JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2015/2/13

第180回JBA特別経済セミナー 「2015年の米国ならびに世界経済を読み解く~米国経済正常化でどうなる金利・為替の行方~」

去る2月13日、トーランスのミヤコハイブリッドホテルで、第180回JBA特別経済セミナーを開催した。みずほグループから講師として招いた2人の専門家が、世界的にも一人勝ちの様相を呈する米国経済の現状とその背景を解説。2015年度の金利や為替の動向なども踏まえ、米国と世界の経済・金融について詳細に説明した。

第1部

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[講師]
太田智之 さん

1995年京都大学大学院修了後、富士総合研究所に入社。以降エコノミストとして、経済調査部、日本経済研究センター、財務省財務総合政策研究所等を経て、2012年より現職。主に米国マクロ経済、経済政策の分析を担当。

米国と世界経済現状と展望

 第1部では、米国および世界経済の現状について解説。まず金融危機からの米国経済の回復度合いをEU、日本との対比で確認。世界経済が好調だった2007年の各国GDPを100とした場合、現在のEUのGDPがちょうど100、アベノミクスに沸いた日本がいまだ100を下回るのに対し、米国は110と最も回復していると指摘。米国は金融危機の発端であったにもかかわらず、今やギリシャ問題に揺れるEUなどを尻目に「一人勝ち」の状況。また、IMFの世界経済見通しによると、原油価格の下落を受けて、産油国を中心に多くの国の成長率が下方修正となる中、米国の成長率予測は0.5%引き上げられた。この理由を太田さんは、世界最大の原油輸入国である米国は、原油価格の下落によって海外への支払いが減り、その分、国内の家計や企業に回るお金が増えるからだと説明した。
 そもそも住宅バブル崩壊後、米国の家計は積み上がった債務の削減に着手。株価や住宅価格の反転上昇もあって、家計のバランスシートは飛躍的に改善した。そこに原油価格の下落の追い風。太田さんは、ガソリンや暖房など一般家庭で消費される燃料費の節約額を1650億ドルと試算。これが全て別の消費に向かえば、経済成長率を1%押し上げるほどの力になるという。
 加えて、太田さんは、成長率だけでなく「回復の広がり」にも注目だと指摘する。実際、州別の雇用者数をみると、金融危機前の雇用水準を回復したのは、ノースダコタ、テキサスなど50州中24州で、多くがシェールブームなどに沸く州。これに対して、ネバダ、アリゾナなどメキシコ国境と近く、相対的に低所得者層の多い地域は、雇用回復のペースが鈍く、まだら模様の様相を呈している。米国経済が本当の意味で足腰の強い経済になったと言うためには、こうした出遅れ感のある地域も力強さを取り戻す必要がある。
 次に、シェールオイルの話に移った。一般的にシェールオイルの採算コストは1バレル60~80ドルとされ、原油価格が50ドルを割ると採算割れを起こすと言われる。しかし実際は採算コストを40ドル以下で生産できるシェールオイルが全体の5割を占め、60ドルでは8割が採算的に問題がない。もちろん採算の厳しい業者もあるが、その影響はすぐさま倒産ではなく、まずは設備投資の抑制という形で経済に現れるという。事実08~09年の天然ガス価格急落時も、シェールガスの設備投資は2/3に減った。太田さんは当時の経験則を基に今回の設備投資抑制額を450億ドルと予想。金額は大きいが、同時にガソリン価格下落などによる家計の節約額が1650億ドルに達するため、米国経済全体で見た油価下落の影響はプラスに働くと語った。
 巷ではサウジアラビアなど産油国の価格攻勢で、原油価格がまだ下がるとの懸念が燻っている。しかし太田さんは、アラブの産油国といえども際限なしに原油価格を下げられないと指摘。「サウジアラビアは原油の輸出で得たお金で生活必需品の輸入しています。つまり輸入をまかなえるだけの外貨が必要です。そのためには原油価格が1バレル63ドルを上回る必要があると言われており、彼らとしても現在の価格水準の継続は望ましくないはず」と語った。さらに原油価格の下落を新興国経済の減速と結びつける見方に対しても、「ブラジルなど新興国の経済が減速したとしても原油の需要は増えます」と疑問を呈した。国内の新車販売台数が200万台から100万台に減れば、経済成長率という点ではマイナスだが、国内で走る車の総数は100万台増えるので燃料需要の減少はありえないと指摘。「鉄道などのインフラが整備が遅れている新興国では、輸送の大半をトラックに依存するのでなおさらです」と付け加えた。原油価格急落は、新興国等の需要が問題ではなく、シェールブームによる供給過多が原因だとして、シェールオイルの減産が確認されれば、原油価格は安定するだろうとの見立てを示した。

