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2020/2/1

教育文化部会 「帰国子女の体験談と心理 カウンセラーによる心のケア」を開催

去る12月7日、あさひ学園オレンジ校で、海外生活を送る子どもの心の健康をテーマに、心理カウンセラーによるセミナーと、帰国子女の経験を持つ3名が当時の様子を振り返るパネルディスカッションを開催した。

親が変わらなければ子どもも変わらない

荒川先生
第1部講師を務めたカリフォルニア州公認心理カウンセラーの荒川先生。

第1部「メンタルヘルスの正しい知識」の講師を務めたのは、カリフォルニア州公認カウンセラーの荒川龍也先生。11歳の時にいじめの経験からうつ病や不安障害にかかり、心理カウンセラーに診てもらったことがきっかけで心理カウンセラーになったと自己紹介をした荒川先生は、最初に自己診断は危険であること、自分や家族の中だけで解決しようとせずに専門家に相談してほしいということを呼びかけた。その上で、海外生活を送る子どものストレスの原因を次のように解説した。

「言語の違いはもちろん、文化の違いは大きいです。直接的なコミュニケーションをするアメリカと比べて、日本は『察してください』という文化。しかし、それはこの国では通用しません。以心伝心というものは存在しないと思わなければなりません。環境の違いもあります。親に車での移動を依頼しないと基本的にどこにも行けません。それがストレスにつながる可能性があります。危険信号としては、普段以上にイライラしている、普段興味のあることに興味をなくす、疲れやすい、集中力の低下、ボケッとしやすい、寝付きにくい、学校に行きたがらなくなるなどです」。

危険信号が出たら、すぐ専門家に相談することが不可欠だと荒川先生は強調した。「骨が折れたら放っておかずに医者に行きますね。それと同じです。そして、子どもの心の健康状態のカギを握るのは親です。親が変わらずして子どもが変わるということはほとんどありません」。では、もともと、親が子をどのような環境に置くと子どものメンタルヘルスに問題を生じさせるのかについては、「ルールがはっきりしていない、子どもが家庭で王様または女王様にようになっている、子どもの自主性を重んじるということに親が惑わされ過ぎている、『言っても聞かない』と言って諦めている、などが挙げられます」と荒川先生。子ども中心になっていたり、親の干渉が過多だったりする家庭は注意が必要のようだ。

「相談にいらっしゃる方の多くが、子どもを過度にコントロールしようとする傾向があります。毎朝起こしてあげる、宿題を代わりにやってあげる、親が不安や心配だからという理由で子どもがやりたいことをやらせないなどのケースです。本来であれば、年齢が進むにつれて親のコントロールを減らさなければならないのに、それができない親御さんが少なくありません」。

時代も環境も遺伝子も半分違う

前述のように言語、文化、環境の違いでストレスを感じがちな海外生活を送る子どものために、親がすべきでないことについての説明が続いた。「まずは、子どもに対する暴言、暴力、虐待です。振るわれた子供は暴力的になります。子どもは親の鏡だと思ってください。また、父親と母親のけんかを子どもに見せるべきではありません。こちらの国では精神的虐待と考えられます。気を付けてください。日本では子どもが言うことを聞かない時に食べ物を食べさせないという罰を与えることがあります。しかし、それもアメリカでは虐待です。子どもがそのことを学校で他の人に話したら大きな問題になります」。
親としてすべきことについては、次のように話した。「ルールの見直しをしてください。そして、本人ができることはやらせ、ルーティーンを作って守らせるようにしてください。また、褒美があってこそ子どもは動きます。褒美と罰を徹底するルール作成が必要です」。
第1部の最後に、荒川先生は会場に集まった日本人の親たちにメッセージを送った。「子育てに関してよくある間違いは、親の自分がこうだったから子どもも大丈夫だと決めつけることです。親御さんとお子さんでは、時代も環境も違うし、遺伝子も半分は違います。自分はできたのになぜ子どもはできないのか、という考え方は、子どもがかわいそうです。子育てとは自分自身と向き合うことです。そのために親自身の心の健康も保たれていることが重要です。では、心の健康とは何か? それは自己受容できていること、年齢に伴った自信を保持していること、そして人間関係を構築できていることです」。

帰国子女で良かったこと親に感謝していること

続く第2部は、子ども時代にニュージーランド、アメリカ、カナダなどで暮らした経験を持つロサンゼルス在住の駐在員と経営者の3名が、パネルディスカッション形式で、自分たちがどのような海外生活を送ったか、親との関係はどうだったか、また日本帰国後の適応に問題はなかったかについて自由に語り合った。ここでは3名のパネラーの体験談の概要を紹介する。

