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8/12(Wed) | JBA 特別ビジネスセミナー「日本の裁判員制度」開催

去る2 月22 日、ホリデーイン・トーランスで「日本の裁判員制度」についての講演会が開催された。JBA の顧問弁護士で、今回の講師でもある岩永裕二弁護士が、日本で2009 年から施行される「裁判員制度」について詳しく説明した。アメリカの陪審員制度との違いや、日本国民の日常生活への影響など、岩永弁護士ならではの鋭い見解に、会場に集まった参加者たちは熱心に聞き入っていた。

一般人が刑事事件を裁く

「裁判員制度は、市民感覚を入れるための制度であるにも関わらず、裁判員の市民感覚が無視されています」と、岩永弁護士

「裁判員制度は、市民感覚を入れるための制度であるにも関わらず、裁判員の市民感覚が無視されています」と、岩永弁護士

裁判員制度とは、日本国民の皆さんが刑事裁判に参加し、被告人が有罪か無罪か、有罪の場合どのような刑にするかを裁判官と一緒に決める制度です。この裁判員制度は、刑罰に死刑があり得るような、殺人、強盗殺人、傷害致死、現住建造物放火などの重大な刑事事件のみが対象となっています。

裁判員の選任方法ですが、まず選挙権のある人の中から、抽選で翌年の裁判員候補者を選び、裁判所ごとに裁判員候補者名簿を作成、その中から事件ごとにくじで裁判員の候補者を選任します。次に、候補者の中から、被告人や被害者との関係の有無、不公平な裁判をする可能性の有無などを考慮し、最終的に裁判員を選定します。

海外に住んでいる皆さんも、裁判員候補者になる可能性があります。今は海外在住でも選挙人登録できますし、登録している限り裁判員候補者となり得るのです。ただし、海外在住の場合は、辞退が認められるでしょう。

裁判員の役割と義務

今お話ししたように、裁判員の仕事は裁判官と一緒に刑事事件の法廷に立ち会い、判決まで関与することです。アメリカは、集中審理で陪審員は2週間拘束されますが、日本の場合は限度がなく、「事件が終わるまで」の拘束となります。ですから当然、長期間の可能性もあります。

証拠を調べ、事実認定をした後、裁判員と裁判官が話し合い(評議)、被告人が有罪なのか無罪なのか、有罪ならどんな刑にするかを決定します(評決)。裁判官は評決に基づき判決書を作成し、後日評決を宣告します。この宣告により裁判員の任務は終了となります。ちなみに、裁判員の日当は、1日1 万円以内で、裁判員候補者は 8000 円以内。交通費等は別途支給されます。

裁判員には2つの義務が課せられます。1つは出廷義務。この制度では、裁判員に任命された場合、基本的に断ることはできません。従って、正当な理由なく出廷しない時は、10 万円の過料が科せられます。もう1つが守秘義務。「職務上知り得た秘密」を漏らした者は、6カ月以上の懲役または50 万円以下の罰金に処せられます。

前述の通り、裁判員として召還されれば辞退できませんが、例外はあります。海外に住んでいれば辞退できますし、70 歳以上の者、(会期中の)地方自治体の議員、学生、過去5年以内の裁判員経験者、重病人、親族の介護や養育が必要な者、妊娠中および出産後8カ月の者などは、辞退可能です。また、裁判員になることで、重大な経済的不利益を被る者も辞退できます。

市民感覚が反映され難い

評決は、裁判官を含む過半数で決まります。しかしここに落とし穴があります。「裁判官を含む」ということは、裁判員全員が無罪だと言っても、裁判官が最低1人無罪と判断しなければ評決は通らないということです。

またこの評決方法は、裁判員の意見が反映されにくい構造にもなっています。具体的には、5名体制(裁判官1人と裁判員4人)の場合、裁判官1名と裁判員4名中2名で過半数になりますが、9名(裁判官3人と裁判員6人)の場合は、裁判官3名と裁判員6名中2名で結論が出てしまいます。裁判員6名中2名の意見しか反映されないとなると、市民感覚を入れるための裁判員制度であるにも関わらず、裁判員の市民感覚が無視されているということになります。

ちなみにご存知の通り、アメリカでは評決に陪審員全員の一致が必要です。

この裁判員制度には、色々な問題が潜んでいます。1つは裁判員の参加強制。裁判員候補者になると、基本的に断ることはできません。これは、国が強制的に国民に対して労役を課すもので、戦時中の召集令状と基本は同じです。