第2部

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[講師]
中原英明 さん

1988年九州大学卒業後、第一勧業銀行に入行。以降、国際資金為替部デリバティブプロダクツグループ調査役、ALM部参事役、市場金融部次長などを歴任。2010年にみずほ銀行米州資金部次長として着任、現在に至る。

米国における足許の金融市場動向

 リーマンショック時を除けば、過去10年間上昇している原油価格は、昨年8月に急落。この影響で産油国の通貨、特にロシアのルーブルは激しく下落。市場参加者にとって「原油価格の下落=産油国の魅力の下落」となるため、ルーブルを叩き売った形だ。そもそも原油価格の下落が為替相場に影響を与えるのは、産出量ではなく原油の輸出額が大きい国の通貨であるはず。しかし中原さんはブラジルを例に、輸出額が小さくても価格下落の影響が及ぶ例を解説した。
 「原油価格の下落の影響は、産油国から次第に資源国へと波及しました。ブラジルは産出量こそ世界13位ですが、輸出額ではランキングにすら出てきません。そもそも同国は鉄鉱石や大豆を多く輸出する国ですから、原油価格はあまり影響しないはずです。しかし、為替相場は連想ゲームのように資源国の通貨にも影響を及ぼし、ブラジルの通貨レアルも急落しました。この現象は株式市場にも同様に起こっていました」。
 次に米国金利の話題に移った。基本的に10年物金利と物価の動きは連動しており、FRBが昨年12月時点に発表した経済見通しによると物価は緩やかに上昇と予想。政策金利も15年末に1.125%、16年末2.5%、17年末3.625%と上昇を予想している。ただし市場参加者らの試算はそれぞれ0.46%、1.215%、1.7%となっており、FRBのそれよりも低い。
 同様に金利と株価も相関関係にあるが、14年の推移を見ると株価上昇に反して10年物の金利は下落。米国経済が堅調なら本来上がるべき金利が下がっている理由として、中原さんは次の3つの要因を紹介した。
 1つ目は、ウクライナを含めたロシア情勢やエボラ出血熱など、ネガティブな世界的事件や出来事が金利を抑える傾向にあること。2つ目は、日本やEU諸国の国債金利がゼロ近辺かマイナスであるのに対し、米国債は現在2%前後あるため、利息収入を期待する投資家が買っていること。3つ目は、有事の際に金融機関から流出する可能性のある資金額を算定し、それを100%以上カバーできる安全な資産の所有を義務付けたLCR(Liquidity Coverage Ratio)という規制により、常時換金できる優良な資産としての米国債が売れていることなどを挙げた。これらの要因が「株が買われるなら金利が上がる」という常識的な現象を打ち消しているそうだ。
 さて、6年ぶりの大相場となった14年のドル/円相場。過去5年の平均値幅は14.1円で、過去10年で見ると15.6円、20年では18.2円。現在は1ドル120円であり、130円台は容易に想定内となる。
 1973年以降これまでの円安局面は全て日本人の円売りが円安を主導してきた。今回もそれは変らないが、その日本人の中にドルを買い遅れるわけにはいかない輸入企業が多く存在する点がこれまでと大きく異なる。今回の円安は124.14円が一応の目処とされているが、これを超えると一気に130円代に突入することもあり得るというのが普通の見方。しかし中原さんは、それほど円安に振れないと見る。その理由をこう解説した。
 「原油価格の下落で、日本では経常収支が改善されドル買い円売りのフローが減少すると考えられます。一方では原油価格の下落が周辺諸国に恩恵を及ばさなければ米国の利上げが遅れる可能性もあり、また今も米国債は『買い』ニーズが強いことから、日米の金利差はそれほど拡大しないと考えるからです。結果的にドル高円安は予想以上に進まないと思います」。
 また、堅調に上昇している日経平均株価は実はドル建て換算すると下がっていたとし、円安で輸出企業の業績が伸びているから日本株が買われたのではなく、円安で単に日本株が割安になっただけと考える市場参加者の存在を指摘。中原さんは1ドル115円付近が均衡点と見ている。

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経済・金融の専門家が米国経済という身近な話題を解説するとあって、業種を問わず多数が参加

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