JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2015/2/2

企画マーケティング部会 第178回 JBAビジネスセミナー「これだけは知っておきたい!米国人事労務管理の基本と実践」

第178回ビジネスセミナー去る12月5日、トーランスのリダックゲートウェイホテルで、第178回JBAビジネスセミナー「これだけは知っておきたい!米国人事労務管理の基本と実践」を開催した。アメリカの人事労務事情に精通する HRM Partners, Inc.の三ツ木良太氏が、日米間で大きく異なる人事労務管理に対する見方・考え方や、日常業務における人事労務管理との関わりなどについて解説した。

人事上のリスクの低減と生産性向上を念頭に

アメリカの人事労務事情は、法律面・慣習面共に日本と大きく異なる上、従業員による訴訟も多い。三ツ木氏は、冒頭で「不安を抱えながら部下と接したり、予期せぬ事態が発生したりすることを回避するためにも、人事労務に関して正しい知識を身に付けましょう」と参加者に呼びかけた。
 第1部は「人事労務管理に対する見方・考え方の整理」。三ツ木氏は、アメリカでの人事労務管理が困難である理由に、国の文化、歴史、法律、規制、慣習、価値観の違いなどを挙げた。また業種や職場環境が違えば、会社によって適用すべき人事制度は異なる。さらに雇用労働法は連邦法、州法、ローカル法などがあり、どれが会社に適用されるかは、従業員数で決まってくる。「人事制度や規定を導入するときなどは、必ず『リスク低減』と『生産性の向上』の側面から考えましょう」(三ツ木氏)。

従業員ハンドブックは最新の法律に基づき更新する

第2部は「日常業務における人事労務管理との関わり」について。三ツ木氏は視点として①仕事の分配、②勤務状況管理、③コミュニケーションの3点を挙げた。

①について、三ツ木氏は「アメリカではスペシャリストとして個人がキャリアを積んでいき職務や職責に応じた給与が支払われます。『部下が率先して仕事を探さない』『これは自分の仕事ではないからと決まった仕事しかやらない』といったケースが起こるのは、そもそもアメリカでの仕事の捉え方が日本と異なるからです」と話した。
 実際、アメリカでは「職種に対して考え直した」「予想していた仕事と違った」といった理由で退職を志願する新入社員は少なくない。実際の業務内容と従業員の認識とのミスマッチを完全になくすことは難しいが、そこで重要なのはジョブ・ディスクリプションを作成しておき、従業員に対して職務と職責を明確に伝えることだと話した。ジョブ・ディスクリプションとは、「あるポジションの職務と職責を規定した人事書類」のことで、仕事内容、必要なスキル・知識、学歴、能力などが定められたもの。三ツ木氏は、次の2点をジョブ・ディスクリプションに加えるよう強調した。「『職場環境と身体的要件』は必須です。特に身体的要件を明記しておくことで、採用時を含めて身体障がい者差別から会社を守ることが可能となります。次に『主要業務以外についてどうするか』です。中小規模の企業では『他担当への協力』や『ジョブ・ディスクリプションに個別具体的に記載のない業務でも上司の命令に基づいて実施する業務』があるため、それらを記載することが重要です」。

②の従業員の勤務状況管理については、「まず従業員ハンドブックなどの規程が整備、運用されているかを確認し、誰にでも一貫した対応をすることがポイント」と三ツ木氏。最新の連邦法や州法を反映し、古い場合はアップデートする。ハラスメントに関する取り決めは、5、10年前のものとは大きく異なるので要注意。昨今ではソーシャルメディアの使用についても注意が必要だ。また、他社の従業員ハンドブックをそのまま流用して、それが自社の実際の運用に合致していないときも同様に注意が必要だ。
三ツ木氏は残業についても言及。「Fair Labor Standard Act(FLSA・公正労働基準法)」という、残業代についての法律がある。カリフォルニア州は連邦法よりも厳しいが、連邦法では週40時間以上の勤務については、通常時給の1.5倍のレートで支払うことが定められており、また従業員には残業代を支払う対象かどうかを指す、Exempt(残業代支払い義務の適用除外)とNon-Exemptという区分設定がある。これは役職名ではなく、仕事の内容で決まる。例えば売り上げなど結果が求められる営業職はExempt、決まった時間にいてほしい受付担当などはNon-Exemptになりやすい。また、そのポジションに決定権があり自分で仕事を進めていける場合はExemptに、上司の指示を受けて仕事をする場合はNon-Exemptの可能性が高いと解説した。

