JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2015/7/10

第185回 JBAビジネスセミナー報告 「FCPAアップデート—最新事例、コンプライアンス、発覚時の対処法—」

去る7月10日、トーランスのToyota USA Automobile Museumで、第185回JBAビジネスセミナーを開催した。米国では昨今、外国公務員への贈賄行為違反によるFCPA違反での企業摘発が頻発。日本企業やその子会社にも非常に高額の罰金が科せられているという。そうした危機感から、大勢の日系ビジネスパーソンがセミナーに参加。FCPAの基本内容や最新事例、FCPA違反が発生しやすい場面などの詳説に熱心に耳を傾けていた。

正田美和弁護士[講師]
正田美和 弁護士
東京大学法学政治学研究科修士。在学中に(旧)司法試験に合格し、2004年から07年まで森・濱田松本事務所で弁護士として勤務。08年にシカゴ大学ロースクールLL.M.修了後、LAで執務を開始。現在はJenner & Block法律事務所でSpecial Counselを務め、数多くの日本企業を代理。

日本企業にも適用 FCPAの基本概念とは

講師の正田美和弁護士は、冒頭で、米国外の公務員に対する贈賄行為を禁止している「FCPA」(The Foreign Corrupt Practices Act、連邦海外腐敗行為防止法)違反行為に対しては、連邦司法省(DOJ)と連邦証券取引委員会(SEC)の両方が取り締まっていることを明示し、DOJは刑事責任を追及し、SECは主に米国で上場している企業に対して民事制裁を科することを説明した。

DOJが調査を開始した場合、司法取引による有罪答弁と引き換えに減刑を受けるケースがほとんどで、SECによる提訴の場合も同様に和解に至るのが一般的という。しかし、罰金額は非常に高額で、シーメンス社の8億ドルを筆頭に、アルストム社の7億7200万ドル、KBR/ハリバートン社の5億7900万ドルなど、中小企業なら簡単に倒産するほどの金額である。しかもこれら全てが減刑後の額という事実に、参加者らは驚きを隠せない様子だった。

FCPAで禁止されている具体的な行為は、「反賄賂条項」と「会計帳簿条項」に違反する行為である。「反賄賂条項」とは、事業の獲得等を目的として、外国公務員に金員やその他何らかの価値のあるものの提供の申し出やその約束、承認を禁止したもの。現金だけでなく、旅行や寄付金、ディスカウントチケット、クーポンなどの提供も禁じられ、第三者を通しての提供も違法となる。

この反賄賂条項は、米国内のあらゆる上場・非上場会社、米国市民、米国で行動する外国人にも適用される。もちろん日本企業の米国子会社も含まれる。特筆すべきは、贈賄に関連する行為が米国内で行われた場合は、外国企業であってもFCPAが適用されることである。「日本にある日本企業が中国で賄賂行為をしたとします。その行為が何らかの形で米国と関わっていた場合、FCPAの反賄賂条項が適用されます。例えば、米国のサーバーを経由して関連するEメールを送受信しただけのような、米国との関わりがほとんどないと思われる行為についても、米国政府はFCPAの反賄賂条項を適用して取り締まっています」。

一方、「会計帳簿条項」は米国で上場している企業のみに適応される。通常、贈賄行為が行われた場合は、それを隠ぺいするために正確な帳簿や記録、勘定書を保持しない。これを取り締まるのが「会計帳簿条項」で、通常は賄賂行為発覚後に「反賄賂条項」と併せて問題になるそうだ。

FCPAが問題になりやすい場面と 最近の事例

賄賂が横行するインドネシア・中国・中南米・アフリカなどでは、贈賄が事業展開に不可欠であることも多く、そのためFCPA違反のリスクも高まる。特に日本企業の米国子会社は、贈賄が横行している中南米での事業を担当していることが多い一方、米国子会社には法務部やコンプライアンス部、FCPAコンプライアンスに関するトレーニングがないことも多いため、正田弁護士は注意を促した。しかも、米国子会社が起こした贈賄行為については、米国子会社だけではなく日本の親会社が責任を問われることはよくあるという。

また、前述の通り間接的に賄賂が提供された場合でもFCPA違反になるところ、外国政府機関とのやり取りを代行するエージェントやコンサルタントらを利用する場合には、彼らが独断で贈賄を行うようなケースもあり、その動きにも注意が必要とした。このような場合でも、コンサルタントを雇った企業側に責任が及び、「第三者の行為について知らなかった」という抗弁は原則認められない。

