JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2017/11/22

企画マーケティング部会 第207回 JBAビジネスセミナー報告「NAFTA再交渉の見通しとメキシコの製造業について」

去る2017年11月22日、カーソンのPorsche Experience Centerにて、第207回ビジネスセミナーを開催した。North American Production Sharing(NAPS)の大須賀明さんが、昨今注目が集まっているNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉の進捗状況と見通し、およびメキシコの製造業の現状と、同国で製造業を営む上で留意すべき点について解説した。

大須賀 明さん
[講 師]
大須賀 明さん

North American Production Sharing(NAPS)のVice President-Marketing and Customer Service。1985年にメキシコへ渡り、航空会社、製造業界勤務を経て、2012年にNAPSに移り現職。

NAFTA3カ国の概要と関税

現在、アメリカ、メキシコ、カナダの3カ国間で結ばれている「NAFTA(North American Free Trade Agreement、北米自由貿易協定)」の再交渉が進行中である。米墨加3カ国にわたって事業を行う日本企業も多く、その交渉の行方が注視されている。このセミナーで大須賀さんはまず3カ国の概観と関係を解説した。

「面積ではカナダとアメリカが世界2位、3位で、メキシコは世界13位ですが、カナダやアメリカの約5分の1くらいの大きさがあり、それほど小さい国ではありません。この3カ国では人口はアメリカが一番多く世界3位、メキシコは世界10位です。GDPはアメリカが世界1位で、カナダとメキシコが拮抗しています」。

物品貿易では米加間(2016年の3カ国の物品貿易の49%)、米墨(同48%)間で輸出入が盛んで、加墨間は3%に留まる。アメリカはメキシコにとって、輸出総額の8割強を占める重要な輸出先であり、かつメキシコに来ている直接投資の5割弱はアメリカからである。また在米メキシコ移民からメキシコへの送金額は2016年実績で270億ドルで、原油収入を上回り、GDPの2%を占めている。

一方、メキシコはアメリカにとって、カナダに次ぐ第2位の輸出先で、輸出総額の18%を占める。貿易収支はアメリカの輸入超過であるが、赤字幅は中国、日本、ドイツに次いで4位で、対中貿易赤字と比べれば5分の1以下に過ぎない。またアメリカにとって、メキシコは最大の自動車部品供給国であり、全供給の4割を占める。「メキシコの経財相によると、北米の自動車産業は生産チェーンの過程で部材が平均8回国境を越えると言われています。つまり米墨間は国というよりも州を移動しているような感覚です」。米国内にはメキシコとの貿易に関連して600万人超の雇用があり、6500社のメキシコ企業がアメリカに進出して12万2000人を雇用している。

この密接な関係にある3カ国のNAFTA再交渉問題を考える際、最も大切だと言われるのが関税である。関税には税率が高いものから、「譲許税率」、「MFN(最恵国待遇)税率」、「協定税率」がある。譲許税率は各国がWTO(世界貿易機関)に登録している上限税率で、各国はこの上限の範囲内で適用するMFN税率を変更できる。MFN税率は一般税率のことで、通常WTO加盟国の貿易ではこの税率が適用される。そして、例えばNAFTAなど、2国間または多国間で税率を設けたものが協定税率と呼ばれる。アメリカの譲許税率、およびMFN税率の全品目単純平均関税率はそれぞれ3.5%に過ぎないが、メキシコの譲許税率は36.2%(MFN税率は7.1%)とはるかに高い。「アメリカは関税の税率を上げると言っていますが、メキシコも上げようと思えばその10倍まで上げられるわけです」。

NAFTA再交渉の前提と再交渉の論点

続いて、大須賀さんはNAFTA再交渉の進捗状況と見通しを解説した。「前提として、NAFTAは非常に均衡の取れた協定で、3カ国が対等の状態で貿易をしています。どこかが過度に得しているわけではなく、どの国の会社も互いの国に数多く進出しています。ただし1994年に締結した協定であるので、アップデートは必要だと言われています。ただし約1200ページにわたる協定を一つ一つ検討していくとなると、そう簡単には合意に至らないだろうと想定されます」。

