JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2017/2/23

JBA特別経済セミナー「米国経済の現状とトランプ政権下での経済展望」

去る2月23日、トーランスのミヤコハイブリッドホテルで、特別経済セミナーを開催した。講師の三菱東京UFJ銀行経済調査室ニューヨーク駐在チーフ米国エコノミストの栗原浩史さんが、新政権となり大きな注目を集める米国経済の現状と課題、展望を分かりやすく解説した。

[講 師]

栗原浩史さん
栗原浩史さん
三菱東京UFJ銀行経済調査室ニューヨーク駐在チーフ米国エコノミスト。1999年、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。資金部、三菱UFJ投信出向等を経て、2011年から経済調査室(東京)にて米国と中国のマクロ経済分析を担当。14年11月より現職。

米国経済の現状と経済政策の行方

新政権下での経済の動きは日系企業にとっても大きな関心事であり、本セミナーには110名超の参加者が集まった。講師の栗原さんは、新政権下での経済政策および展望を語る前に、まずは米国の景気の現状を解説。米国の2016年10〜12月のGDP成長率は前期比年率+1.9%で、16年後半は平均2%超を記録している。「現在の米国経済はGDP成長率2%程度が順行速度と言われています。15年後半から3四半期連続で2%を下回っていましたが、昨年後半は景気がかなり良くなってきています」。大統領選以降、株式市場も上昇しているが、これは米国の景気が足元で良くなってきているタイミングだったことも背景にある。

加えて「米国の足元の景気を見る上で最も重要な経済指標だと思います」として、企業にアンケートを取って月次で発表されているISM指数も紹介した。これには製造業と非製造業の指数があるが、どちらも17年は回復感が鮮明である。

続いて、話題は新政権下での経済政策に移った。ドナルド・トランプ大統領の主張する経済政策をまとめたスライドを映しながら「共和党の主張と同様の、減税や規制緩和、オバマケアの廃止に加え、民主党が主張しているようなインフラ投資の拡大や教育・子育て支援の拡大をも主張しています。また、以前はどちらの党も主張していなかった厳格な移民政策や保護主義的な貿易政策も主張しています。選挙の勝因には、8年間の民主党政権の後で変化を求めた世論に加えて、こうした経済政策の組み合わせもあるのでは」と栗原さん。

就任1カ月目までにトランプ政権が実施してきた事柄について、大統領が指名し上院の承認によって就任する主要高官のリストや大統領令・覚書の一覧のスライドを映しながら解説。「大統領令・覚書は影響の大きかったものから意思表明に過ぎないものまで内容はまちまちですが、ひと言で言うと『有言実行』。選挙前に言っていたことを忠実に実行しようとしています」。トランプ大統領は、自分の仕事を「米国有権者との契約」として、文字にして発表しており、その中には「就任1日目の施策」と「就任後100日間に提出し可決を目指す10の法案」がある。前者は6〜7割が大統領令・覚書として実施済みだ。

大統領令についての報道が増えるに従い、栗原さんは最近「大統領令とは何ができるものなのか?」という質問をよく受けるという。「大統領令でできる範囲は非常に曖昧で、最終的には最高裁の判断に委ねられるような事象も多くあります。ただトランプ大統領は『就任1日目の施策』として挙げたことを大統領令でできること、『就任後100日間に提出し可決を目指す10の法案』を自分一人ではできず議会と協力してやっていく必要があると思っているのでしょう」。

政策の見通しと経済へのインパクト

続いて、 栗原さんは個々の政策についての見通しと経済への影響を解説した。気になる移民政策については、不法移民対策を強化していく一方で、合法的移民については抑制的な政策にまでは踏み込まないのでは、とし「経済にとっては労働力の若干のタイトさを感じるかもしれないが、マイナスの圧力になるほどではない」と見通しを述べた。

トランプ政権の移民政策と並ぶ目玉は貿易政策である。栗原さんは、今後、貿易赤字を削減するような政策が実施され、実際に貿易赤字が削減されると予測する。その際に変化が予想されるものの一つには、中国との貿易がある。近年、中国強硬派以外の主流派の経済学者にも「中国との貿易は再考する余地がある」と考える人が増えており、「中国の世界貿易機関(WTO)加盟以後、米国内で最大200〜240万人の雇用が失われた可能性がある」という意見もある。そうした失われた雇用は輸出セクターにシフトされるはずだったが、米国の労働市場はそれほど柔軟ではなかったのである。「雇用喪失には労働のオートメーション化という要因もありますが、政策議論の土台となる米国の分析は、中国の貿易がマイナスの影響を及ぼしたという見方に変化しつつあります」。共和党の貿易に対するスタンスも内向きに変化しており、トランプ大統領の主張と一致するところもある。