③のコミュニケーションについて最重要事項に挙げたのは、差別、ハラスメント、セクハラへの注意だ。1960年代に誕生した「Equal Employment Opportunity(雇用機会均等法)」では、職場における人種や肌の色、宗教、出生国、性別による差別が禁止されており、現在はこれらに加えて性、障がい、市民権、軍役経験、年齢、遺伝的特徴が加わっている。近年では「上司や同僚が一人で発する不適切な言動が周囲に脅威や不快感を与える」「上司と同僚が交際をしており他者が不利益を感じる」など、直接嫌がらせを受けているわけではないが、結果として職場にハラスメントが発生している「第三者ハラスメント」の被害が増えてきているという。下品な言葉遣いや性的・宗教的な雑誌や画像、動画をオフィス内で共有するなどリスクの高い行為は避けるよう警鐘を鳴らした。また、万が一ハラスメントで会社が訴えられたとしても、それを理由に会社を訴えた従業員を解雇する等の「Retaliation(報復行為)」は禁じられている。なお、EEOC(Equal Employment Opportunity Committee・雇用機会均等委員会)によるデータでは、2008年までは会社を相手どった裁判の理由は人種差別問題が最も多かったが、それ以降現在までは報復行為が理由の1位となっている。

コミュニケーションと書面の記録でリスク回避

第3部では、「人事イベントごとに見る」として、人事考課、採用、注意・懲戒・解雇、問題解決について解説。アメリカでは、雇用関係が雇用者と被雇用者の自由意志に基づいて成立しているという考え「Employment at-will(随意雇用)」が存在する。これにより理由の有無にかかわらず雇用主側からも従業員側からも雇用関係を自由に解消できる。しかし実際は、さまざまな差別禁止法との関係で、解雇には細心の注意が必要だと指摘した。

「人事考課(従業員評価)はぜひ取り入れましょう」と三ツ木氏。従業員のパフォーマンスに対するフィードバックになる他、解雇及び人員削減などの決定を行う際の法的なバックアップとサポート資料にもなるからというのが理由だ。面談時の注意点としては次のようにアドバイスした。「評価は評価と割り切りましょう。建設的なフィードバックを行うには、『ほめる、注意する、ほめる』のサンドイッチフィードバックが有効です。バランスが大切で、否定から入っては従業員のモチベーションは下がります。改善してほしいときは理由もしっかり伝えましょう」。不当解雇や差別の訴訟において、従業員側の弁護士が最初に要求する書類の一つに従業員の人事考課結果がある。法的問題を回避するためにも、人事考課において従業員の会社での将来性や継続的な雇用、昇給などに関する約束は避けるべきとした。

続けて、採用時の注意点として、雇用申請書への記入を採用候補者に求めることを勧めた。「レジュメと違い、雇用申請書には『嘘、偽りがあった場合は採用の取り消しや雇用関係の解消を受け入れます』という欄にサインが求められるため虚偽申告ができません」。また面接時はリスク回避のために妊娠や年齢、出生など個人の属性等に関する質問は一切しない、確約できない口約束は絶対にしないことを強調した。

また従業員の職務状況に不満がある場合は、その程度にもよるが「Progressive Discipline(段階的懲戒)」を使うことも考えられる。アメリカにおいては、注意は罰を与えるということではなく、会社が従業員に対して改善の余地を与えることだと認識することが大事だという。そのため、段階を踏んで従業員に注意をするProgressive Disciplineという方法が有効になる。「日常の職務態度で気付いたことなど、とにかく全て文書化して記録を残してください。口頭注意した場合も内容を再度相手にメールで送り、『誰が、何を、いつ、どのようにしたか』の記録を残す。そして書面を交えれば言うことはありません」(三ツ木氏)。

三ツ木良太さん[講師]
三ツ木良太 さん
HRM Partners, Inc. パートナー。イリノイ州シカゴ生まれ。学習院大学卒業後、日本電信電話株式会社(NTT)、コンサルティング会社を経て、2009年よりHRM Partnersに在籍。日系紙『Weekly Biz』『Bi-Daily Sun New York』にコラムを連載中。

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