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6/18(Fri) | 第136回ビジネスセミナー 「Negotiation and Conflict Resolution −争いを上手に解決する交渉術」 パート2

交渉の定義と3つの交渉戦略

会場は円卓形式に配置され、各テーブルで議論がしやすく工夫されている

“What is negotiation?” わかりますか?一般的な辞書では、“Process of bargaining with others through mutual discussion to arrange terms of a transaction or agreement” と書いてあります。簡単に言うと、「話し合いを通して、他人とやり取りをする」ことです。ちなみに、ここで言う“discussion”は必ずしも口頭ではなく、ボディーランゲージでも構いません。

最も大切なのは、“to arrange terms of transaction or agreement”の部分。交渉には、明確な同意や結果が生まれなければならないということです。しかし、ここで私たちは錯覚を起こします。問題を先送りしただけなのに、解決したと思い込むんですね。ですから、最終的に何かに同意できたかどうかを必ず気にしてください。キーワードは「Process」「Bargaining with Others」「Mutual Discussion」「Terms of Transaction or Agreement」の4つです。

村上春樹さんの人気小説『1Q84』には、「現実は1つしかない」という文句がありますが、私たちコミュニケーション研究者の間では、反対に「現実というものはない」と言います。

例えば、皆さんのご主人や奥様が、朝、家を出る時に「今日は●●するよ」と言っても、帰宅時にきちんとやって帰ってきた方っていますか(笑)?1対1の会話ですら、こうなのです。つまり、自分が言ったことに対する他人の理解は違うということ。言い換えれば、自分と他人の現実は違うのです。

そこで、コミュニケーションの原点は「共通言語をどうやって見つけるか」になるのです。negotiation する時もそう。共通言語を見つけ、同じ土台に立って話す。これが最大の焦点となります。

さて、「negotiation strategies(交渉戦略)」には、大きく分けて3つあります。

まず「Distributive Strategies」。“Distributive”とは、トータルが決まっていて、いかにして自分の取り分を多くするかにフォーカスした戦略です。まさに、英語的に言うと「ゼロサム・ゲーム」。「誰かが勝てば、誰かが負ける」タイプのnegotiation です。

次に「Integrative Strategy」。これは、ゼロサムではなく、共に大きなバリューを得ようという考え方で、言い換えれば「両方勝つ」ということです。

そして最後が、「Mixed-Motive Strategy」。両者に分配があるものの、自分(片方)がより多めの取り分を受け取ろうとするタイプです。

交渉では、常に「issue」が大事になりますが、互いの人間関係も
重要。それをおろそかにすると、どうしても「勝敗」だけを気にするようになりますし、逆に「この相手はどうでもいい」と思ってしまうと、「交渉に勝っても仕方がない」と思い始め、「時間のムダだから交渉しない」となってしまう可能性もあります。

また、人間関係を大切にし過ぎるとissue がおろそかになり、妥協を通り越して何でも言った通りに従うようにもなります。円滑な関係維持を優先するために、issueはどうでもよくなるのです。

しかし、本来はこのどちらも大事なんですね。それが「Collaborating」。相手を敵と考えるのではなく、相手を共に問題解決をするパートナーと見る。関係も大事、issue も大事。協力し合うことが非常に大事なのです。

本日は、その交渉手段に集中します。

交渉に必要な7つの「C」

参加者に腕相撲をやってもらい、そこから“交 渉”術を解くというユニークなエクササイズも 行われた

それでは、交渉に必要な7 つの「C」で始まるフレームワークをご紹介しましょう。

1 つ目は、「Finding common ground」。先ほどお話した、「共通言語を見つける」ということです。互いの差異ではなく、共通点は何で、すでに同意している部分がどこかをきちんと把握します。

一般的に交渉に入る時は、実は7〜8割は同意できていることが多いのです。ですから、本当は残り2割だけを議論すればよく、時間もそんなにかからないはずなのですが、どうしても交渉となると、「何が違うか」という論点から入ってしまいます。

また、気を付けていただきたいのは、“Deal with issues &apm; interests, NOT position”。「誰が正しい」「真実を握っているのは誰だ」というようなトピックを一切除外し、「interest」に焦点を当てることです。

例えば、「女性の中絶を選ぶ権利」について議論したとしましょう。 これに対し、「人殺し!」と騒ごうが、「女性の権利だ!」と騒ごうが、どちらも「position」に過ぎません。しかし、オバマ大統領が言うように、どちらのposition を取っていても、「人工中絶の数を減らしましょう」と言うことにフォーカスする。これが「interest」なんです。そして、interest を明確にして、初めて妥協案が見つかるわけです。

もう1つ身近な例で言うと、普天間基地問題があります。鳩山前首相は、基本的にずっとpositionベースで交渉をしていました。ですから、らちがあかない。本来は、「騒音」や「犯罪」の問題が“interest”で“issue”なんです。

2つ目は、「Communicate withall your tools」。相手には、常に
オープンチャンネルを持つことが重要です。たとえ、「こいつは大嫌いだ。話したくもない!」という相手であっても、第三者を通してならCommunicate することは可能です。コミュニケーションで最もパワフルなツールは、「相手の話を聞く」ことですから。

例えば、イスラエルはパレスチナとは一切交渉しないというposition を取っていますが、あれだと永遠に問題が解決されません。また、ブッシュ前大統領は、テロリストとは絶対に交渉しないという政策を取っており、特に北朝鮮やイランに対しては強硬姿勢を貫きました。しかし、オバマ大統領は逆です。「とにかく話をしなければ始まらない、外交というのはそのためにあるのだ」と言うのが彼のスタンスです。