また、不利益な扱いを受ける可能性もあります。例えば今日、あなたが裁判員に選ばれ、裁判所に召還されたらどうでしょう。仕事の予定も先まで決まっていますし、正直困りますね。しかし、「仕事上困る」というのは、辞退理由にはなりません。なぜならサラリーマンは通常、休みでも仕事でも給料は一緒で経済的不利益を被らないとされているからです。

在任中のストレスも問題です。法廷の中で1日ずっと座っているのは、なかなか普通の人には大変ですし、犯罪者を目の前に評決や刑を決めるのは、かなりの精神的負担となります。

被告人が裁判員制を拒否できないという、被告側の問題点も挙げられます。また先に話した通り、裁判員制度は特定の事件が対象となるため、犯罪によって制度が変わるのはおかしいという不平も出るでしょう。裁判員制度が適用されない被告人が、「一般市民に裁いてもらいたいから、裁判員制度を希望する」と言っても叶いません。国は、「裁判員制度は良い制度」と言っていますが、何をもって「良い」とできるのか不明です。

裁判員制度自体の問題点としては、やはり裁判員の多数意見が無視されることでしょう。市民感覚を導入するのであれば、裁判員の過半数が必ず入っていないと本末転倒です。

これからは裁判官の批判もできなくなります。これまでは、裁判がおかしければ裁判官に問題があると批判ができました。しかしこれからは、裁判に問題があっても裁判官が悪いのではなく、裁判員が悪いと見られてしまうこともあるかも知れません。

陪審員は、もともと国の圧政に対する民衆(国民の権利)を守る制度として発達してきました。アメリカの憲法では、陪審制は基本的人権です。ところが裁判員制度は国民の人権ではない。「国にとっていい制度であるからやる」というのが、裁判員制度の考え方なんですね。

問題解決のために

裁判員制度に潜む問題を解決するためには、まず裁判に際して、「裁判員制度」による裁判か、これまで通りの「プロ」による裁判かの選択権を、被告人に与えるべきでしょう。そうすれば、被告人は自分で選んだわけだから、後になって憲法違反だという主張はできなくなります。

また裁判員にも、裁判員任命に対する「辞退権」を認めるべきです。自分の意志でなるのなら問題ないですし、やりたい人がやるということで憲法違反はなくなります。もちろん、評決方法の改善も必要。市民感覚を取り入れるなら、少なくとも裁判員の過半数の意見が反映されるべきです。

いわゆる「人質司法」を改善することも重要です。現行では、容疑者を逮捕後48 時間拘束でき、裁判所の許可を得ればそれ以上の拘束も可能です。実際は、「逮捕=犯罪者」という理由で、自動的に身柄が拘束され、その期間もどんどん長くなります。そうなると、逮捕された人間はその場を出たいがために、自分に不利な供述を強制され、その結果冤罪の可能性が増えます。ですから、「保釈」を原則的に認めるようにすべきでしょう。

法廷では、公判に提出される証拠から推認できるものだけが事実です。証拠にないものは、裁判上事実ではありません。しかし、公判に出てくるのは検察官にとって有利な証拠ばかり。そういう証拠ばかりだと、裁判官が判断を間違ってもしょうがありません。ですから、検察官側からの証拠だけに頼った刑事裁判も改めなければいけません。この意味で、弁護士側にも証拠収集権限を持たせるべきです。これにより、「武器対等の原則」を実現すべきです。

最後に、当の裁判官。裁判官は、限られた証拠の中での事実認定を要求されます。その認定に必要なのが、論理則と経験則。「論理的に、 A があればB の事実が成り立つ」というのが論理則で、これは裁判官のお得意芸です。もう1つは「A があれば、経験上C になる」という経験則。社会生活で培った人生経験に基づいての判断です。

ところが裁判官は、一般的な社会生活とはかけ離れた世界で生きているため、その経験も限られており、経験則上の推認に間違いが生じる可能性があります。ですから、裁判官に市民感覚を持たせるためにも、裁判官になるための前提条件として、5年間の弁護士活動を含めた最低10 年の実務経験を要求すべきだと思います。

岩永弁護士のわかりやすい説明に、会場中が熱心に聞き入った

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