NAFTA2205条では、大統領権限でNAFTA脱退を通知できるとなっているが、自由貿易協定は締約国との取り決めである協定文と、それを国内法に反映させた批准法で成り立っており、協定から離脱しても自動的に批准法まで撤廃されるわけではない。批准法がある限り、大統領が離脱を宣言しても今まで通りにNAFTAの仕組みが続くことになる。加えて18年7月にはメキシコの大統領選、18年11月にはアメリカ議会の中間選挙が予定されており、その頃までに同意し、批准されなければ、決着にはもっと時間がかかると予想されるという。

再交渉の論点の中でも難航が予想されているのは、「サンセット条項」と「原産地規則」である。サンセット条項は、アメリカが加えることを主張しているもので、NAFTAを6年ごとの更新とし、3カ国が合意に達しなければ自動的に消滅するとするルールで、メキシコとカナダは強く反対している。自動消滅を認めると長期的な外国投資が見込めなくなるからだ。原産地規則では、自動車・部品について現地調達率を現行の62.5%から85%へ引き上げることと、米国産品の50%の調達率の導入が主張されている。「例えばメキシコに進出しているアメリカ企業が作る製品がアメリカ産とされるのであれば実現可能かもしれませんが、実際はメキシコ産となるため、現実的ではありません」。

NAFTA再交渉の決着までには最低でも1年以上、早くて2年はかかると見られている。しかも現行制度で適用できるメキシコの対米関税率はアメリカの対墨関税より圧倒的に高いため、交渉ではアメリカが不利になる可能性が高いという。また仮にアメリカがNAFTAを離脱し、アメリカの関税によるコストが増えても、メキシコで製造することによるコスト削減額の方が大きく、アメリカで作るよりメキシコで作ってアメリカに輸出する方がいまだうまみは大きい。

さらに「メキシコはなんと46カ国と自由貿易協定を結んでおり、アメリカが買わないなら、ヨーロッパやアジア、南米に輸出するくらいの気持ちでいます。ただしアメリカがあてにできないとなると大打撃であるのは確かであり、アメリカがNAFTA離脱となると米墨共倒れの可能性が高くなります。しかし損害としてはメキシコ市場で不利になるアメリカの方が大きいでしょう」。

メキシコの製造業とその労働者について

セミナーの後半のテーマは、メキシコの製造業について。大須賀さんはまずはメキシコの地図をスライドに映し、メキシコ内で製造業が集中している国境地域と中央高原地域の地理的な位置関係を解説した後、メキシコの概要を説明した。「成長率は2.3%で、一人当たりのGDPは世界72位。16年の消費者物価上昇率は3.4%で、失業率は3.9%です。1987年には物価上昇率が169%を記録したこともあったのですが、かなり収まりました」。
人口は世界10位の1億2457万人で、ほぼ日本と同じ。ただし日本と異なり、少子高齢化ではなく、15〜66歳の労働人口帯が66%を占め、平均年齢は28歳である。人種は先住民のインディオとスペイン人の子孫の混血であるメステソが60%、インディオが25%、白人が14%である。人口の96%がカトリック教徒である。

自動車生産は年間350万台に達しており、日系のシェアは生産では40%、販売では43%である。対NAFTA輸出依存度は86%で、在墨のアメリカビッグ3(General Motors、Ford Motor Company、Chrysler)に至っては95%である。メキシコからの自動車の輸出先はアメリカだけではなくヨーロッパ、さらにブラジル、アルゼンチン、チリ、コロンビアなど南米も注目を集めている。なお日系企業は1111社進出しており、在墨邦人は1万1390人に上る。

大須賀さんは、メキシコの給与や休日、従業員の試用期間や解雇といった人事・労務について詳細に解説した後、メキシコの税金について言及した。「メキシコの連邦の法人税は、課税対象利益の30%。加えて、10%の利益分配金が義務付けられており、実質上メキシコの法人税は40%です。また州税は州によって異なり2〜3%です。付加価値税(IVA)は16%ですが、還付請求をすれば基本的には必ず戻ってきます。ただし還付には時間がかかり、国境地帯で平均74日、中央高原地帯で平均89日かかっています。IVA免除認可を有する企業であれば、1〜3カ月程度で、そうでなければ最長7カ月かかった場合もあります」。