栗原さんは今後の政策としては、法人税改革に盛り込まれている国境での調整課税を一部実現し、その上で中国などに対して二国間での公平な取引を求めていくのではないかと見ている。そして、「貿易政策と税制改革は非常に密接につながっています」と話を続けた。トランプ政権は、非常に複雑になっている税制を簡素化し税率も引き下げるという税制の大幅な改正を主張しているが、現在は法人税についてトランプ大統領が当選前に主張していた改革案と下院共和党案が議論されている最中である。引き下げ後の税率に違いはあるものの、どちらも大幅引き下げを主張している。「下院共和党は赤字を拡大させない形で法人税を引き下げたいと考えており、ほかで税収を増やす措置が必要となります。その時に、対外貿易も改善したいという思惑とも合った政策が、国境での調整課税になるのです」。このほか、法人税改革に関しては、投資費用の取り扱いや海外子会社利益への課税についても改革が議論されている。

さらに栗原さんは、トランプ政権が主張するインフラ投資の拡大や規制緩和などについても説明。これらの政策を踏まえると、やはり結論としては有言実行ということになり、経済の成長率にはプラスに働くと見通しを述べた。「今年は影響はほとんどないと思いますが、来年は0.5%くらい成長率を押し上げるのではないでしょうか」。

米国経済の問題点とリスク

こうした経済政策は、経済成長率への影響よりも米国経済が抱える問題への対処となるのかどうかがより注目点だという。「うまくいけば2年後の中間選挙、4年後の大統領選でも共和党またはトランプ大統領と同じ主張をする人が当選するでしょうし、うまくいかなければ米国はより切羽詰まって危機的な状況になることもあると思います」。

米国経済が抱える問題点として、栗原さんは3つを挙げた。一つ目は「拡大してきた所得格差」であり、1930年代の大恐慌と並ぶ格差水準という大問題となっている。二つ目は「基礎的支出の価格高騰」で、これにより低所得層や中間層が生活の困窮に直面している。改善のための政策は多くは打ち出されていないが、経済環境が良くなれば改善を期待できる可能性がある。

三つ目の問題は「働き盛りの男性の中長期的な労働参加率の低下」。労働参加率とは、働く意欲のある人が人口の中に占める比率で、米国ではプライムエイジと言われる25〜54歳の男性の労働参加率が1953年の97.5%をピークに、2015年には88.3%まで低下している。「いろいろな要因がありますが最も大きな影響を与えたのは、技術進歩・グローバル化による低スキル・中スキルの労働需要の減少でしょう」。足元では失業率は低く労働環境が悪くないにもかかわらず、中西部を中心にあれだけ現状に不満を持つ層がいたのは、こうした労働市場から出ていってしまった人が中長期的に存在したことがあり、それが今回の選挙の結果につながったのではないかと分析した。この先の見通しとしては、2010年頃から製造業の雇用が回復する土壌もできつつあり、またトランプ政権は製造業を国内に戻すと言っていることから、税制改正などの政策が加われば製造業の雇用が増え、労働参加率も回復する可能性がある。

新政権下での米国経済のリスクについては、ダウンサイドはすでに巷で多様な議論がなされているが、栗原さんはアップサイドを指摘。米国の景気は、まず所得期待が高まり→それによって消費が増え→企業収益が増え→実際の所得が増え→消費が増えるという循環で作られているという。家計の所得への期待は、世界金融危機以降、低迷していたが14年後半に上昇。今は横ばいだがトランプ政権が誕生したことで米国の家計の期待に変化を与えられれば、成長率が高まる可能性もあると考えているそうだ。

最後に利上げと為替についても言及した。利上げについては連邦準備理事会の今後の人事に触れつつ、年内は6月、12月に2回、2018年は3回程度の利上げと予測。為替については、「トランプ大統領の主張する政策はドル高要因が多いと言われますが、最も推進したい政策であるはずの貿易赤字削減は、ドル高が進むような状況では改善されません。仮にドル高が進むような状況になれば、口先介入または他国と協調して水準を調整する状況もあるかもしれません」として、ドル円は110〜115円くらいで推移するのではないかと予測した。

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