JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2023/10/1

企画マーケティング部会 第246回 JBAビジネスセミナー報告「新型コロナウイルス関連の規制緩和の影響と日系企業におけるビザ戦略」

去る8月29日(火)、企画マーケティング部会の主催で、「新型コロナウイルス関連の規制緩和の影響と日系企業におけるビザ戦略」と題したセミナーを、冨田法律事務所の比嘉恵理子弁護士を講師に迎えてオンラインで開催した。

比嘉恵理子さん[講 師]
比嘉恵理子さん

冨田法律事務所パートナー カリフォルニア州弁護士。ミシガン大学ロースクール卒業。英語、スペイン語、日本語を操る語学力と移民とした育った自身の生い立ちから、移住者が直面する困難を理解する弁護士として、米国で活躍する日本企業向けのビザ全般に関する移民法コンサルティングを手掛ける。
【冨田法律事務所】

COVID-19規制緩和の影響

講師の比嘉弁護士は最初に「COVID-19規制緩和の期間を経て、現在、経済も移民法を取り巻く状況も回復しつつあります。しかし、深刻な人手不足は続いており、ハイテックワーカーの需要が引き続き高く、今年は「H1B」ビザの登録者数が75万人となり、過去最高を記録しました。人材確保が急務であると同時に、平均賃金が上昇している昨今、多くの日系企業も通常とは違う雇用形態を検討しています」と述べた。

さらに、公衆衛生上の非常事態宣言解除に伴い、追加資料請求に対する回答期限延長措置が移民局(USCIS)によって解除されたこと、デジタル化と効率化の取り組みの一環として、追加費用を払うことで手続きを通常よりも短期間で進めることができるプレミアム・プロセッシングの適用拡大、オンライン申請の受付拡大がなされていることに触れた。また、「E」ビザと「L」ビザ保持者の配偶者が米国で就労する際にこれまで必要だったEADが不要になったこと、STEM分野で学んだ留学生が大学を卒業した後、最長3年間のOPTビザが適用される際の専攻分野の対象範囲が拡大したことなどが紹介された。比嘉弁護士は「ダブルメジャーでもいいので、(卒業後にアメリカに残りたい方には)STEM分野での専攻をお勧めしています。それで3年間残れれば、それだけオプションも増えることになるのです」と、STEM専攻の有効活用を強調した。

大使館や領事館でのビザ面接の待ち時間は、日本国内ではコロナ禍前に戻っているが、日本以外では依然待ち時間が長い状況が続いていること、また、ビザ手続きの郵送申請の拡大が推進されており、「B」、ノンブランケットの「E」ビザなどの更新、「F」・「H」・ノンブランケットの「L」ビザなどの新規申請と更新は郵送で可能となっている。その場合、ESTA申請の却下歴がないこと、特定の国への渡航歴がないこと、逮捕歴がないことなどが前提となる。入国スタンプを廃止した空港も増えており、オンラインで常に自身の「I-94」を確認することが重要であると、比嘉弁護士は語った。

組織編成によるビザへの影響

次に、コンプライアンスにトピックが移り、比嘉弁護士は「会社で組織編成を行う際、既存の駐在員の滞在資格へ影響がないか精査してください」と述べた。各ビザの申請条件は次の通り。それぞれのビザ資格に影響が及ばないかの分析が必要。

・「E1」ビザ/「E2」ビザ
共通条件:米法人の50%以上の株式が日本国籍者によって保有されていること
「E1」条件:日米間における商品やサービスの定期的な貿易があり、その割合が全体の貿易の50%以上である。
「E2」条件:日本からの投資により事業を行い、現地採用を行うこと。

・「L1」ブランケットビザ
「L1」企業ブランケットに登録された米国外のグループ会社から、同企業ブランケットに登録された米国内の会社への赴任が認められるため、「L」ブランケット追加登録手続きにて対応できるか、また引き続き米国所属会社と米国外の出身会社が資本関係を維持するかの分析が必要。

