JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2018/1/19

企画マーケティング部会 第209回 JBAビジネスセミナー報告「グローバル市場で組織変革を加速させるシステミック・コーチング」

去る1月19日、カーソンのPorsche Experience Centerにて第209回JBAセミナーを開催した。今回のセミナーの講師は株式会社コーチ・エィの創業者で代表取締役の伊藤守さん。同社が独自開発したシステミック・コーチングを基に、組織全体の能力開発を実現していく手法をさまざまな事例を使いながら解説した。

伊藤 守さん
[講 師]
伊藤 守さん

株式会社コーチ・エィ創業者 & 代表取締役。日本人初の国際コーチ連盟(ICF)マスター認定コーチ。日本コーチング界の草分け的存在。大手企業を中心に、企業や組織のリーダー開発、組織風土改革に携わる。

コーチングの対象とリーダー開発の考え方

「今日は自分にコーチを付けることにどういう意味があるのかと、自分がコーチングのスキルを持ったら何が起こるかという2つの視点からお話しします」と話し始めた株式会社コーチ・エィの伊藤さん。同社のコーチングは、基本的にはCEOやエグゼクティブ、マネージャー、駐在員、ローカルリーダーなどが対象である。コーチングが普及する以前に企業でよく行われていたのが「研修」である。しかし伊藤さんは「研修ではリーダーは育たない」と話す。というのは、研修は基本的には参加者を理想とされる枠にはめていくものだからだ。これは、枠から出て新たなイノベーションを起こしたり、新しいアイデアを見つけ出したりしていくことを目指すリーダー開発の対極にあるものだ。

コーチングの目的は、端的に言えば企業の業績向上である。「業績向上にはエンゲージメントが重要だと言われてきましたが、エンゲージメントが高くなったからと言って業績が向上するわけではなく、あくまで別問題です。また業績向上には組織の成長基盤を作ることが重要だと言われてきましたが、それだけではなく個人の成長基盤を作ることも大切だということが分かってきています」。

また個人的なことだと思われていた自己認識が、実は組織の業績と密接な関係があることも分かってきたという。「コンサルティング会社のコーン・フェリーが6977人のリーダーの自己評価と株価のパフォーマンスを比較したところ、ブラインドスポット(自分自身の評価と、周囲からの自分に対する評価が異なっている点)の発生率が、そのリーダーがいる会社の株式の収益率と連動していたのです。また、なんと業績不振の会社では、健全な収益性を持つ会社よりも79%の確率で社員の総合的な自己認識が低かったのです」。

そこで同社が導入したのが「システミック・コーチング」である。これはリーダーをコーチングするのみならず、リーダーが自分の部下をコーチングするプロセスをもコーチングするものである。実際に日本大手企業に対してシステミック・コーチングを行った実例が紹介された。その企業はこのコーチングの導入によって、以前は自らの意見ばかり述べていたリーダーが、部下の意見に耳を傾けたり、部下の変化に気付いたりと、コーチングされるリーダーその人にコーチとしての視点が備わるという変化が起きたという。

 

厄介な問題に対応できる戦略的リーダー開発

コーチ・エィではコーチングのテーマに「戦略的リーダー開発」を掲げている。「わざわざ戦略的と付けている理由は後で説明しますが、リーダーシップと組織の活性度には相関関係があり、会社の組織活性度は基本的には直属の上司に委ねられるものがとても大きいのです。つい部下を何とか変えようと思いがちですが、会社を良くしようと思うなら、実は直属の上司が変わるのが一番早く、効率的なのです」。

またリーダーシップ開発とは、単にリーダーやその候補者にリーダーシップを身に付けさせることではなく、リーダーシップがいつでもどこでも発揮される組織を開発することだと考えている。「誰を次のリーダーにしたらうまくいくのか?という問いもある意味では有効ですが、グローバル化時代の今、リーダーシップは個人のコンピタンシーではなく組織的なコンピタンシーなのです。結論から言えば、企業が育てるべきはリーダーシップ・ケイパビリティーで、それは社員全員が持っていていいわけなのです。そうした社員がどのくらいいるかによって、会社の未来は変わってきます」。