 

田中さん
「教師経験がない母がアルファベットを教えてくれた」と振り返る田中さん。

田中雄一朗さん
在ロサンゼルス日本国総領事館

1993年4月~94年5月
アメリカ・ウェストバージニア州 現地幼稚園(年中)

1998年4月~2000年10月
ニュージーランド 現地校(小学3~5年生)

2002年9月~05年3月
オーストラリア・ビクトリア州 現地校(中学1~3年生)

「小学校で、親の仕事の関係でニュージーランドに引っ越しました。アルファベットも分からないような状況で学校に行き始めたのですが、九九を暗記しない同地では、日本から転校した算数の能力が評価されたことを覚えています。アルファベットは母親が家庭で一生懸命に指導してくれました。車でないと移動できない現地生活では、父も母も嫌な顔をせずに送迎してくれたことが印象に残っています。また、日本に帰ることを意識せず、現地に溶け込むようにとサポートしてくれました。いじめられた経験はないと勝手に思っています。ただ、オーストラリアの現地校の授業で、戦時中にシドニーのオペラハウスの場所に日本が魚雷を撃ち込んだという話が出たことがあります。日本がオーストラリアに爆撃を仕掛けたことに他の生徒は興味津々だったのですが、私は適当にあしらいました。そのことを家で話した時、父は『そんな感じでいいんじゃないの』と軽く受け止めていました。ところが実はその裏で、学校に立ち寄って、教師に(息子の)心のケアをしてほしい、と依頼していたことを知りました。帰国子女で良かったと思えるのは、適応力です。自分の言いたいことが言えることが大事で、バイリンガルであることよりも適応力の方が重要だと思います」。

 

松尾さん
「日本人学校だったのでスポーツを通じて現地の友人を作った」と話す松尾さん。

松尾英樹さん
東京海上日動火災保険

1993年2月~95年3月
イギリス・サリー州(誕生から2歳)

2002年4月~07年3月
アメリカ・ニューヨーク州、コネチカット州
日本人学校(小学4年生~中学2年生)

「日本人学校に通っていたので、外でサッカーやバスケなどのスポーツを通じてアメリカ人の友達を作っていました。そのようなスポーツの試合や友達の家に遊びに行くにも車でないと行けないような環境の中、親が土日に送迎してくれてありがたかったです。また、車がないと出かけられないので、家にいることも多く、本を読む習慣が身に付きました。日本に帰国後は、日本の常識やテレビの話題についていけませんでしたが、臆することなく、分からないことは率直に聞くようにしていました。ただ、反抗期には親の言うことをうるさく感じることもあり、無視してしまうこともありました。親への感謝の気持ちが生まれたのは、自分が社会に出て働くようになってからです。働きながら子どもの面倒を見て親はあの頃大変だったなあ、と今になってようやく気付いたというのが正直なところです」。

 

三石さん
「厳しくも常に肯定してくれた親に感謝」と語る三石さん。

三石勇人さん
Kevin’s Entertainment

1975年5月~1991年8月
カナダ 現地校と日本語補習校

1991年9月~1994年8月
アメリカ 慶應義塾ニューヨーク学院(高校)

1994年9月~2005年7月
日本 慶應義塾大学、日本での企業勤務

「私はカナダのトロントで生まれ育っているので、帰国子女ではなく日系人です。周りもいろいろな国の出身の人が多く、普通に仲良くしていました。親から言われていたのは『日本人としての誇りを持ちなさい』ということです。日本語を家では徹底的に勉強させられ、父があまりにも厳しかったので反抗できませんでした。だから高校から慶應ニューヨークの寮生活が始まった時は、家庭から離れられてうれしかったです。今思うと、父は常に私のことを肯定してくれていました。また、日本語を身に付けさせてくれたことで、社会人になってから日本語を話す人と英語を話す人の間に立って仕事ができ、非常に役立ちました。自分の強みは、英語ができるということよりも、違いが分かっていることです。それぞれの文化を客観的に説明でき、両者をつなぐことができることです」。

心理カウンセラーによる専門的なセミナーと元帰国子女の実体験に基づくディスカッションという実に豊富な内容に、参加者たちの満足度も高い教育イベントとなった。

 

最後に関係者で記念写真。

最後に関係者で記念写真。

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