JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2017/5/9

第202回 JBAビジネスセミナー「変化する中南米ビジネス環境とトランプ・ リスク~2017年中南米経済展望~」

去る5月9日、トーランスのToyota Automobile Museumで、第202回JBAビジネスセミナーを開催した。Teruko Weinberg, Inc.のTWI Global Business部門エグゼクティブリサーチャー/コンサルタントの水野亮さんが、メキシコ、ブラジル、アルゼンチンをはじめとする中南米諸国の政治・経済の現状と展望を分かりやすく解説した。

[講師]
水野 亮さん
水野 亮さん
TWI Global Business (Div. of Teruko Weinberg, Inc.)エグゼクティブリサーチャー/コンサルタント。前職の日本貿易振興機構(JETRO)在勤中も中南米・アメリカ市場や通商政策などに関する調査業務に従事。著書に 『アメリカからの中南米市場戦略』『FTAガイドブック2007』など多数。

中南米諸国の現状と日系企業の進出状況

豊富な鉱物資源と食料資源に恵まれ、巨大な消費市場を抱える中南米は、ビジネスにおいて注目の地域である。ここ10年近くブラジル、アルゼンチンの両大国は政治的失策による経済的後退局面にあり、日系企業にとって積極的に現地でビジネスを展開しづらい状況が続いていたが、近年は新政権が発足し、改革に取り組んでいる。今後の中南米経済をどう見るべきか、水野さんは自身のブラジル駐在経験と、最新のマーケットリサーチをふまえて解説を行った。

中南米諸国は、アンデス山脈の東西それぞれでFTA(自由貿易協定)を結んでいる。太平洋側のメキシコ、コロンビア、ペルー、チリの4カ国は、太平洋同盟を締結。大西洋側のアルゼンチン、ブラジル、 ベネズエラ、ウルグアイ、パラグアイの5カ国は南米南部共同市場(通称メルコスール)を結んでいる。

中南米の経済規模は、アジアと比較すると分かりやすい。「中南米全体のGDPは、東南アジア10カ国にインドを加えた経済規模に匹敵します。南米最大の市場を持つブラジルの2016年のGDPは世界9位で、7位のインドと11位の韓国の中間に位置します」。メキシコのGDPは15位で、東南アジア最大の市場であるインドネシアが16位とそれに続く。またアルゼンチン(21位)は台湾(22位)と、ベネズエラはタイと、コロンビアはマレーシア、チリはベトナムと同程度の経済規模である。国際通貨基金(IMF)の経済成長予測では、中南米全体の16年の実質GDP成長率は−1.0%だったが、17年には1.1%と、マイナス成長からの回復が予想されている。

以下は中南米主要国7カ国の基本情報と現政権、日系企業の進出状況である。

1) メキシコ
16年に人口は1億2000万人を超えた。12年に就任したペニャ・ニエト大統領がエネルギー改革、通信改革に取り組む。15年の日系企業数は899社で、この4年で400社近く増加した。

2) コロンビア
人口4858万人。14年に再任されたサントス大統領は、ゲリラ組織FARCと和平条約を結び、国内のゲリラ活動を抑制した。15年の日系企業は47社。

3) ペルー
人口3115万人。16年に就任したクチンスキー大統領と野党のフジモリ氏が協調し、財政改革、インフラ拡充を進めている。日系企業数は49社。銀や銅など鉱物資源の世界有数の生産国である。

4) チリ
人口は1782万人と少ないが、教育水準が高く、経済協力開発機構(OECD)加盟国でもある。国土を南北にアンデス山脈が貫いており、首都サンティアゴに人口の約3分の1が集中している。銅の生産量は世界一。日系企業数は87社。

5) ブラジル
人口は2億277万人で、中南米最大の市場である。16年にテメル大統領が就任。12〜13年には、日系企業による現地企業の買収による参入が相次いだ。16年にはオリンピックを開催。日系企業数は540社。

6) アルゼンチン
人口4302万人。15年にマクリ大統領が就任し、財政改革を進める。農産品の質が高く、特に良質の牛肉で有名だが、口蹄疫の発生により長い間各国から輸入禁止措置を受けていた。日系企業数は47社。

7) ベネズエラ
人口3083万人。「21世紀型社会主義」を掲げたチャベス大統領の後を継いだマデュロ大統領が迷走。16年のGDP成長率は−18%、インフレ率2200%。治安も悪化の一途をたどる。日系企業数は22社。


トランプ政権の対メキシコ
貿易政策とその実現可能性

メキシコに進出する日系企業にとって、トランプ大統領の保護貿易主義的な通商政策の行方から目が離せない。現在のメキシコは北米自由貿易(NAFTA)の恩恵により中南米随一の工業国に成長している。15年には自動車生産台数は357万台と、世界第7位を記録。21年には500万台に上り、ドイツに次いで世界5位になると予測されている。低い労働賃金などを背景に、自動車のほかにも海外からの電子機器関係、航空宇宙産業、医療機器企業の進出が拡大、産業集積が進んでいる。

ただ、メキシコの輸出割合は米国への依存度が非常に高く、全体の81%を占める。また、その主要輸出品目である自動車、電気機器、一般機械はアメリカの中西部の主要製造品でもあるため、トランプ大統領の貿易政策のターゲットになりやすい側面もある。ただし、現在のメキシコと米国の製造コストの差は、自動車部品で12.3%と言われており、現在の関税2.5%を上回る。電気、機械は14.6%(関税は0.1〜5%)である。それを上回る関税引き上げがない限り、メキシコは生産競争力を維持できる。