メキシコの関税と節税方法

続いて「一方で還付請求したところで絶対戻ってこないのが関税です」と、しばしば国境をまたいで事業展開する製造業者が避けては通れない関税について話し始めた。メキシコでは経財省が関税体系、関税率、許認可を管理しており、大蔵公債省が徴税を担当。税関も大蔵公債省に属している。関税体系には「一般輸入税率(IGI)」、それをゼロあるいは低減するスキームである「PROSEC(産業分野別生産促進プログラム)優遇関税」、NAFTAなどの「自由貿易協定(FTA)」、「経済連携協定(EPA)締約国向け税率」、「ALADI(ラテンアメリカ統合連合)譲許関税率」、そして「Regla Octava」と呼ばれるものがある。

関税の品物分類は、WCO(世界税関機構)が定める6桁のコードのHS分類で、アメリカで使用されているHTS分類の10桁のものとは異なっている。「日本とメキシコでも微妙に違うことがありますので、最初に機械や設備、補助材料、溶剤などの原材料をメキシコに輸出する場合はとにかく詳細なデータを送り、なるべく間違いのない関税コードを税関代理店に設定してもらってください。なお、関税はほとんどの場合が取引価格を基準に税率が定められる従価税で、課税基準はCIF価格です」。

通関手数料は、確定輸入の場合はCIF価格の0.8%、一時輸入の場合はCIF価格の0.176%である。一時輸入とは、例えば親会社がメキシコの子会社に物を送り、それがメキシコ内でも親会社の資産と見なされ、通常18カ月以内に直接輸出あるいは間接的に輸出される場合があてはまる。そうではなく、メキシコに入った後メキシコの市場に流れるもの、または輸出したもののその証明ができなければ確定輸出となる。

ここで大須賀さんは会場に「IMMEXという制度をご存知ですか?」と会場に問いかけた。「IMMEX」とは輸出型製造・マキラドーラの略であり、輸出を促進し、雇用を創出するために考案された制度である。企業が品物を変換(加工)もしくは修理することを目的として、合法的に外国の機械・設備、工具や原材料を一時的に輸入して製造し、その後、最終製品を輸出することをメキシコ政府が企業に許可する特典である。これによりメキシコの会社がPE(恒久的)施設と法的に認定されて米墨二重に法人税を支払うリスクを回避できる。「つまりメキシコに入った物も製品もメキシコの会社の資産ではなく、その親会社の資産です。だからメキシコ国内に留まるのではなく、間接的であれ直接的であれ、輸出されなければならないのです。アメリカの法人税が35%から20%に下がるように法律が変われば、なおのことこの形でメキシコで作らせてアメリカで売れば、純利益(税引後利益)が上がります」。

IMMEXのほかにも、関税を少なくするプログラム「PROSEC(関税減免許可)」と「Regla Octava(個別関税減免許可)」がある。PROSECはセクター別促進プログラムの略で、商品を製造する法人向けの制度。製造する商品が輸出向けかメキシコ国内市場向けかを問わず、具体的な製品の製造で使用するための複数の材料を、特恵従価関税にて輸入することを可能にするプログラムである。Regla OctavaはPROSECを補完するシステムで、PROSEC登録ではカバーされない部品・部材等がある場合に、特別輸入許可として経済省に申請し、認可されれば原則0%の関税で輸入ができる。

大須賀さんは「税関は輸入された機械や設備、工具などの数や価格などをきっちり把握しているので、必ず通関書類のペディメント番号や品名、モデル名、シリアルナンバーなども記録して機械や設備に貼っておき、処理する場合にはきちんと手続きをし、税関の調査に備えるべき」とアドバイスをした。またメキシコで会社や工場を設立、操業する際の環境関連の許認可も紹介した。

その後、大須賀さんはこのセミナーのハイライトとしてIMMEXを利用した5つの節税スキームを紹介した。その一つがツインオペレーションと呼ばれるもので、例えば、日本本社から材料をアメリカの子会社に販売し、材料はアメリカの子会社が委託加工契約を結んでいるメキシコの会社に日本から送り、メキシコの会社は加工賃をアメリカの会社に請求する。最終製品はメキシコの会社から国外に輸出され、そのインボイスはアメリカの会社から立てる。メキシコ以外の国では、このメキシコの委託加工会社にあたるようなものはPE施設とみなされ、法人税の支払いが要求されるがメキシコでは免除されている。「税引後の利益を上げる有効な方法です。ぜひ検討してください」。

最後に大須賀さんはメキシコ各地域の現状を駆け足で解説して、情報満載の充実したセミナーを終えた。

第207回JBAビジネスセミナー

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