JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2016/4/29

第193回 JBAビジネスセミナー「駐在員が知っておきたいアメリカでの組織と人の動かし方」

去る4月29日、トーランスのミヤコハイブリッドホテルで、第193回JBAビジネスセミナーを開催した。当日は、USJPビジネスアドバイザーズLLC代表の遠山明彦さんが講演。日米文化の差異に起因する日本人駐在員と現地社員の摩擦誤解など、在米日系企業が直面する切実な問題とその対応策について解説した。

遠山明彦さん[講師]

遠山明彦さん
USJPビジネスアドバイザーズLLC代表
1985年カリフォルニア州立大学ドミンゲスヒルズ校コンピューターサイエンス学科卒業後、Ernst & Young会計事務所にITシステムコンサルタントとして入所。以降Arthur Andersen、KPMGコンサルティング、PROTIVITIなどで日系企業向けコンサルティングの北米責任者を歴任。現在は、09年に7名のコンサルタントで立ち上げたUSJPビジネスアドバイザーズの代表として日本企業の北米事業の経営を支援している。


日系企業が直面する課題と
その根本的解決について

講師の遠山さんは、セミナーの冒頭で企業が活動する上での基本姿勢を確認。会社の収益力は「事業戦略×業務のやり方×人材力」で表されるとし、このセミナーが人材力に特化したものであると説明した。人材力は「社員数×各社員の能力×やる気」で表され、社員のモチベーションを上げるためには彼らの能力を発揮できる組織作りが重要とした。

次に日本企業(駐在員)の特異性、つまり現地社員の持つ日本人観の話題に移った。肯定的な意見としては「高い倫理観」が上がったものの、釣り鐘型の社員構成や集団主義などの組織体制、時間がかかる意思決定、パフォーマンスに連動しない人材管理(年功序列や終身雇用)、安定志向や減点主義に起因するリスク回避など、日本企業のユニークさに困惑する現地社員の姿を紹介。これについて遠山さんは、「アメリカでビジネス展開する以上、まず自分たちがアメリカのスタンダードから乖離していることを認識してください」と語った。

次に日系企業が直面する問題点とその対策について解説が始まった。


優秀な人材採用について

「良い人材が雇えない」という声をよく耳にするという遠山さん。その原因として4つを指摘した。
(1) 社内で欲しい人材像が検討されておらず、優秀な人材の定義があいまい
(2) 候補者に会社や仕事の魅力を訴求していないため、その魅力が伝わっていない
(3) 能力の低い現地社員が幹部になっており、優秀な人材を雇うことで自分の能力の低さが露呈することの懸念から優秀な人材を雇おうとしない
(4) 担当者が採用のノウハウを持っておらず、採用方法や待遇が不適切

次に遠山さんは、人材採用のプロセスは「要件定義→募集・告知→志願者受付→評価・選定→精査・交渉」の5段階が一般的とし、要件定義では職務定義書の作成・修正が重要とした。また募集・告知ではインターネットや業界紙、人材紹介会社などの方法があるが、会社の知名度や募集ポジションなどにより採用方法を使い分けることが重要とした。さらに、「志願者受付では、応募者の長所で埋め尽くされた履歴書の行間から本人の真意を読み取る高い人事スキルが必要ですし、評価・選定では自社のアピール=会社の売りを何にするのかの事前検討も重要となります。志願者はいいことしか言いませんから、その発言に惑わされることなく裏付けデータを収集し、正しい人材評価を行ってください」と語った。

良い人材の定義を考える時に重要なのが「コンピタンシー」と語る遠山さん。これは「知識+スキル+言動(行動パターン)」を含む人材の要件のことで、遠山さんは各ポジションで必要なコンピタンシーモデルを作成することを奨励した。一度モデルを作っておけば、人材募集や候補者評価、人事考課、教育プログラム作成など多様なシーンで活用できるからだ。ちなみにコンピタンシーは、職務、職位などによって異なり、同じ業界の2つの会社の営業職の必要コンピタンシーが事業の方針によって大きく異なることもある。


現地社員のパフォーマンス向上について

「現地社員は言われたことしかしない」などの悩みもよく聞くという遠山さん。その原因は次の通り。

(1) 能力以上の職に就いているため、考えて行動できない
(2) 会社が仕事の目的を十分に説明していない=現地社員が仕事を理解していない
(3) 駐在員が必要な仕事の品質を理解していない=現地社員に求める仕事の質が高すぎる
(4) 業務のやり方やシステムが古くて効率が悪く、業務遂行に時間が足りない

現地社員のパフォーマンスを向上させるためには、日米における教育の違いから彼らの価値観や行動パターンを見ると分かりやすいとする遠山さん。

「日本の教育ではルールを守り、教わったことを正しく覚えることに重点が置かれますが、アメリカでは自分の考えを明確にして相手に伝えることが重視されます。また集団行動を重んじ誰も傷つかないように順位付けを避ける日本に対し、アメリカは個性や自主性を尊重し、競争させて伸ばす国です。従って、こうした教育環境にいた現地社員に日本人的な行動パターンを求めること自体が得策ではありません」(遠山さん)。