さらに既存事業を持つ日系企業の新規事業の立ち上げに関わる従業員のビザに関して、比嘉弁護士は次のように解説した。「新規事業の設立に携わるために米国へ入国することが必要になりますが、ビザを取得するには、先行投資(『E2』)や、貿易実績(『E1』)、事業の実態(『L1』)などを証明しなければなりません。つまり、事業の立ち上げの前にビザを取得することは難しいのです。そこで、『B』ビザかESTAで入国し、事業設立関連の活動を行うケースが多いです。グループ会社があれば、既存の現地法人へ赴任して、その後、新会社に異動するという方法をとることができる場合があります。しかし、全ての手続きの手順が明文化されているわけではないので、専門家のアドバイスに沿って法律を正しく解釈して、その時の状況に適応することが重要になってきます。あとで問題にならないためにも、政府には状況を開示した上で進めます。そのために日頃から顧問弁護士と、ビザとは関係ない事業展開についても話し合っておくことをお勧めします」。

次にコンプライアンス関連で、出張者の入国拒否について、「緊急相談で多いのが、ESTAや『B1』ビザで出張者が米国に入国しようとして拒否されたというケースです。拒否される一番の理由は、渡航目的に応じたビザを取得していないということで、不法就労の疑いがかけられるからです。入国拒否の流れは入国審査の後に追加審査、さらに別室で取り調べを受けた後に、調書や自主出国同意書に署名した上で次のフライトまで拘束されてから帰国となります。出張の定義は一般的な雇用による就労ではなく、会議、株主総会、展示会に参加、現地法人の視察、契約交渉などです」。これら以外の目的での入国だと疑われた場合は、入国拒否を受ける可能性があると比嘉弁護士は警告した。

「また、出張で来ているのに、簡単に観光だと言ってしまうパターンもあります。帰国便の日付けを見て係官に『あなたの会社は2カ月もバケーションを与えるんですか?』と指摘されたり、荷物から商品が見つかってしまったりすると、観光だと答えたことが虚偽になってしまう状況が起こり得ます。虚偽と判断されてしまうと、その影響は深刻です」。

駐在員以外のビザオプション

続いて、駐在員以外でビザサポートが必要な候補者を現地採用する場合のオプションについて紹介した。「まず、留学生が大学卒業後に取得できる『F1』 OPTとSTEM OPTです。『F1』は1年、STEMは3年の就労許可が下ります。次に特殊技能ビザの『H1B』。特定分野での学位か同等の経験年数が条件です。ただし、年間発給数が限られていることから、毎年3月に抽選が行われます。TNはUSMCA協定に基づき、カナダとメキシコの国籍者に与えられる就労資格です。最近は積極的にカナダやメキシコから従業員を呼び寄せる企業も増えています。『E1』ビザと『E2』ビザを取得するには、親会社での勤務経験は不要ですが、日本の国籍者であることが条件です。また、『L1』ビザの取得には、国籍は問われないものの、米国外のグループ会社で1年以上の経験が必要になります。いったん、米国外に1年出て働くことになりますが、会社独自の専門知識が求められるため、実際には1年ではなく数年経験を積んだ方がいいこともあります」。

また、長期的な雇用に関しては、米国雇用市場に条件を満たす労働者がいないこと、および労働局が定める平均給与額を保証することで、前述のビザで米国滞在中に永住権申請も並行して進めることが可能だと付け加えられた。最後に比嘉弁護士は「2024年の次期大統領選に注目してください。移民問題は現行政権に大きく左右されるからです。人材不足の問題が長期化すれば、寛容な移民政策を投入せざるを得ない状況が見込まれる一方で、トランプ前大統領よりも強硬な移民政策を掲げる候補者がトランプ前大統領に次ぐ共和党の有力候補者とされており、大統領選の結果によって移民を取り巻く状況が大きく変わることが予想されます」と述べ、セミナーを終了した。

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