JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2018/2/8

企画マーケティング部会 第210回 JBAビジネスセミナー報告「AIによって加速する”ビジネス革命”の大潮流 ~ワークスタイル・イノベーションの新時代~」

去る2月8日、カーソンのPorsche Experience Centerで第210回JBAビジネスセミナーを開催した。当日はWorks Applications America Inc.の寳槻昌則さんが講演。昨今何かと話題に上るAI(人工知能)を取り上げ、現在の技術革新やビジネスにおけるその影響、今後の動向などを詳細に解説した。

寳槻昌則さん
[講 師]
寳槻(ほおつき)昌則さん

Works Applications America Inc. シニアバイスプレジデント、セールス。

既存のものを新しいもので置き換える

AIとは「Artificial Intelligence」の頭文字を取ったもので、日本語では「人工知能」と訳される。名は人口に膾炙しているが実状はあまり知られておらず、AIの発達による人間の働き方の変化についても間違った認識が多いという。寳槻さんはそうした無知や誤解を払拭し、AIの現状を正しく理解するための入門編としてセミナーを開始した。

まず紹介されたのは「Disruptive Innovation」という言葉。直訳すると「破壊的革新」。これは既存のものを打ち壊すことではなく、既存のものを新しいものに置き替えることであるという。例えば自動車メーカーのFORDは、馬車を車に置き換えた。最近で言えば、固定電話がiPhoneに、タクシーがUberに、ホテルはAirbnbに置き換えられた(あるいは置き換わりつつある)。寳槻さんは、こうした全く違ったアプローチで技術革新が起こることをDisruptive Innovationと定義付けた。

次にAmazon社が開発する「Alexa」を紹介。Alexaはマイクとスピーカーを搭載した端末で、例えばそれに向かって「今日の天気は?」と聞くと、天気や気温などを音声で答えてくれる。さらに高度な会話も可能で、「今日のヤンキースの試合はどうだった?」と聞けば、試合結果のみならず、これまでの会話から質問者が田中選手のファンだと分析すると、同選手の成績や投球の様子なども教えてくれるという。いわば、生活の中に私設秘書がいるようなものである。

また、ワンプッシュで欲しい商品を注文できる「Amazon Dash Button」も紹介。従来のインターネットショッピングのように住所やクレジットカード番号、配達指定などを入力することなく、ワンプッシュで商品をオーダーできるシステムで、これら二つのサービスが進化すると、例えばAlexaに「今日はカレーを作るよ」と伝えておけば、Alexaが冷蔵庫と通信して残りの食材を把握。Dash Buttonが足りない食材を注文し、人間が仕事から戻ってきた時にはカレーの材料が揃っていることも可能となる。Amazonが目指しているのは、こうした世界だそうだ。

オンラインショッピングのシステムに注目が集まりがちなAmazonだが、実はその裏側がDisruptive Innovationだという。例えば同社の物流センターでは、注文の仕分けをAIが行っている。センター内は無人で、ロボットが何百とある棚に移動し商品を集める。そのロボット同士は互いにコミュニケーションを取り、衝突することなくセンター内を何十台ものロボットが行き来している。

次に寳槻さんが紹介したのは、電気自動車メーカーのTesla。「同社のDisruptive Innovationは自動運転システム。今では一般道で安全に無人運転できるほど進歩しています。このシステムには高価なレーダーなどは一切搭載していません。取り付けられているのは廉価のデジタルカメラ。ここからの画像をAIが読み込み、道路の線や標識、歩行者の動き、周りの交通状態などを総合的に判断することで、安全な走行、停止、ターンを可能にしています」。現在、AmazonやTesla、Apple、IBMなどのハイテク企業だけでなく、製薬や不動産、小売など、多岐にわたる業界でAIが活用されているという。

 

AIがおよぼす人間の仕事と社会へのインパクト

最近よく耳にする「AIの発達で人間の仕事が奪われる?」という疑問について、寳槻さんは「当然奪われるでしょうが、同時に新しい仕事(=ビジネスチャンス)が増えるでしょう」と語る。例えば、先の自動運転技術が実現したとすと、タクシーやトラックの運転手は不要になるが、その業界における雇用者数はそれほど変化しないというのが寳槻さんの予見である。「昔はJRの駅員が切符にハサミを入れていました。自動改札機の登場で切符切りは不要になりましたが、JR職員は減っていません。切符切りの仕事がなくなった分、障がいを持つ方のケアや観光案内など新しい仕事が生まれ、役割を変えて駅員は存続しているのです。自動車業界にも同じことが起こると思います」。

次にAIの社会的影響力が紹介された。例えば先の自動運転技術が確立し一般化すると、人為的な運転ミスがなくなり事故が減る。すると、自動車保険の仕組みや救命医療のあり方が変化する。また、自動運転の車が街中を(流しのタクシーのように)走行することで、乗り合いが一般化。車を所有するという概念がなくなる。すると駐車場が不要になり不動産スペースに余裕が出ると、街のランドスケープが激変する。あるデータによると、アメリカ人は年間平均750時間(一日平均2時間)を運転に割いているというが、自動運転の一般化により、この時間が消費や娯楽、外食に回ると考えると、その社会に与えるインパクトがいかに絶大かは想像に難くない。「このように自動運転の登場だけでも、不動産、医療、保険、外食、娯楽、小売りなど多種多様な業種を巻きこんだ構造転換が現実化します。つまり、1社のイノベーションが数百のイノベーションを喚起するのです」と寳槻さんは説明した。