グローバル化時代の現状、何より不足しているのが「戦略的リーダー」である。同社では戦略的リーダーとは、厄介な問題に取り組むのに必要なノウハウや経験、信用を持ち合わせた人と定義している。「問題には対処法がすぐ分かる『シンプルな問題』、専門的な技術が必要な『コンプリケイティッドな問題』、そしてこれまでのやり方が通用しない『コンプレックスで厄介な問題』があります。さまざまな文化や慣習がぶつかり合うグローバル化時代には、このコンプレックスで厄介な問題に取り組める人が必要なのです」。面白いことに、人々が考える優れたリーダーの特性は国が違っても似ているが、優れたリーダーが実際に備えている特性は国によって違ってくるそうだ。

この後、伊藤さんは上司と部下の関係性には会話の量や質、上司と部下の話す割合、などが関わってくると話し、関係構築能力はリーダー開発に不可欠であると力説。「人を変えることはできません。これまで上司部下の関係を考える時には相手をどう考えるかということを考えてきましたが、残念ながら相手も自分もなかなか変わりません。でも関係性を変えていくことはできるのです。どれだけ信頼関係があるか、協力関係があるか、どんな関わり方をするかは変えていけます」。

対話や関係構築の中では、場合によって意見の不一致や誤解が発生する。「大人の対話というのは、そもそも人と話す時には意見の不一致と誤解があるという前提に立つ必要があります。そして対話というのはどちらかが一方的に話したり価値観を押し付けたりするのではなく、双方向性が重要です。グローバル時代の現在、企業が直面している課題を考えれば、一人で考えるのではなく、共に考える能力を開発することが求められています」。

 

コーチングの目的とその具体例

伊藤さん自身は、20年にわたり自らにコーチを付けてきたという。近年付いてもらっているコーチは、Skypeや電話をするたびにまず「What’s good news?」と聞くという。「そう聞かれると、何か良いニュースがあったかな、と考えるんです。これが三流のコーチになると『何か問題ある?』って聞いてくるんです。『顔色悪いね』なんて言われたって良くならないですよね(笑)」。

ほかのコーチとのコーチングでは、1年にわたり将来のビジョンを話し続けたという。その結果、分かったのはビジョンやイメージは話し続けないと消えてなくなってしまうということ。「誰かと話しているそのこと自体がビジョンのプロジェクターとなり、スクリーンとなり、それによってビジョンは育っていくのです」。

そして続けて「コーチングのゴールを新しい意味や理解を創造していくこと、つまりビジョンを作っていくことだと言っても良いと思います」と話した。コーチングの原則として、コーチの経験をシェアしたりアドバイスをしたりすることはない。そうしてしまうと、そのアドバイス以上のことはできなくなるからだ。ではコーチは何をするかというと、質問をするのだという。「決まった質問はなく、クライアント一人一人のために質問を作ります。なぜかというと、人は質問によって行動を起こし、組織も質問に答えて行動しているのです。どんな質問をするのかによって、人の行動や在り方は変わります。しかし同じ質問を繰り返していると同じ行動しか起こりません。コーチは質問を作り、そしてクライアントが質問を作るスキルをコーチしていきます」。

最後に伊藤さんが紹介したのは、どうしたら人はやる気が出るかについて。「人間は課題に直面した時に幸福度が最も高いように見えると言われます。ですから、難しいけれど手が届かないわけではないゴールを、上司が部下にどのくらい出せるかがすごく大切です」。

 

北米における実例とコーチングのポイント

伊藤さんによるコーチングについての解説後、セミナーの最後15分間は、 株式会社コーチ・エィExecutive Vice Presidentで、北米を中心にコーチングを担当している竹内健さんが登壇し、日系企業による米国企業の買収案件のPMI(M&A成立後の統合プロセス)フェーズにおいて、コーチングを活用した実例を紹介した。またコーチングを受けてうまくいった例、逆にコーチングを受けてもうまくいかない例に言及しつつ、こうした事例から読み取れるコーチングのポイントも紹介した。

「まず、問題を自分ごととして捉えること。周囲や環境のせいにしている状態から、自分ができること、やるべきことに集中すること。また、自分は正しいと考えるのではなく、周囲と考え方や価値観をすり合わせて新たな視点を得ること。そして、思い込みやレッテルで判断するのではなく、事実やデータに基づいて判断することです。さらに大切なのは習慣化です。頭で分かっても実際にできるかどうかは別物です。そのためには練習が大切で、とにかくそれをやり続けて、習慣化することです。そして、自分の知識や行動さえ変われば十分なのではなく、自らと周囲が互いに組織全体のために支援し合うことが、成功のためには不可欠だということを覚えておいてください」。

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