トランプ政権はメキシコに対する貿易措置として、NAFTAの脱退や35%の国境税の導入をほのめかしてきたが、現実的なのはNAFTAの再交渉だ。「ウィルバー・ロス商務長官は、NAFTAの原産地規則の厳格化に言及しており、そこを再交渉の争点にしてくる可能性はあります」と水野さん。

そのほか、日系企業は貿易救済措置(アンチ・ダンピング措置、相殺関税措置等を含む)に注意が必要である。貿易救済措置は世界貿易機関(WTO)にも認められている不公正な貿易に対抗する措置であり、トランプ大統領は3月に同措置の執行強化を発表している。一例として、中国を対象にトラック・バス用タイヤに52%の関税、日本などを対象に鉄筋コンクリートの鋼材で最大209%の関税を課す措置を執行している。これまで、現政権でアンチ・ダンピングの調査が開始されると、8〜9割の確率で何らかの措置が発動しており、動向に注意したい。

転換期を迎えたメルコスール

メルコスール5カ国の中でも、特に豊かな自然と、競争力の高い農産品を持つのがアルゼンチンだ。世界第5位の面積を誇る国土は、北部は「肥沃な土地」を意味するパンパ、南部にはパタゴニア地域が広がる。03年に就任した前キルチネル大統領と、後を継いだ妻の時代には、輸入を制限するなどしたためビジネス環境が悪化。だが、「2015年に就任したマクリ大統領は企業家で、それまでの輸入規制、為替規制、輸出税などを一気に緩和しました。日本や中国を訪問し、積極的に投資を呼び込もうとしています」。ただし、アルゼンチン国民には、国家からの保護を当たり前とする「ペロン文化」が根強く、その政策転換には抵抗も根強いという。

中南米一の大国ブラジルは、経済も文化も国内での地域差が大きい。首都サンパウロとリオデジャネイロの2大都市を含む南東部はオーストラリアに匹敵する経済規模を持つ。北東部は貧困地帯とされていたが、近年成長著しい。国全体として経済は変動が激しく、1989〜99年の通貨レアルの大暴落のあと、2001年に安定するも隣国アルゼンチンの通貨危機が影響して再び通貨が下落。2002年から始まったルーラ大統領時代に、好調な経済と貧困層向けの補助金「ボルサファミリア」などの社会的弱者を支える政策が両輪となって高度成長期を迎えた。だが、公務員の高い年金やばらまき政策が連邦政府の財政を圧迫、14年頃から景気に陰りが出てきた。15年にはGDPが−3.8%、16年には−3.6%のマイナス成長に突入。前大統領の罷免、閣僚の政治汚職問題の発覚などで政治は大混乱となった。

そこに誕生したのが16年に就任したテメル大統領である。「中道右派のテメル大統領は、憲法学者で元弁護士。支出過多でガタガタになっていた財政を、公共支出の上限を定める憲法改正をして健全化しようとしています」。ただし、大統領の取り組む労働改革、年金改革には国民の抵抗が強いという。「1943年に成立したブラジルの古い労働法は、 労働者保護の色が濃く、訴訟時に労使間の契約よりも労働法が優先されることで悪名高い」。しかし、それが改正されれば、「試用期間は90日間から120日間に、労働時間1日8時間、週44時間から、1日12時間、週48時間まで延長されるので繁忙期の操業がしやすくなるでしょう」という。

メルコスールのあとの3カ国については、「パラグアイはかつて政治的に不安定で汚職が蔓延しましたが、2013年にカルテス大統領が誕生し、ビジネスにとって動きやすい環境になったことで、海外からの投資が一気に拡大。ブラジルのサンパウロに比べて人件費は3分の2、電気代は3分の1という魅力もあり、近年には日本企業も進出し始めています」。ウルグアイについては「周辺諸国に比べて政治経済が安定していることと、真面目な国民性と高い教育水準が特徴です。今後、『フリーゾーン』(輸出加工特区)の制限が一部緩和される可能性があり、注目を集めています」。これらのメルコスール加盟国を利用すれば、通常は高関税のブラジルやアルゼンチンに関税ゼロで輸出することができる。一方で、政府と反政府デモの衝突が続くベネズエラの国内情勢は混迷を極めており、メルコスールから排除される可能性も出ている。

最後に水野さんは、数字で見るとまだ弱いところもあるが、ブラジル、アルゼンチンをはじめ改革が進んでおり、中南米の経済は17年後半、18年には回復基調に乗り、中長期的に見ればさらなる発展が見込めるのではないかとの見方を示した。日系企業がこれら中南米各国の特徴と、メルコスールなどの関税優遇措置を理解し、上手に利用していくことを勧めて締めくくった。

参加者の声

TAKASHIMA U.S.A., INC.の前島さんTAKASHIMA U.S.A., INC.の前島さん
「メキシコの産業資材のビジネスに関わってきましたが、今回はその他の中南米諸国のポテンシャルや、現政権下で抱える諸問題を学ぶことができました」


Nippon Life Insurance Company of Americaの中島さんNippon Life Insurance Company of Americaの中島さん
「中南米各国の基本的な情報に加えて、今後どのようにその国が発展していきそうかという展望まで聞くことができて大変勉強になりました」


第202回JBA ビジネスセミナー
商社や銀行、保険など、幅広い業種から参加者が集まった。

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