 

現在進歩するAI技術が本物である3つの理由

GoogleやNetflix、iPhoneなどが誕生した当時、その有効性は大いに疑問視された。しかし今では各業界で覇権を握っている。寳槻さんは、「Disruptive Innovation」の有効性は見えにくく評価しにくいとしながらも、現在進化を遂げているAI技術は本物だとした。その理由を以下の3つ。

(1) インターネット:インターネットの普及で情報収集が容易に。現在は世界中の人が情報を自由に発信しており、ネット上にAIに必要不可欠なデータが大量に存在する。

(2) クラウド(計算能力):何万台という廉価のコンピューターをつなげて分散処理する技術が確立した。この計算能力の向上により、Googleが瞬時に入力ワードを検索できるようになった。

(3) アルゴリズム(理論):AIを動かすソフトウェアは、「機械学習」という理論を根本としている。これは人間の脳の仕組みを真似たアプローチで、例えばAIに「犬」を認識させたい場合、従来は何千何万という動物の特徴をプログラミングして定義し「犬」を認識させていたがこれには限界があった。そこで登場したのが「機械学習」。AIに大量の「犬」の写真を読み込ませ、犬の特徴を抽出。これを繰り返すことで自力で「犬」を認識できるようになるのである。現在のAIは「学習による成長」により進歩している。

Teslaの例では、AIにいろいろな画像を読み込ませて「これが木」「これが人」「これが車」と教え込んだ。そこからAIは各特徴を抽出し、自分で認識できるようになったのだ。もちろんその過程で失敗もあるが、その失敗からも学習し、成功を導き出すプロセスをたどってきたという。

 

人工知能をめぐる事例の紹介

後半は、実際にAIがどのように活用されているかの事例が紹介された。

• Goldman Sachs(証券会社):金融関連企業の中でも業務のAI化が進んでいる同社。これまで株の売買には経験と知恵、相場の勘などが重要だったが、今はソフトウェア取引が中心であることからAIが活躍。結果、2000年には600人いた同社所属の株式トレーダーが現在は2人しかいない。ただし、その代わりに、300人程度の人材がソフトウェア関連で雇用されている。

• AP通信(通信社):記者が手書きで記事を執筆していた時代は1日300件がニュース配信の限界だった。現在はAIが記事ドラフトを執筆し、それを人間がチェック・加筆。1日のニュース配信数は4300件に増大。ただし記者数はそれほど変わっていない。

• RAVN(法律事務所):過去の判例を探す作業をAIが代替している。この作業は莫大な時間と多くの人員を要していたが、人間に比べて200倍の調査量を持つAIの登用により事務所の負担は激減した(正確にはBLP, Berwin Leighton Paisnerという法律事務所が、RAVN Systemsが提供する「RAVN ACE」というAI プラットフォームを活用して前述のようなことを行っている)。

• Enclitic(医療系ベンチャー企業):画像認識系のAIを開発・実用化。AIが肺のレントゲン写真から、がんにり患しているか否かを判断している。アメリカでは毎年3億枚の肺のレントゲン写真が撮られている上、肺がん患者数も多い。このように肺がんに関するデータが膨大に存在することが、このAIが実用化された大きな理由である。

• キューピー(日本の食品メーカー):ダイスポテトというベビーフードの製造過程で生まれる品位不良品の検知、発見をAIが代替している。

 

AIにできることとできないこと

よく「AIは何でもできるの?」という質問がされるが、寳槻さんは「そうではない」と話す。「今のAIは、非常に研ぎ澄まされたシンプルな専門分野に特化した業務が得意です。EncliticのAIは、健康な肺とそうでない肺の特徴や違いを認識し肺ガンを発見しますが、人体や肺の構造に関する知識はなく、がんの概念も一切知らないため、他のがんは見つけられません。肺がんを疑う判断(診断)も不可能です」。

面白い例では、AIは過去のデータ(過去の法則)から売れる音楽バンドや人気が出る曲を見つけることはできます。しかし、これから流行るであろう新しいジャンル(スタイル)の判断はできません。理由は過去の学習材料がないからです。つまりAIはスカウトになれても、プロデューサーにはなれないのです」。

AIには「専用AI」と「汎用AI」の2種類がある。ある特定の仕事に威力を発揮するのが専用AI。それに対し、汎用AIは、専門を外れてもある程度仕事が遂行できるAIのこと。例えば野球のイチロー選手は、それまでの練習や経験から、野球以外のスポーツもある程度はすることができるだろう。将棋の羽生名人も、将棋以外のパズル的なゲームでもハイスコアを取れるかもしれない。このように、経験を基に総合的な理解と判断を行うことで違うパターンの仕事もできるのが汎用AIである。「現在実用化しているのは専用AIのみ。そもそも専用AIと汎用AIは全くの別物で、汎用AIは専用AIの先にあるものではありません」。

最後に寳槻さんは、AIには「ある業務に集中した特化型AI」「反復の多い作業の自動化」「学習による制度改善」「過去の傾向やパターンを基にした結論への導き」が向いており、一方、不向きなことは「包括的な汎用型AI」「特殊で戦略的な業務の自動化」「過去のデータなど学習材料がない状態での制度改善」「過去にない、または全く新しいケースバイケースの業務に対しての結論を導き出す」ことだと紹介した。

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