優秀な社員の定着について

優秀な社員が会社に残らない理由について、遠山さんは以下のようにまとめた。

(1) 上司や同僚の能力が低いため、自分の能力が生かせない
(2) 年功重視の報酬体系であるため貢献が認められない
(3) いくら頑張ってもCEOやCFOになれないなど昇進機会が少ない
(4) 会社側に社内を活性化する努力が足りないことから社員全体のモラルが低下し、それにより優秀な社員が仕事に楽しさを見出せなくなる

遠山さんは、SHRMという人事専門家団体が分析した「社員が会社に求める姿勢とその満足度」を紹介。一般的な米国人社員が重要と考えるが満足していない項目の中には現地マネージャーの努力次第で比較的早く改善できることがあると指摘し、参加者らにも意識改革を促した。その内容は次の通り。

• 社員を重視(リスペクト)する姿勢
• 一般社員と幹部社員の相互の信頼
• 直属の上司との関係
• 自分のアイデアに対する上司の興味
• 自分の貢献に関する幹部社員の理解度
• 一般社員と幹部社員の意思疎通
• 経営幹部による雇用主の目標と戦略の説明


現地社員とのチームワーク強化について

アメリカではセクハラ、パワハラ、差別問題などが絡み、現地社員との関係構築・改善に悩む駐在員が多い。これについて遠山さんはいくつか実践的な対策を紹介した。まず、現地社員との会話の内容について以下のようにまとめた。

○(話せるトピック):天気、スポーツ、音楽、娯楽、食べ物
△(場合によってはOKのトピック):家族、子ども、政治
×(避けるべきトピック):人種、宗教、年齢、恋愛、外見

ただし、△や×のトピックでも互いの親密度によって段階的に可能となる場合があるとした。

また、同じトピックでも話す場所によって相手の受け取り方が変わることを指摘。休憩室での雑談なら問題なくても、採用面接での発言となると問題化する場合があるほか、部下、上司、他部門の社員など発言者によって問題の度合いも変わるとした。最後に遠山さんは、現地社員との信頼関係構築のためのヒントとしてこう語った。

「現地社員との関係を築くためには、まず自分のことから話してください。また、仕事以外の話題を探す時は相手が話したことを掘り下げる方法もあります。相手の話を真摯に聞き、質問するなどして相手への興味を示してください。トピックの良し悪しに迷ったら、話題にしてもいいかどうかを相手に確認すれば良いのです。人を動かすマネージャーである以上、社員を理解するために時間を割くことは不可欠。英語力や表現力、マナーなどの会話術も積極的に学び、練習・実践してください」と参加者らにも積極的な関与を促した。


7つの代表的な悩みとその解決法

講演では紹介できなかった項目も含め、セミナーの開催後、遠山さんがアメリカの組織と人の動かし方について重要な点を要約したものが以下である。日々の組織運営の現場で役立ててほしいとしている。

(1) 良い人材を採用するために…
コンピタンシーを文書化するなどして社内および社外(人材紹介会社など)と共有する。給与や採用方法を工夫し、採用担当者に経験がないなら外部を活用する。給与が市場平均より低いなら上げる。能力のない社員3人より有能な社員2人の生産性が高いケースをよく見かける。

(2) 現地社員にもっと良い仕事をしてもらうために…
具体例を使って時間をかけて上司の期待を正しく部下に伝える。それでもできない社員にはより簡単な仕事を与え期待値を下げる。

(3) 現地社員に責任感を持たせるために…
社員によって仕事に対する考え方や目標は異なるため、各自の現状や目標を理解してやる気を与える仕組みや場面作りに注力する。

(4) 優秀な社員が辞めない会社にするために…
能力(やる気)のない社員ばかりの会社に能力(やる気)のある社員は残らない。従って、能力のない社員を解雇するか降格する。

(5) 社員の抵抗を抑えて仕事のやり方を変えるために…
変化に抵抗するのは人間の性質である以上、社員がその変化を嫌う理由をきちんと理解したうえで対策を講じる。

(6) 問題社員を減らすために…
アメリカでは解雇するのもされるのも当たり前。能力と職務が合致しない社員の解雇は、会社・社員両者にとって良いことである。人事考課制度などを設計通りに活用しながら問題社員の入れ替えを図る。

(7) 現地社員とのチームワークを強化するために…
管理職の日本人は、英語での会話術やアメリカ人との付き合い方が重要なスキルであることを認識し、積極的に勉強する。現地社員との交流に多くの時間を使い、各人との信頼関係を少しずつ構築することに注力する。


参加者の声

照井さんH.I.S International Tours (NY) Inc. の照井さん
「実際に採用業務を担当しています。アメリカでは採用がとても難しいため、今日のセミナーでいろいろ知識を積もうと思い参加しました。私が属する旅行業界は離職率が高いとのことで、弊社の魅力を十分に伝えることがいい人材の確保に不可欠であることを認識しました」


リチャーズさんPasona NA, Inc.の リチャーズさん
「弊社は今後事業拡大に合わせて人材採用、人材管理、組織などを一新したいと考えています。私はそのプロジェクトを担当しており、現在人材を募集中なのですが、今回のセミナーで優秀な人材の採用方法から活用方法までご説明いただいたので非常に参考になりました」


日本人駐在員、管理職が日々直面する問題対策のセミナーとあって会場は満員となった。

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