JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2018/9/14

企画マーケティング部会 第212回 JBAビジネスセミナー報告「今後の日本経済とドル/円相場 ~米国主導の世界経済成長と貿易摩擦の下での日本経済とマーケット見通し~」

去る9月14日、トーランスのMiyako Hybrid Hotelで、第212回JBAビジネスセミナーを開催した。当日は、JPモルガン・チェース銀行から佐々木融さんを招き講演。日本の失業率が25 年前の水準まで低下し、日銀の金融政策に動きが見え始める中、今後の日本経済およびドル円相場の動向について解説した。

佐々木 融さん
[講 師]
佐々木 融(とおる)さん

JPモルガン・チェース銀行東京支店、市場調査本部長およびマネジング・ディレクター。上智大学卒業。日本銀行調査統計局、札幌支店を経て国際局為替課やニューヨーク事務所を歴任。2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行し、15年6月より現職。

世界の景気とアメリカの金融政策

講演の冒頭で佐々木さんは、世界経済の成長について概説を紹介。2011年以降、世界の成長率は6年連続で2.6~3.2%に収まっていたが、17年、18年はその上限をやや超える勢いとなっているとした。

一方日本は、16~17年の実質GDP成長率は1999~00年以来の8四半期連続のプラス成長を記録。その後、18年第1四半期にマイナス成長となったものの、第2四半期には反発を見せたという。今景気拡大期(12年12月~)は18年8月で69カ月目となっており、73カ月続いた戦後最長記録であるいざなみ景気に次ぐ2番目の長さとなっている。

またアメリカでは、法人税の減税に加え歳出上限引き上げがあったことから、引き続き強い成長が予想されている。今景気拡大期(09年7月~)は18年8月で110カ月目となり、戦後2番目の長さ。このままいけば19年6月で最長となる見込みだ。そうした状況を踏まえ佐々木さんは、「18年前半の各国成長率を見ると、アメリカが世界経済を牽引したと言えます」と解説した。

次に金融政策の話題に移った。世界的に金融緩和の傾向が続いており、主要各国の政策金利は、実質金利ベースでマイナス圏にあるという。そうした中で日本銀行は、18年7月に2年ぶりに金融政策を微調整。それを踏まえ、佐々木さんが所属するJPモルガン・チェース銀行が出している予想を次のように紹介した。

「当行では、10年金利ターゲット引き上げの時期を20年4月、引き上げ幅は15bp(bp=Basis Pointとは債券の利回りや金利の変動に用いられる単位のこと。1bp=0.01%)程度と予想しています。その一方で、FRB(連邦準備制度理事会)は18年中にあと2回、来年中に4回の利上げを行うと思われます」。

Fed(連邦準備制度)の今回の利上げ継続期間は18年6月の利上げで31カ月目となるが、11月に利上げを行うと歴代1位の長さとなる。そこで注目すべき点として、佐々木さんはアメリカのイールドカーブが大きくフラット化(※)していることを挙げた。イールドカーブとは、期間を横軸に、最終の利回りを縦軸にとって債券の利回りをグラフ化した利回り曲線を意味する。佐々木さんによると、過去3回のリセッション(景気後退)の前にイールドカーブはインバート(※)している。現在、10年ものから2年ものを引いた金利の差は20bp程度まで縮小しており、あと1回利上げすると逆転(=イールドカーブがインバート)する可能性が出てくると解説。リセッション入りするか否かが気になるところだと述べた。

※短期債券と長期債券の金利差が縮小すると、イールドカーブの傾斜が緩やかになる。これをフラット化と呼ぶ。それに対して、両者の金利差が大きくなることをスティープ化と呼び、まれに短期債券より長期債券の金利の方が低くなる(=長短金利が逆転する)現象が起こると、カーブは右下がり(逆カーブ)となる。これをインバートと呼ぶ。

 

世界経済におけるドル円の動向

アメリカの一人勝ちではなく世界景気が全体として拡大する場面では、ドルも円も資本調達通貨(ファンディング通貨)として弱い通貨になる傾向がある。その理由として佐々木さんは、「良好な世界景気を背景に市場がリスクオン(リスクを取ってでもリターンを追求する=リスクが高い資産に投資が増える状況)となる時に、アメリカと日本のそれぞれの資金が海外に出て行く傾向があるからです」と説明。反対に、世界的な景気の悪化により投資家心理が悪化すると、ドルや円を調達通貨とした投資ポジションが巻き戻されるため、両通貨の買い戻しが起きるとした(リスクオフの時)。

さらに佐々木さんは、ドル安に加えて次の4つの事例が(一時的にせよ)円高を推し進めると要因となり、ドル円の上値を抑えると予想している。
(1) アメリカとの通商問題に対する懸念
(2) 安倍政権に対する懸念
(3) 日銀の金融政策に対する懸念
(4) EM市場(新興国・地域の金融市場)の不安定化

