ以前に比べ、ユーロはドルに対して約20%近く安くなった。「実際、欧州経済は良いパフォーマンスをしていると言えます」。

世界経済全体については、グラスマン氏は不況からの回復途上にあると楽観的な位置付けを行った。「世界的金融危機からの回復は、欧州債務危機によりその速度は落ちたもの、現在は速度も戻りつつあり、米国の雇用市場も改善されています」。
楽観的な見方を支える理由は2つある。一つは14年に起きた原油価格の下落である。「原油価格が下がれば、日本や中国、インド、米国やヨーロッパも含めて、生産量よりも多く原油を消費する国々では、消費者やビジネスオーナーらはエネルギーコストを削減でき、その資金をその他の物の購入や、貯蓄、返済などに回すことができます」。無論、ロシアやベネズエラ、中東、メキシコなど産出国には非常に大きなマイナス点であり、メキシコの通貨価値が下がったのは、原油価格の下落と無関係ではない。
もう一つの理由は、各国中央銀行が金利を下げるために取っている積極的な政策による、相対的なドルの価値の上昇だ。ドル高になれば苦しむ米国輸出業者も出るが、ドル高の理由が各国中央銀行の積極的な政策である限り、ネガティブな影響を相殺して余りあるとグラスマン氏。「それによって金利は下がりますし、欧州や日本経済は速いペースで回復します。強いドルは、米国経済にとって良いことなのです」。

189-seminar02

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