JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2017/10/11

企画マーケティング部会 第206回 JBAビジネスセミナー報告「米国市場での成長と収益性の最大化:これだけは見直しておきたいブランディング戦略と事業リスク管理」

去る10月11日、トーランスのMiyako Hybrid Hotelにて第206回JBAビジネスセミナーを開催した。講師となったのはコンサルティング会社、s-cubedのコンサルタント3人。米国でのビジネス成功のためのアクションと戦略のヒントを提供した。

[講 師]
須藤 潤さん
須藤 潤さん
s-cubed CEO、グローバルコンサルタント。ウォーレン・バフェット氏率いるBarkshire Hathawayをはじめ、大小のグローバル企業をサポート。

ファビアン・ゲイハルターさん
ファビアン・ゲイハルターさん
s-cubedアソシエートパートナー、ブランディングコンサルタント。ブランディング会社、FIMIEM創業者 & 社長。著書にベストセラーの『How to Launch a Brand』がある。

ロバート・リベロさん
ロバート・リベロさん
s-cubedアソシエートパートナー、グローバルコンサルタント & CEOメンター。 北米、南米、アジアでの企業進出・成長を長年にわたり支援。元KPMGエグゼクティブ。NASDAQ上場企業の外部役員を務める。

ブランディングにとって重要なこと

最初に話し始めたのは、講師の一人である須藤潤さん。通常セミナーで聞いた情報のうち記憶に残るのは5%のみという統計を示した後、「情報を記憶に残す最も効果的な方法とは?」と参加者に問いかけた。その答えは「脳に十分な酸素を送ること」と「参加すること」。参加者がそれを体験できるよう、須藤さんは最初の25分間に参加型のさまざまなゲームを行った。

会場内が和やかな雰囲気に包まれる中、マイクはファビアン・ゲイハルターさんへ渡った。ファビアンさんの話のテーマは「ブランディング」。ファビアンさんはブランディングが会社の背骨だと考えているという。「どんな会社であれ、まず人の目に入るのはブランドです。たとえ競争が激しい業界でもブランドを確立すれば、競合他社が類似商品を安価に提供しても、人々はブランドを信じて付いてきます」。

ブランドを確立する際に重要なことが3つある。その一つが「共感」である。「私たちは売ること、製造することを考えますが、共感についてはあまり考えません。でもそれが会社の成長の鍵です。まず自分のブランドを買ってくれる人々と同じ立場に立ち、消費者を理解し、共感を呼ばなければなりません」。その具体例として現在コンサルティングをしている医療系企業や昨今大人気のゴルフエンターテインメント企業Topgolf、そしてアウトドアブランドREIの例を挙げた。REIは年間最大の売上を記録するブラックフライデーを全店舗閉店とし、代わりにアウトドアで遊ぶことを促した。外に出て遊んだ人々はSNSに「#OptOutside」と付けた投稿をすることで後日20%オフの買い物ができる仕掛けで、約1.5億人が投稿した。またREIの収益はその後3カ月で9%上昇した。「共感は利益とイコールなのです」。

2つ目のポイントは「人々は異なる」ということ。「日本から来た皆さんと私は共通点も持っていますが、相違点もあります。誰が対象者なのかを考えなければいけません」。

3つ目は「ブランドとは人」であること。「これは全てを変えてしまうほど重要です。かつてとは異なり、現在のブランドは人のように動き回り、人とつながります。ブランドが政治を語ることもあります。こうしたもので成功しているブランドは革新的なものではなく、ごく普通の日常的な物の会社なのです」。

ファビアンさんはこれらのブランドの成功のキーポイントは8つあるとし、その一部を紹介した。一つは「ストーリー」。魚を中心とした食材をパッケージにして販売しているFishpeople Seafoodは、商品自体に革新的な要素はないが、パッケージに書かれたコードから、漁師の名やいつどこで釣れたかなどの情報が写真と共に見られるようになっている。ストーリーの共有である。

「共通の価値観」も重要である。「信念を共有する例には、オーストリアの靴メーカーGEAの例があります。同社社長は政治的な新聞を発行しており、『消費社会、資本主義反対』と堂々と意見を述べます。銀行や投資家からの投資はなくなりましたが、クラウドファンディングで有り余るくらいのお金を集めています。人々と共通の価値観があれば、商品に付加価値を加えられるのです」。