最近の事例の中で正田弁護士が強調したのがレイン・クリスティンセン社の事例。同社は2014年10月にFCPA違反でSECに提訴され、2年間に及ぶ改善措置およびコンプライアンス措置の実施状況をSECに報告することが義務付けられたものの、調査への協力行為が大きく考慮されて、民事罰金の額が大幅に減額されたそうだ。具体的には、違反発覚と同時に外部弁護士や会計士を雇って内部調査を実施し、事前調査の結果をSECに自主的に報告した。また、関与した従業員を速やかに解雇し、世界中の事業全部についてリスク評価を実施。SECからの書面提供要請にも迅速に対応した。こうした事例を列挙した後で、正田弁護士は「違反行為が発覚した場合でも、全面的な協力姿勢を示すことで、被害を最小限に抑えることが重要です」と付け加えた。

FCPA対策としてのコンプライアンス・プログラム

コンプライアンスが連邦法や州法の遵守のために重要なのは当然だが、違反行為が発覚した場合に可能な限り会社を守るという観点からもコンプライアンスは重要と語る正田弁護士。FCPAの違反が発覚した場合、DOJやSECはその会社がどんなコンプライアンス・プログラムを遂行していたかを調査する。そして、モルガン・スタンレー社のように、適切なプログラムを遂行していたことを理由に、大幅な減刑を受けたり責任を問われずに済んだりするケースもある。つまり、コンプライアンス・プログラムは、予防法的な側面と、問題発覚時に追訴裁量や量刑軽減を大きく左右する側面の両方の観点から重要というわけである。

正田弁護士は、効果的なコンプライアンス・プログラムとして米国政府が必要としている次の7つの要素について説明した。
(1) 規程・手続 行動規範を策定し、会社としてのコンプライアンスに対する基本方針を明確に示す。また、犯罪行為防止・発見のための基準や手続き、懸念分野に関する特別な規程を策定すると共に、策定・修正や監査の記録も適切に保持する。
(2) 取締役会による監督・日々の責任 取締役会はコンプライアンス・プログラムの運用について十分理解し、同会からのトップダウンとして正しく遂行する。また、コンプライアンス担当役員を設置して、取締役会に直接報告できるようにしておく。
(3) 雇用前・利用前のデュー・ディリジェンス
雇用前に役職に応じたバックグラウンドチェックを行う。コンサルタントやエージェント、ディストリビューターなどの第三者についても、利用前に適切なデュー・ディリジェンスを行い、不正行為を行わないことを誓約する条項を規定した契約を書面で締結しておく。また、デュー・ディリジェンスを行ったことの証拠を残しておく。
(4) トレーニング 社員全員を対象としたトレーニングを実施する。適切な言語で実施することが重要で、例えば中国で働いている従業員に対して日本語でトレーニングしても無意味とされる。また繰り返し実施し、その記録を残しておく。
(5) モニタリング・監査、報告 特にホットラインを設置するなどして匿名報告を可能にすることが重要。報告者に報復をしてはならず、内部通報者を保護する。また、時々監査を実施して問題がないか点検する。
(6) 奨励・懲戒 違反行為を犯した社員を速やかに懲戒にする一方、できればコンプライアンス・プログラムを遵守する者や犯罪を報告した者に対してはボーナスなどの特別報奨金を支給する。
(7) 対応・改善 FCPA違反が発覚した場合には、直ちに独立した内部調査を実施して、改善措置を講じる。政府による調査がまだ開始されていない場合には、政府に自主的に報告するか否かを判断することが必要となる。他方、政府による調査が既に開始されている場合は、減刑を受ける代わりに有罪答弁を行って政府の調査に協力するか否かを判断することになる。

FCPA違反行為が発覚した場合の対応

上述のように、FCPA違反が発覚した場合には、直ちに独立した内部調査を実施し、徹底した改善措置を講じて、政府による調査に対して「確かに過去に問題行為があったが、既に改善措置が取られており、同じ問題は再度発生しない」と言えるようにしておくことが重要としてセミナーを終えた。

FCPA違反を防止するためのプログラムや違反と疑われた場合の具体的対応など、貴重な情報が多く提供された。

FCPA違反を防止するためのプログラムや違反と疑われた場合の具体的対応など、貴重な情報が多く提供された。

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