JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2015/1/23

第179回JBAビジネスセミナー 「サプライチェーン改革〜流通コストの削減と関税、移転価格プランニング〜」

去る1月23日、オレンジ・カウンティーのアーバインで、第179回JBAビジネスセミナー「サプライチェーン改革〜流通コストの削減と関税、移転価格プランニング〜」を開催した。当日はPwC(PricewaterhouseCoopers)の日系企業部門のエキスパート4人が講演。グローバル企業のサプライチェーンの最新動向を踏まえ、在米日系企業のサプライチェーン改革や関税、移転価格プランニングについて、具体例を交えながら解説した。

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[講師]岡本 潔 さん

PwCアドバイザリー部門パートナー。オペレーション戦略、サプライチェーンマネジメント、製品イノベーション、開発の分野における20年間以上の実務経験、およびコンサルティング経験を持つ。

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[講師]Craig J. Pinkerton さん

PwC関税貿易部門ディレクター。米国企業および在米外資系企業に対し、関税費用の低減機会の特定、関税リスクの低減、関税にかかる事務効率向上など、関税全般のアドバイスを提供する。

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[講師]横山美穂 さん

カリフォルニア州公認会計士。PwC税務部門パートナー。米国展開する日系企業への米国および国際税務アドバイス、コンプライアンス、税務効果会計サービスなど税務全般に従事。

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[講師]黒澤 敦 さん

PwC税務部門移転価格グループマネージャー。輸送機器、医療機器、食料品産業などの米国企業および在米日系企業に対し、相互協議、事前確認、移転価格文書化サポートなど移転価格関連のアドバイスを提供。

在米日系企業のサプライチェーン改革

 まずはPwCアドバイザリー部門パートナーの岡本潔さんが壇上に立ち、日系企業の事業モデルを解説。①国内市場向けに事業を行う「国内モデル」、②国内で開発・製造した製品を輸出する「輸出モデル」、③本社で製品を開発・製造し、そのプラットフォームを海外に移して現地で作る「地域化モデル」、④核となる製品の開発・製造・販売全てを現地で行う「オリジネートモデル」があり、最近では③④が増えているとした。またグローバル展開する上では、②から④のいずれもサプライチェーンの機能充実が重要と説明。その裏付けとしてPwCがグローバル企業500社を対象に行った調査を紹介し、パフォーマンスに優れた世界的企業ほどグローバルと地域の両方におけるサプライチェーンのバランスを維持していると説明した。
 従来の事業環境で見逃しがちだった物流コストの改善で10~20%のコスト削減が可能と言う岡本さん。物流コストを考える上では、①納期達成率、②物流コスト、③在庫回転率の3つの物流パフォーマンスを包括的に把握する必要性を説き、「①から③はどれもトレードオフの関係にありますが、企業にとって最適のトレードオフポイントを特定し、それを意図的に実現することが重要です」と解説した。
 通常は、アジアの製造拠点で作った製品を北米各地の倉庫に輸送し、その地域の顧客に配送する。この一般的な物流フローでは、①国際輸送、②関税、③倉庫オペレーション、④国内輸送の4つの大きな領域があるが、このうち圧倒的にコストがかかるのが①と④。合わせると総物流コストの60~70%を占めるそうだ。岡本さんは、①から④においてそれぞれ「航空輸送から海上輸送への変更」「通関を集約することによる税関使用料の削減」「レーバーレートの削減およびプロセスの効率化」「輸送レートの削減」などのコスト削減方策を紹介した。
 物流オペレーションでは、①現状の輸送レートや倉庫のコストを競合他社や相場と比べる「ベンチマーク」、②自社と他社の現状プラクティスの比較、③物流関係従事者への面接や物流施設への訪問による現状の明確化、④輸送パフォーマンスのデータ分析の4つの重要な活動があるが、これらを体系的に診断することでコスト削減機会を洗い出すことができるという。
最後に岡本さんは企業の改善活動例を紹介。成功の共通点として「物流フローに沿った物流領域の検討」と「国際輸送、関税、倉庫管理、国内輸送の徹底分析」を挙げ、これにより物流コストが年間10~20%も削減できるとした。