皆さんの職場でもそうです。従業員同士が論争している時、上司の方は何と言いますか?“Stop arguing”と言うか、“Tell me what’s going on?”と言うか。もちろんコミュニケーションを促すには、論争内容を開示しなければならないわけですから、“Tell me what’s going on?”と言う方が好ましいことは、ご理解いただけるでしょう。

3つ目は、「Connecting with your counterpart」。相手(人間)と問題を切り離して考えることです。例えば、アメリカの医療保険改革問題で、共和党はオバマ大統領を「共産主義者だ」「社会主義的だ」「独裁主義だ」と非難しました。これは、いわいるissue と人間を同一視してしまった例で、一度こういったレッテルを貼ってしまうと、交渉していても「お前は悪魔と話すのか!」と、仲間から非難されるようになります。ですから、人間と問題を切り離して交渉しなければなりません。

また、相手の立場を理解することも重要。例えば、交渉に立つ弁護士はとても大きな存在ですが、後でトイレで出くわすと「昨日の野球の試合、観たかい?」など、気軽な話に花が咲きます。つまり、彼らは弁護士としての役割を演じているに過ぎないわけで、問題とは別なのです。

信頼を構築することで、自分のしようとしていることを、相手にも少しずつ認めてもらい、逆に相手の要求も認めることも重要となります。ある意味、自分の方からギブアップしないと、何も返っては来ません。アメリカでは、よく“Disagree without being is agreeable”と言います。ある交渉で「あなたのposition はバカげている。なんでうちが、30%のロイヤリティーを払わなきゃいけないんだ!?」と、反論だけを繰り返すのではなく、「あなたのposition には理解を示すことはできませんし、30% のロイヤリティーも高額過ぎると思います。しかし、昨今の厳しい経済環境を考慮すると、あなたたちの要求の意味がわかります」とすれば、交渉が進むわけです。

4つ目は「Make a Choice」。交渉の種類に関わらず、どんな選択をするかの明確な準備がないと、まとまる交渉もまとまりません。

ここで重要なのが、「BATNA」です。これは“Best Alternative to Negotiation Agreement”の頭文字を取った言葉で、「交渉がまとまらなかった場合の、自分が選択すべき最良の別オプション」ということです。

例えば10 億ドルで企業買収する場合、もし商談がまとまらなかった
時の代替案を考えることです。交渉前には極力BATNA を高め、バックアップ案をいくつか用意しておくことで、非常に交渉力が強くなります。同時に、相手のBATNA を下げることもできます。極端で卑劣な例ですが、例えば離婚問題。相手に良い弁護士を雇われたくないために、街の弁護士を全員自分で雇ってしまう。こうすると、相手のBATNA を下げられるわけですね。もちろんこれは例ですが、最終的な選択肢は何か、どこまでいけば成功かを予め定義した上で、交渉を進めるべきです。

ここで気を付けてほしいのは、「BATNA」と「Bottom-line」はまったく違うということです。「最低限こうだ」というのが「Bottomline」で、「BATNA」は「ほかの選択肢は?」です。オプションを持たずに交渉に臨むのは、基本的に負けに行くようなもの。

わかりやすい例をお話ししますと、日本帰国のために車を売るとします。2000 ドルで買いたいと言う買い手に対し、売り手は3000ドルとはったりを言います。実は1500 ドルで買いたいと言う別のバイヤーがいるのですが、Bottomline を主張したため、結果、両方失ってしまうのです。

BATNA を持っていない人は、交渉で100%負けます。逃げ場がなくなるんですね。逃げ場のないなくなるんですね。逃げ場のない
交渉では、 相手の言いなりになるか、負けるかしかありません。

5 つ目は、「Confidence in your know ledge」です。事実関係を正確に把握し、自分の言い分にきちんとした証拠や根拠が用意されているかどうかです。交渉時に「データ負け」しないためのプロセスの1つで、相手のBATNA と共に、自分の優先順位や、自分と相手の限界なども熟知することが重要です。先ほどの話で、オバマ大統領が共和党の上下院議員から延々と質問をされましたが、彼は質問したどの人よりも明確、かつ明快に返答しました。事実関係に関しては、彼が最も熟知していたわけです。

6 つ目が、「Challenge the process to create satisfactory outcome」。「このプロセス自体が、有利な交渉へと進んでいるか」「交渉の場は中立か」「プロセスがコミュニケーションを促進しているか」「交渉前のルールはどこまで有効か」などを把握し、満足のいく交渉結果が得られるようにプロセスをマネージします。例えば、弁護士を絡めた会議などでは、弁護士同士がコンタクトを取り合うため、当事者同士の話が非常にしにくくなります。ですから、トップの人間同士が、弁護士を介さず直接交渉し、プロセスを有利に進めようとするケースもよく見受けられます。
 
最後が「Be creative in searching for solutions」、つまり、「いかに思考の枠を外れるか」です。最初にやったエクササイズで言ったように、相手の陣地に入って互いをスイッチする発想などがこれに当たります。また、自分にとっては無意味なことでも、相手にとっては大事なことや、またその逆もしかり。こういったことを敏感に嗅ぎ取る努力が必要です。場合によっては、1つのissue だけでなく、複数のissue を一緒に交渉の場に持ち出す。その方が賛同を得やすい時もあるからです。このように、交渉はcreative に行ってください。交渉というのは、先入観、視点の差異、立場、タイミング、プロセス等、いくつもの要素を考慮した上で相手と臨まなければなりません。失敗の最大要因はコミュニケーションの欠如、BATNA を知らずに挑む交渉、問題の先送り等が挙げられます。

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