JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

サイト内検索

2016/3/4

第192回 ジェトロ・JBA共催セミナー「メキシコ政治経済概況」報告

去る3月4日、Toyota USA Automobile Museumで、第192回ジェトロ・JBA共催セミナー「メキシコ政治経済概況」が開催された。ジェトロ・メキシコ事務所員の西尾瑛里子さんが講師となり、近年、日本企業の進出も相次ぐメキシコの政治経済概況を解説した。

西尾瑛里子さん[講師]

西尾瑛里子さん
ジェトロ・メキシコ事務所員。2007年ジェトロ入構。海外調査部、神戸事務所勤務を経て、13年より現職。メキシコ、キューバ調査の他、日本食、外食、アニメ、邦画等のメキシコ市場開拓、およびキューバ関連事業も担当。


1. 政治概況
〜2015年選挙結果と構造改革〜

ニュースを見ると麻薬組織の抗争など、決して安全な印象ではないメキシコだが、2年半駐在員として暮らした実感から、「多少の緊張感を持って暮らす必要はあるものの、住みやすい国」と話し始めた西尾さん。

経済的な面で中南米ではこれまでブラジルが注目されていたが、中国経済の不調と共に伸び悩んでおり、代わってメキシコが注目を浴びている。「実際のところ、メキシコ経済はGDP成長率が2015年は2%前半、16年は3%弱と予測されており、決して良いわけではありませんが、メキシコの経済を司る責任者は米国で教育を受けた人が多く、手堅い運営をする傾向にあります。その意味で、政治経済ともに安定しているのが同国の強みなのではないでしょうか」。加えてメキシコは自動車産業進出ラッシュのただ中にある。

西尾さんは、まず人口、面積、言語、首都、宗教、政治構造など、メキシコについての基礎知識をさらった。現在の大統領は、2012年12月1日に就任した政治的革命党(PRI)のエンリケ・ペニャ・ニエト大統領である。PRIが政権を奪還したのは12年ぶりである。また15年の下院選挙結果により、PRIは政権協力2党とあわせて、上院、下院議会でも過半数を占めており、安定した政治運営を行える状態である。

ペニャ・ニエトは政権誕生後、構造改革を実施しており、その6つの柱は、労働法改正、教育改革、通信改革、財政(税制)改革、政治・選挙制度改革、エネルギー改革である。元来メキシコの労働法はかなり労働者寄りだが、今回の労働法改正ではさらに労働者フレンドリーになった。教育改革においては、これまで世襲制だったメキシコの教員制度にメスが入れられ、教員登用試験や評価制度が取り入れられた。ほぼ独占状態だったメキシコの通信事業は、通信改革により競争環境が整備されつつある。

構造改革の目玉はエネルギー改革であり、エネルギー資源の開発に民間企業を積極的に関与させる画期的な政策である。メキシコの石油事業は1938年に国有化され、公社が設立された。さらに60年に民間の参入が禁止され、以後70年近く政府が支配していたが、非効率な運営により開発は滞りがちだった。結果、メキシコの歳入の35%を占める重要な歳入源であった原油の生産が、2004年、減産に転換。根強い石油ナショナリズムに阻まれて改革はなかなか進まなかったが、問題が深刻化しこのたびの改革が成立することになった。改革により電力も自由化され、民間同士での売買電が可能になる。今は日本より電気代が高額なメキシコだが、今後は大幅に下がるのではないかと見込まれている。

2. 経済概況
〜データでメキシコ再発見〜

メキシコのGDP(国内総生産)は約1.3兆ドルで世界15位である。これは韓国より低く、インドネシア、オランダよりは高い。1人あたりGDPにすると約11000ドルで、世界66位(いずれも14年の名目GDP)。次にGDPを供給面(産業別)で見た。メキシコと言うと自動車産業というイメージがあるが、実は完成車でGDPの1.6%、自動車部品で1.3%。あわせて2.9%にしか満たない(15年1Q-3Q)。製造業の主軸は意外にも食品・飲料である。GDPにおける製造業の割合は18%であり、中国が30%であることを考えると低いとも言える(13年)。製造業以外では商業が15.8%、不動産・賃貸が11.8%を占める(15年1Q-3Q)。GDPを需要面(国内市場)から見ると、民間最終消費がGDPの68%と高く、日本を上回っている。消費額では世界12位であり、先進国にひけをとらない(13年)。これを支えるのは、所得の約50%を占める、所得層上位20%の富裕層である。メキシコは相続税が発生しないため、富の偏在が是正されることがない。富裕層の支出先は、交通・輸送手段、教育などであり、高級品の販売額も世界7位と高い(15年)。

輸出に関するデータを見ると、メキシコの輸出総額の8〜9割が製造業であり、品目のトップは自動車である。輸出総額の6割を自動車と一般機器が占めている。こうした輸出の8割が米国向けだ。輸入相手国に関しては、輸入総額の5割を米国、2割を中国を占める。輸入品目のトップは電気機器(15年)。メキシコの輸入への依存度は31.1%で、世界76位と低い。一方で輸出額は世界15位の3970億ドル(14年)、輸出額に占める国内付加価値割合も68.9%の世界37位(11年)と健闘している。

次に話題は、為替・金融・インフレに移った。メキシコの通貨であるペソは原油安の影響もあり、ペソ安に振れている。これはメキシコ経済に起因するのでなく、外部要因である。ペソ安が進行している一方でインフレ率は史上最低水準であり、15年は2.1〜2.2%程度。金利は15年12月に米国に追随して利上げが行われた。人口と労働力面で見れば、メキシコの人口は1億2000万人、世界11位で、日本と同程度である。2030年には第9位になると予想されており、労働力は今後も豊富に供給されていく。ただし問題点は、インフォーマルセクターへの就労割合が全就労者の60%と高いことだ(13年)。