関税コストの低減とその諸方策について

 次のセッションでは、PwC関税貿易部門ディレクターのクレイグ・ピンカートンさんが講演。PwC税務部門パートナーでカリフォルニア州公認会計士の横山美穂さんが補足と解説を担当した。
 輸出入には関税以外にも物品税、通関手数料、港湾維持料、アンチダンピング・相殺関税など多様なコストがかかるが、海外から原材料を輸入し製品化して輸出する在米日系企業にとって、こうしたコストの削減はキーポイントとなる。
 輸入の際に通関業者を使う日本企業は多いが、関税当局による調査が行われた場合、通関業者ではなく輸入当事者である企業が責任を持つ。輸入額が多いと5~7年のスパンで関税当局による調査が入る。調査の際には関係資料の提出を求められるため、常に適切な注意を払い、記録を管理・保管しておく必要性がある。
 次に関税コスト低減のための4つの諸方策として、「ファーストセール」「外国貿易地域の活用」「関税払戻制度の活用」、そして「関税分類」の見直しについて紹介。
 ファーストセールとは、米国に輸入する前に、製造子会社と中間販売会社の取引等、複数の取引が存在した場合に、米国輸入に先行する最初の取引価格を関税課税価格として使用することが認められる制度である。例えば日本企業が中国の子会社で製品を製造し、物流上は中国子会社から直接米国子会社に輸出し、商流上は中国子会社から日本本社を経由して米国子会社に販売したとする。この場合、ファーストセールを適用することによって、アメリカでの輸入の際の関税課税価格に中国子会社から日本本社への販売価格を用いることができる。このファーストセールの適用条件は、正当な販売取引が存在し、取引価格を通関価格として使用することが他の法令などにより除外されていないこと、製造者と中間販売会社との取引の時点で製品が米国向けであることが明確であること、製造者と中間販売会社の取引が独立企業間価格であることである。
その後、外国貿易地域(Free Trade Zone)の活用による関税率の軽減、事務的負担の軽減、通関手数料の削減等の利点について、そして関税納付済みの輸入貨物を他国に再輸出(あるいは破棄)する場合、納付した関税の99%にあたる金額を上限とした払い戻しを受けることができる関税払戻制度について紹介。最後に既存の関税上の商品の分類コード(商品の名称および分類についての統一システムに関する国際条約に基づく分類番号)に分類できない製品を低い関税率のコードに再分類する等、課税分類の見直しによる関税の低減策を紹介した。ここでは例えば自動車の一部となる部品でも、自動車自体の一部とするのか、それとも自動車のシートの一部として分類するのかによって、関税率も10%と3%と大きく異なるため、分類による節税効果が大きいとした。

サプライチェーンに関わる移転価格のプランニング

 最後にPwC税務部門移転価格グループマネージャーの黒澤敦さんが講演。まず黒澤さんは、在米日系企業が関わるサプライチェーンに変化が起きており、これに伴い在米日系企業の機能が複雑化していること、また全世界での税制環境が大きく変わり、各国の税務当局がグローバルのサプライチェーンとそこでの全世界所得、ならびにサプライチェーンの中の各社の経済的実体に注目していることについて紹介した。さらに移転価格では一連のサプライチェーンにおいて担う機能、負担するリスク、使用する資産に応じた課税所得を計上し、これらが大きいほど期待収益は高くなり、振れ幅も大きくなるという移転価格の基本概念を説明した。その後、近年のサプライチェーンモデルで多く採用されている地域化モデル(例えば、北米地域に地域統括会社等の複雑な機能を持つハブを持ち、同地域内の研究開発、製造、販売会社を統括するモデル)とオリジネートモデル(地域化モデルと異なり、同一地域内に複数のハブが存在するモデル)における移転価格ポリシーの整理の方法について説明した。
 黒澤さんは、移転価格ポリシーの整理の際には、在米日系企業が関わるビジネスモデルがどんなもので、そこでの在米日系企業の機能は何かを把握することが重要とし、一つの会社でも事業種別、製品別、顧客市場別にビジネスモデルが異なる場合があるため、こうした場合はビジネスモデルごとに各社の機能を把握する必要があるとした。また、日系企業のグローバル化に伴い在米日系企業の機能が複雑化しており、在米日系企業が独自の研究開発を行う、または無形資産を有する企業を買収することで無形資産を自ら保有したり、ビジネスの新しいプラットフォームを独自に開発して世界展開したりしており、こうした場合のビジネスモデルの把握と各社の機能の把握の際にはさらなる注意が必要とした。
 そして、ビジネスモデルおよびそこでの各社の機能の把握後は、ビジネスモデルごとに移転価格ポリシーを策定する必要があり、その際は関連会社間契約の締結によって法的に裁量・リスク負担・権利・義務の分担を明確化し、各ビジネスモデルに各在米日系企業の機能に応じた期待利益率を算定すべきとした。
 最後に黒澤さんは、直近の税制環境下で移転価格ポリシーを策定する際の注意事項を紹介した。まずは、各ビジネスモデルにおける在米日系企業の経済的実体と移転価格ポリシーにおける機能との間に乖離がないかを確認し、在米日系企業各社の機能と課税所得との間に一貫性があるかを把握する。また、策定した移転価格ポリシーと毎年の税務申告期限までに各社の課税所得レベルを説明する移転価格文書の内容との間の一貫性にも注意する必要があるとした。

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物の輸出入でビジネス展開をする日系企業が多い中、当日は会場が満員となる盛況ぶりだった。

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