JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2014/7/19

第172回JBAビジネスセミナー報告「アメリカ企業年金管理の最新動向~戦略としての年金ガバナンス」

去る7月19日、トーランスのミヤコハイブリッドホテルで、第172回JBAビジネスセミナー「アメリカ企業年金管理の最新動向~戦略としての年金ガバナンス」を開催した。アメリカ社会の高齢化が進む中で、企業年金制度は社会保障制度を補完し、老後準備を促す手段として大きな役割を果たしている。タワーズ・ワトソンのスペシャリスト2人が、米国子会社をマネジメントする立場の人事や財務担当者へ向けて、最低限抑えておきたいポイントを紹介した。

01_p4-5_JBA092014第1部 [講師]坂本真由美さん
タワーズ・ワトソン年金部門コンサルタント。米国大手コンサルティング会社を経て現職。数少ない日本人の米国年金アクチュアリー(数理人)として、日本多国籍企業の米国子会社の年金制度運営、年金リスク・マネジメントのプロジェクトを手掛けている。

米国企業年金の基礎知識

企業年金制度は、 優秀な人材の採用や退職率の管理、税制優遇措置、社会的責任を目的として多くの企業で提供されており、公的年金(Social Security)、個人の貯蓄と並んで、老後の生活を支える3 つの柱のひとつである。

企業年金には、一定額が支給される確定給付年金(Defined Benefit Plans=DB)と、一定額の掛け金を年金口座へと積み立てる確定拠出年金(Defined Contribution Plans= DC)に大きく分かれているが、近年では、企業にとってのリスクが少ないDC の割合が増えている。

DB プランは、企業が掛金を負担し、退職後の給付金を保証する性質のため、大部分のリスクは企業側にある。401(k) に代表されるDCプランは、個人と企業両方が掛金を負担するが、運用のリスクは個人にあり、転職時の移行や制度説明も比較的簡単に行うことができる。

確定給付制度(DB)最新リスク管理

DB プランは企業側が掛金を負担し、また年金資産を運用していく責任を負うことから、資産運用や金利、インフレ、そして従業員の長寿化傾向など、複数のリスク要因がある。近年では、1)DBをゼロにして、全てをDC に切り替える、2)DB は残しつつ、今後の増加は抑制(あるいは削減していく)、3)DBは残しつつ会計上の数値やキャッシュフローの変動を極小化させていくなどの選択をする企業が増えている。

DB プランを新しい従業員には提供せずに凍結させたとしても、現在の対象者の債務は残る。さらなるリスク回避をするためには、①一時金受け取りオプションを提供する、②保険購入による債務移転をする、③ DB制度を終了させてしまうかのいずれかのアクションを取ることになる。

①は最も脚光を浴びている手段で、すでに退職したがまだ受給開始年齢に達していない元社員(受給待期者)が対象。一時金を支払うことで、債務の削減を図ることができる。一時的なキャッシュ不足や大きな事務負担は懸念されるものの、リスク回避のメリットとしては大きい。

②はGM やVerizon が実施して注目を集めた方法で、主として現受給者を対象に、企業の年金支払いの義務を保険会社に移転する手法である。受給側としては受け取る金額や形態は変わらない。企業側としては、年金資産と負債がバランスシートからなくなり、年金支払いの責任は企業から保険会社に移転される。保険購入には保険会社が課すプレミアムが会計上の負債を上回る可能性があるが、リスクの軽減、長期にわたってかかるランニングコストの削減が可能である。

02_p4-5_JBA092014第2部[講師]浦田春河さん
タワーズ・ワトソン東京ベネフィット部門ディレクター。日系大手金融機関の米国現地法人で401(k)マーケティングを担当後、日本の確定拠出年金制度の創設作業をサポート。現在は、日本企業の海外現地法人のリスク軽減プロジェクト等を担当。

確定給付制度(DB)制度終了について

第1部に引き続き、DBプランを凍結した後のリスク軽減策である③から説明を開始。①や②は、受給者、または待期者のどちらかを対象にしたものだが、③は全員を対象に、制度そのものを終了してしまうことで、リスクの完全排除を目的としている。

ステップとしては、a)現役加入者と受給待期者全員に一時金受け取りオプションを提示。b)選択しなかった者全員と現在の受給者について、保険会社から保険購入を通じて資産/負債を移転するという2段階となる。

企業にとっては一時的に大きな負担が伴うことがあるものの、長期的なリスクを排除するというメリットは多大。IRSが速やかに決定通知書を発行してくれたとして、通常18~24カ月ほどプロセスに必要となる。

確定拠出年金(DC)の最新状況

確定拠出年金(DC)と言えば、米国では401(k)プランが代表的。従業員が自らの給与から個人年金口座に拠出し、運用していくプランで、企業側のリスクが低く、従業員側の自由度も高いことから、現在では、企業が提供する年金プランの9割以上が、DCとなっている。

現在のトレンドとしては、全ての人が自動的に加入することをデフォルトとする自動加入制度の比率が過去4年で47%から65%に増えている。また拠出率を自動的に引きあげる制度を取り入れている企業も58%から71%に伸びている。DC制度しか提供していないFortune 100企業も、51%から70%に上昇。運用商品を20本以上提示しているプランは、この2年間では32%から24%へと減少しており、加入者への分かりやすさを優先する企業が増えていると言える。

日本でも確定拠出型年金が普及しているが、401(k)プランのように従業員がまず掛金拠出するのではなく、あくまでも企業がまず掛金を出すところが異なる。2012年からは加入者拠出も認められるようになったが、事業主掛金を上回ることができなかったり、合算で限度額を超えたりすることができないといった規制がある。米国のIRAに似た個人型の確定拠出年金もある。

日本企業が知っておくべきこと

企業年金を取り巻く環境はめまぐるしく変化しており、人材の採用や従業員のロイヤリティーにも影響するだけでなく、連結決算上企業グループ全体としての数値をも左右しうる。リスクを回避し、国際競争力を強化する観点からも、日本企業の幹部は現地だけに運営を任せるのではなく、しっかり内容を把握しておく必要がある。その上でグローバル・ペンション・ポリシーを制定し、全世界で一貫した制度運営を図ることが重要だ。現地での制度新設や変更は、本国の承認を取らせること、そして退職給付債務・費用の計算も、全世界統一的な基準で実施することが、現代の多国籍企業には求められている。

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