「透明性」も、とりわけミレニアル世代の消費者にとって大切なポイントである。「透明性が少ない業界と言えばアパレル業界ですが、ミレニアル世代の若者にとっては誰が自分の服を作ったかが重要です。彼らは誰にも害を与えずに製造された衣類を着たいのです。ファッション業界のように業界全体が不透明であれば、透明性を掲げるチャンスです」。また「理由」「連帯感」もキーポイントとして挙げられた。
ファビアンさんは、「このように過去5年間で新しい企業が技術を使わずに、流れを変えてきました。これらの企業が使ったのはブランド構想だけなのです」と話し、セミナーの前半部を終えた。

事業リスク管理と成長性・収益性向上のために

後半に登場したのは、ロバート・リベロさん。KPMGに34年間勤務し、9つのビジネス分野にわたっておよそ30カ国で勤務した経験がある。ロバートさんのセミナーのテーマは、「事業リスク管理」である。

まず 「成長性と収益性を上げるプロセスについて見ていきましょう。成長性と収益性のいずれを重要視するかは、会社の形態や成長過程のどこにいるかによっても変わってきます。これらを上げるための方程式はありません。ただ守備と攻撃を繰り返すしかないのです。つまり何が問題なのかを理解し、その問題を解決するのです」とロバートさん。問題が何かを理解する際には、ビジネスについてのみならず、数字つまりファイナンスを理解することも重要だと続けた。

問題を理解したら新たなゴールを設定する。その上で取るべきアクションのステップを決めタイムラインに落とし込む。そしてアクションステップを実行し、結果を厳密にモニターすることが重要だという。「多くの会社では、モニターするという責任を任せられた人がいない場合が多く、忘れられがちです。しかし予定通りに進んでいるか、結果は伴っているかをモニターし続け、そうでなければ計画を変更するなど、検討しなくてはいけません。会社が急成長したり、突然間違った方向に進み始めるのは、モニターを怠った場合が大半です。ビジネス上で起こることと、数字への影響を結び付ける能力を重要視するのはこのためです」。

その具体例として、ロバートさんは自身が経験した3つのケースを挙げ、どのような問題に直面し、どう解決したかを述べた。

具体例の1社目はオーストラリアのある会社の子会社で、製品の売上増を目指したところ、売上は上昇したものの総利益も純利益も減少した。とはいえ、ビジネス上で何か特別な異変もなく、経費についても変化はなかったという。実のところ、同社の主力製品は2つあり、製品Aは利幅が大きく、製品Bは比較的小さかったのだが、製品ごとの分析をしたことがなく、製品の売上と損益の関係を把握していなかった。そのため、売上増を目指す過程で製品Bの比重が増え、負荷がかかったのである。問題を把握した後、売上の重点を製品BからAに移行するプランを立案。しかし会社の予算内では実現困難と分かり、プラン実行の予算がある会社に良い値段で売却した。「結果としては良かったのですが、売上と成長性にのみ注目し、数字と売上との関連付けをしないなどモニターを怠った例と言えます」。

3社目に言及されたのは世界規模の日系製造会社のアメリカ支社の例であった。同社は米国を拠点にブラジルでも営業を展開していたが、現地に支社を作る必要があることを実感し、18カ月をかけて営業支社を設立した。同社の計画としては、その営業支社を設立した後、それをやがて輸出入拠点へと変更し、最終的に製造拠点へと変更するつもりであった。支社設立は実現したものの、折から発生したブラジル経済の停滞により売上が計画段階の数値を下回る事態に突入。しかし同社は現状維持をしながらアクションプランの動向をモニターしており、必要に応じて変更を加え、事業を持続させた。「この会社はまだブラジルにあります」。

最後に活発な質疑応答が行われた後、須藤さんは参加者に、このセミナーから学んだこと、その上で明日から実践したいことを一つずつ書くという「参加」を促し、2時間の熱量の高いセミナーを終えた。参加者の多くは普段接しないセミナー/ワークショップハイブリッド型のセミナーと、ベストセラー作家からの直接の講義が新鮮だったと感想を残しセミナー会場を後にした。

第206回JBAビジネスセミナー
今回のセミナーは英語での開催。ゲームを開催するなどインタラクティブな進行で、参加者同士も積極的に交流を図った。

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