気になる治安だが、世界の殺人事件発生率ワースト50都市に、メキシコから10都市が入っている。とはいえ、これらは麻薬組織の抗争が発生する都市に限られており、一般市民が巻き込まれることは少ない。殺人発生率で見ればメキシコは世界22位で、一方で交通事故死亡率は3位とむしろ交通事故が心配である。

3. 自動車産業動向
〜年間生産台数340万台〜

3つ目のテーマに移る前に、西尾さんはメキシコシティーにおけるUberやレンタサイクルの普及、現地の人向けの日本食レストランの展開等に見られる日本食の浸透など、暮らしにまつわるテーマについても解説。その後メキシコの自動車産業動向を話し始めた。

メキシコには複数の日系自動車メーカーが進出しているが、19年にはトヨタの新たな工場が稼働する他、フォルクスワーゲンやGMなども相次いで投資を発表しており、米国大陸の自動車工場としての地位を強固なものにしつつある。メキシコにおける15年の生産台数は340万台で、21年までには500万台に届くのではないかと予測されている。日系企業の生産台数も、メキシコ内の全生産台数の3分の1を占めている。輸出先は圧倒的に北米が多く、米国市場では14年以降、メキシコ製の自動車販売比率が、日本製を上回っている。

メキシコで製造するメリットには、安価な労働力や穏健な労働組合に加えて、46カ国との間に結んでいるFTAネットワークによるワールドワイドなサプライチェーンや輸出先の多角化が可能であること、また北は米国に隣接し、西と東に港があるため米州全域に向けて最適な輸送条件があることなどが挙げられる。ただし、安価な労働力とは言っても管理職給与は先進国並みである。

反対にデメリットは、電力価格や陸上輸送コストなどの割高な非労働生産関連コスト、裾野産業が発達していないために部品等の現地調達が難しいこと、不十分なインフラや煩雑な法制度などが挙げられる。

インフラに関しては強みと弱みが存在する。両岸に港があるもののキャパシティーが不足して通関がなかなか進まない。道路網も発達しているものの有料道路コストが高かったり、国内輸送は外資規制があり割高であったり、また輸送中の盗難も多発している。鉄道網は低コストだが、メンテナンス不足や貨車不足による低いキャパシティー、盗難リスクなどの懸念がある。

4. 日系企業進出動向 &
5. ビジネス環境

第4部の日系企業進出動向と第5部のビジネス環境については、データを資料として配布して駆け足で進められた。メキシコに進出している日系企業は2015年に957社に到達しており、12年の546社と比較すれば急速な伸びと言える。在留邦人も1万人に迫る勢いだ。この他、各エリア別の進出動向や、最近の主な進出・拡張投資事例の細かいデータも提示された。

メキシコのビジネス環境については、ジェトロが進出日系企業を対象として行ったアンケート結果を参照しながら、投資環境面、販売・営業面、財務・金融面でのメリット、デメリットが具体的事例と共に紹介された。世界銀行の「Doing Business 2016」の発表するビジネス環境ランキングによると、メキシコは世界第38位で、ラテンアメリカ諸国では1位である。同ランキングで日本が34位(16年)であることを考えると、メキシコでのビジネス環境はなかなか良いと言える。

最後にTPPが締結された際の影響にも言及。西尾さんは「日本とメキシコにはEPAがありますし、メキシコと米国に関してはNAFTA(北米自由貿易協定)がありますので、TPPによる影響はそれほど大きくないと予測されています」と述べた後、会場との質疑応答を行い、約2時間にわたるセミナーが終了した。

JBAとジェトロが共催した本セミナー。さまざま業種の企業から参加があった

JBAとジェトロが共催した本セミナー。さまざま業種の企業から参加があった

過去レポート一覧に戻る

新着レポート

3/1(Fri)
商工部会 外務省主催「2024年・在米日系人リーダー訪日プログラム(JALD)」壮行会を開催
3/1(Fri)
企画マーケティング部会「2024年JBA賀詞交歓会」報告
2/1(Thu)
企画マーケティング部会 第250回JBAビジネスセミナー「シリコンバレーから速報!~現地最新スタートアップ動向を探る~」報告
1/1(Mon)
企画マーケティング部会 第248回 JBAビジネスセミナー 「『データドリブンHR』データから導き出す効果的な意思決定と人材マネジメント」
11/1(Wed)
企画マーケティング部会 第247回JBAビジネスセミナー 「コンサルティングファームが実践する!デジタルマーケティング最新事例大公開」
10/1(Sun)
企画マーケティング部会 第246回 JBAビジネスセミナー報告「新型コロナウイルス関連の規制緩和の影響と日系企業におけるビザ戦略」
10/1(Sun)
企画マーケティング部会「第58回 JBAソフトボール大会」報告
9/1(Fri)
企画マーケティング部会 第245回 JBAビジネスセミナー報告「ChatGPTを乗りこなせ!最新AI技術の波に乗ってあなたの会社を次の次元へ」
9/1(Fri)
教育文化部会 「2023年度 USEJ プログラム報告会」
9/1(Fri)
「第29回JBA Foundation チャリティーゴルフトーナメント」開催
9/1(Fri)
商工部会 2023年度サクラメント訪問報告
8/1(Tue)
OC地域部会「第33回OC大運動会」
PAGETOP