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2023/3/30

企画マーケティング部会 JBA特別経済セミナー「2022年米国経済と 金融マーケットの展望」報告

 去る2/10(金)、不透明感が高い状況が続く米国経済の現状と今後の見通しについてのウェビナーを、三菱UFJ銀行の吉村さんを講師に迎えて開催した。

吉村晃さん[講 師] 吉村晃さん
三菱UFJ銀行 経済調査室ニューヨーク駐在チーフ米国エコノミスト
2001年東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。07年より経済調査室にて各国・地域の経済・金融分析を担当。

景気の減速局面と深刻な人手不足

 吉村さんは最初に、「昨年は金利や為替の動きなど変化が大きい年でした。今もロシア・ウクライナの問題、パンデミックの要因などが複雑に絡み合い、分かりづらい状況が続いています。今の経済がどういう背景で動いているのか、一時的な動きなのか中長期的なものなのかを理解することが重要だと思います。本日のセミナーでは経済の動きに対する私の見方と背景にあるものを解説します」と話し、経済動向に触れた。「米国経済を見る上では、インフレと雇用が鍵となってきます。現状は、今後景気後退に陥るだろうという見方が約6割となっています。ただし、景気後退の定義は曖昧です。米国のGDPがマイナス成長である点だけを見ると、2022年前半はリセッションと捉えられます。ただし、現在、失業率は最低の水準で、個人消費はプラス圏内にあります。つまり、まだ景気後退ではなく、景気の減速局面にあると考えています。米国はパンデミックの落ち込みのあと、大規模な経済対策を行った影響で個人消費がいち早く回復しました。しかし、足元では高インフレのため、実質で見た所得はマイナスの状態です」。

続いて、雇用に関して次のように解説した。「ITセクターなどでのレイオフ急増にもかかわらず、全体の失業者は減少しており、人手不足が続いています。足元では(人材に対する)需要が供給を500万人程度上回っています。その要因は複合的です。パンデミックを契機にシニア層が一気に引退したこと、移民の流入減、新型コロナウイルスにより高齢者から働き盛りの層まで多くの人が亡くなったことなどが挙げられます。こうした供給面の要因はすぐに戻らないため、しばらく人手不足感の強い状態は続くでしょう」。

労働コスト高による企業収益悪化が雇用調整の契機に

 さらに働き方の変化に言及し、「リモートワークの普及が一人当たりの労働時間の減少につながっている可能性があります。米国ではパンデミック直後に大幅な人員削減が行われ、離職してしまった人たちが再び仕事に就くモチベーションを失っているとも指摘されています。また、低賃金の仕事ほど人手不足が著しく、前述のように職を支える移民の流入が減っていることも痛手となっています」と述べた。

そして、今後の経済見通しについて、吉村さんは次のように語った。「リセッションに落ちるかどうかは、雇用の見方が重要になってきます。人手不足であり、賃金はなかなか下げられません。労働コストは高止まりし、企業収益が圧迫されていきます。こうした状況が続けば企業は雇用調整を迫られ、失業率は今後上がっていくでしょう。ただし、上がり方自体は潜在的な人手不足もあり、緩やかな上がり方に止まります。また、インフレ率の鈍化ペースも緩やかなものに止まると考えております。このような状況でFRBは金融引き締めスタンスを当面維持し、この間、パンデミックからの回復一巡や利上げの効果累積、家計の過剰貯蓄取り崩しにより、景気減速と労働市場軟化が進みます。そして年後半には雇用や個人消費は減少に転じて景気後退局面となり、FRBは利上げに転じると予想します。ただし、家計債務に過大感はなく、金融危機時と比較して深い景気後退は回避できる見通しです」。

こうして、23年の緩やかな景気後退の後に、24年には緩やかな景気の回復局面を迎えると吉村さんは続けた。

短期的にインフレ圧力は続行

 さらに、政治・政策動向の背景にある、現状のバイデン政権の4つの主要経済立法を紹介した。

・米国救済計画法(American Rescue Plan Act):コロナ経済対策。個人への直接給付、失業保険給付の加算・特例措置の再延長など。
・CHIPS・科学法(CHIPS and Science Act):先端技術分野・半導体サプライチェーン強化が主眼。
・インフラ投資・雇用法(Infrastructure investment and Jobs Act):老朽化したインフラ整備、EVインフラ投資など。
・インフレ抑制法(Inflation Reduction Act):史上最大の気候変動対策が主眼。

そして、24年秋の大統領選挙については「皆さんも関心を寄せていることと思いますが、候補者が出揃ってくるのは春先以降です。民主党、共和党、いずれの候補者の場合でも、結果は拮抗すると見られています」と語った。

今後の働き方の変化に関しては、「パンデミック後のワークスタイルは、従業員はリモートワークを希望する傾向が強い一方、オフィスへの復帰率も徐々に回復しつつあります。経済全体で見た時に(リモートワークによって)生産性が高まるかは結論が出ていません。今年、どういう形で働き方が変わっていくのかが注目されます」と述べた後、最後に「パンデミック後も、脱炭素化、脱グローバル化などの供給面における構造要因が続く可能性があります。そして、インフレ圧力が中長期的に続くのか、どういった時間軸で低下していくのか、まだ見えないところではありますが、短期的にはインフレ圧力は世界的に高い状態が続くと考えています」と、不透明さが残りながらも当面はインフレが続くという見方を示し、セミナーを締めくくった。

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