アメリカは現在も不況です。その影響もあってか、ビザ審査が難しくなっているようです。不況で移民関連法が改正されたわけではありません。アメリカ国内の失業率が依然高率であるにもかかわらず、外国人に就職の機会を与えることに抵抗があるのではないでしょうか。
移民局は、しばしばインターナルメモを発表します。これは議会等で決定した事項ではなく、移民局が独自の政策方針として出しているもので、最近、「人材斡旋による出向・派遣就労者は、原則としてH-1B に該当しない」旨の発表がありました。
不況による影響としては、ビザ審査の厳格化が挙げられます。特に、最近申請者数が激減したH-1B ビザは、取得が簡単になったと錯覚してしまいがちですが、実は審査がとても厳しくなってきています。従来は、比較的証拠資料の添付が少量であったH-1B ビザ申請ですが、近年、より複雑な書類の提出が求められるようになりました。
また、H-1B ビザ同様、E ビザなどでも、取得時の大使館での面接で、質問内容が非常に難化しているのが特徴的です。面接の場で、当該ポジションが日本人でなければならない理由などを尋ねられるケースもあります。また、最近ではH-1B ビザ就労者の働く会社に抜き打ちで監査官が訪問し、申請内容と業務の実情が合っているかどうか調査することもあります。
移民局は現在、財政難を抱えていると言われています。基本的にビザ申請料で運営されていますが、数年前の大量の申請処理のためにスタッフを大幅増員したようです。しかし、今では申請者数の下落で申請料収入が激減。そのため、移民局は今後、申請料の値上げを予定しているようです。ビザウェイバー(ビザなし渡航)での渡航者に渡米前にコンピューターで登録を課す「ESTA」システムも、現在は無料ですが、今後は10 ドル徴収されることになりました。
最近顕著な変化としては、テロ対策強化による入国審査のデータベースの信用性と確実性が向上したことです。帰国時の航空会社職員によるI-94(出入国カード)の取り忘れによる出国データの誤りなども子細に記録されてしまうため、1度誤ったデータが記録されると、以降入国審査で別室に通されることが多くなると考えられます。ですから、I-94 の取り扱いにはくれぐれも気を付けてください。
それでは、貿易・投資目的のE ビザを見てみましょう。E ビザは、比較的大きい事業主や日米間で貿易業を営む会社の社員が取得するビザです。一般的に管理職向けと思われがちですが、実は専門職でも取得可能です。しかし、その専門性の定義は厳格に決まっていますので注意してください。
「米国における業務に必要不可欠な、特殊知識を持つ社員」であることが大前提となります。具体的には、①職務内容の性格上、アメリカ人では遂行不可であること、②該当分野での豊富な経験を有すること、③該当知識が、米国
では非一般的であること、④①〜③を客観的に証明できる証拠文書を提出することなどが、その要件となります。
注意していただきたいのは、日本語が話せるだけでは要件に合致しないということです。前記の要件を考慮に入れ、その人材が必要な理由を具体例を列挙しながら説明してください。実は、これが結構難しく、アメリカ大使館での面接でも、この部分がとても厳しく審査されるようになりました。
昨今の不況により、L-1B の取得が特に難しくなっています。その背景を少しお話ししましょう。
先ほど言及したように、IT バブルで好景気の数年前、H-1B ビザ申請者数が激増し、発給数が足りませんでした。当時、H-1B ビザを取得した労働者の実に60%がインド人プログラマーだと言われています。例えば、あるIT関連の大手人材会社では、インドから大量に採用した人材にこの会社をスポンサーとしてH-1Bビザを取得させ、さまざまな会社に派遣しました。6万5000 件のH-1B ビザ発給枠のうち、この人材会社だけで5000 件ほど取得したと言います。
しかし、それでもまだH-1B の数は足りません。そこで彼らが目を付けたのがL-1B ビザでした。L-1B は、自国の関連会社で最低1 年以上働いていることが取得条件となるため、その会社はインドに子会社を設立し、そこで1年間働かせた従業員にL-1B を取得させ、各会社に派遣することにしました。Lビザは、現在発給数に上限はありませんので、L ビザ取得者が大量にアメリカに押し寄せる結果となりました。
本来L ビザは、短期的に同一企業内の業務円滑化を図る目的のビザですが、その目的を逸脱した用途でのL-1 ビザ申請が増加したため、これに政府が難色を示し始めたのです。そこで、これまで発給枠や最低賃金の設定、期間の短縮化など、さまざまな法改正が審議されてきましたが、現在のところ立法化に至っていません。
L-1B の基準もE ビザ同様、アメリカ人での代替が不可能であることが重要です。しかもこれには社内と業界全体の両方に適任がいないという証明が必要であると同時に、出身国の親会社で貴重な技術や経験、知識を有していることも条件となっています。
一方、L-1A ビザでは、①基本的に社員数の少ない企業が、多数のL-1A 社員を抱えることはまず認められない、②管理業務が必要と判断される組織形態が必要、③ L-1A ビザを持つ部下が、スーパーバイザーか専門職であることなどや、現地社員の雇用を創出する、あるいは創出しているという点が重要です。
2009 年5 月に発表された『Department of HomelandSecurity Annual Report』によると、許可済みのH-1B 申請者の54%がインド人で、日本人は第7位の約4300 人( 総数の1.6%)。平均給与額は年収6万ドルで、申請件数の半数がコンピューター関連の職業となっています。
H-1B 就労者の雇用主には、平均給与支払い義務があり、雇うポジションによって最低の給与ラインが決まっています。その金額は、労働省の算出データに基づいていますが、現実的な金額とは言えずかなり高額です。しかし、企業は新卒者などを雇う場合も、その金額を満たさなければ申請できません。実際の給与がそれを下回っていたことが明らかになった場合、雇用主にはバックペイ(差額の支払い)に加え、罰金も科される恐れがあります。さらに、H-1Bの資格も剥奪される可能性があります。
監査は申請時の内容と現状の整合性を確かめることを目的に行われるため、企業側はきちんと申請内容の把握に努めるようにしてください。
最後に、監査官の着眼点をいくつか列挙しておきます。