佐々木さんは、「17年は主要通貨の中でドルが最弱、円は3番目に弱い通貨となりました。その結果、17年中のドル円相場は1ドル107.32~118.60円、9.5%と非常に狭いレンジで推移しました。現在のところ18年も狭いレンジで推移しており、今年の後半も引き続き狭いレンジ内での推移となるでしょう」と予想。

そして、「ちなみに、Fedの利上げは必ずしも米ドルの上昇にはつながりません。ドルはFedの利上げ期待が高まる中で上昇しますが、実際に利上げが始まると、むしろ弱い通貨となる傾向があります。Fed利上げをできる環境はリスクオンの時で、前述のメカニズムに従ってドルはファンディング通貨として売られるからです」と補足した。

また、14年7月以降にドルが急上昇した局面では、(1) EM経済の成長鈍化によるアメリカへの資金回帰、(2) アメリカだけが金融政策正常化に向かうという期待の高まり、がその主因であったのに対して、17年以降は、(1) EM諸国の回復によるファンディング通貨としてのドルの売却、(2) その他の主要国の金融政策正常化、(3)トランプ政権の保護主義に対する懸念、などの情勢を背景に、ドル安が続いていると解説した。

 

円高(ドル安)およびその抑制要因

貿易摩擦も円高要因となり得る。17年のアメリカの貿易赤字(8112億ドル)に占める対中赤字は3757億ドルと全体の46%だったのに対して、対日赤字は626億ドル。対中赤字の5分の1程度しかなかった。これは、1990年代前半に対日赤字がアメリカの貿易赤字全体の半分を超えていた時代と比べると、全く様相が異なっている。また、佐々木さんはこう語る。

「ただし、日本の対米黒字である7.0兆円のうち、自動車の貿易黒字が4.5兆円もあることが気になります。9月末には日米首脳会談がニューヨークで行われる可能性がありますが、そこでトランプ大統領が2国間FTA交渉を迫り、安倍首相が受け入れる可能性も否めません」。

また、日米物価推移の差も円高の可能性を示唆している、と佐々木さん。理論的には物価上昇は通貨価値の下落(物価下落は通貨価値の上昇)を意味している。過去18年間における日米のインフレ率を見ると、48%も差がある(アメリカの方がインフレが進んでいる=ドルの価値が下がっている)にもかかわらず、ドル円は99年末比で若干の円安水準。実質的にはかなりの円安と言えるようだ。また佐々木さんは、日銀が算出する円の実質実効レートは、過去20年の平均から25%割安だと補足。円は歴史的な円安水準にあるとした。

アメリカでは、双子の赤字(財政収支と経常収支の両方が赤字になること)の拡大により、ドル安圧力がさらに強まる可能性がある。財政赤字は17年に対GDP比で3.4%だったのが、19年には5.4%に拡大。同様に、経常赤字は同2.3%から4.1%に拡大する見通しだという。

「過去5回の著しい財政赤字の拡大は不景気を受けて生じたもので、失業率は上昇中。FRBは緩和サイクルにありました。しかし今回は対照的で、インフレ率の上昇加速と経常赤字の拡大を引き起こす可能性があります」(佐々木さん)。

さて、円の上昇を抑える要因としては日本企業による対外直接投資が挙げられる。日本企業はアベノミクス開始後の13年から対外直接投資を急増させており、同年にネット対外直接投資は前年比4.9兆円増加。初めて10兆円を超えた。さらに17年には16.8兆円と過去最高記録を樹立。アベノミクス前の5年間の年間平均対外直接投資額は7.9兆円だったのに対して、アベノミクス下の5年間の平均額は14.9兆円にも上った。直接投資先として多いのはアメリカで、17年の投資額は5.8兆円と全体の3割を占めた。このように、13年以降で合計77兆円の対外直接投資が行われたわけだが、佐々木さんは「その約半分は円売りを伴っていてもおかしくない」としている。

最後に、「日本の経常黒字に占める貿易黒字の割合が減少していることも円上昇の抑制要因である」と佐々木さん。日本の貿易赤字は12~14年にかけて急増しており、エネルギー価格の急騰とアジアからの輸入増をその主因としている。16年以降は、経常黒字は2年連続の20兆円台(GDP比約4%)に戻っているが、同様に20兆円台だった06~07年に比べると貿易黒字が占める割合が小さくなっていることなどから、円上昇が抑制されるとみている。

第212回JBAビジネスセミナー
日系企業の収益に深く影響する日米経済がテーマだったことで、多くのビジネスパーソンが聴講した。

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